幼馴染みとたぬきとお守り

黒本聖南


 幼馴染みと学校帰りに某ファストフードに行った時のこと。

「……武蔵野って何だろう」

 先に注文を済ませて席を取っといてくれていた幼馴染みが、スマホを見ながらそんな風に呟いた。

「武蔵野?」

 僕が訊き返すと「そうそう武蔵野」と言いながら、僕のフライドポテトを何の断りもなく摘まんでくる。他の人だったら何すんだよとか言ってたかもしれないけれど、どうせ二人で食べるつもりで一番大きいサイズを買ってきてたから、別にいい。

「ほら私、文芸部に所属してるじゃない? 今度発行予定の部誌のテーマが武蔵野らしいんだけどさ……」

「あんまり馴染みがない?」

「うん……だからちょっと思いつかないんだよね、どうしようかな」

 幼馴染みはナプキン二枚をテーブルに敷いて、スマホをいじる時、ポテトを食べる時、それぞれ使い分けて指を拭っていた。どちらかに統一するつもりはないらしい。

「……」

 武蔵野、か。

 そういえば昔、じっちゃんにいきなり言われたな、武蔵野に行くぞって。

 あの時行ったのは……。

「じゃあさ、三鷹に行かない?」

 僕の言葉に、ゆっくりと顔を上げる幼馴染み。

 いつもは丸く開かれた目が細い。

「三鷹って、昔おじいちゃんと行った所だよね?」

「……そう、だけど」

「……別の所がいいな」

 え、別?

 別って言われたら、僕もスマホ見ないとだな。

 鞄からスマホを取り出そうとして、また、幼馴染みの呟きが耳に入る。

「……だってそこは、おじいちゃんとの思い出の場所じゃない」

 ……ん?

 顔を上げて幼馴染みを見ると、彼女はスマホを見たまま。

 だけど心なしか、ほっぺが赤いような。

「……」

「あ、そうなの!」

 声を上げて僕に自分のスマホを見せてくる幼馴染み。

 その画面には、地図の一部みたいなものが表示されている。

「武蔵野の範囲ってどこからどこまでなのか調べたのね、そしたらその中に、上野も入ってるみたいなの」

「パンダのいる所?」

 頷く幼馴染みはスマホを引っ込め、今度は身を乗り出す。

「今週の土曜か日曜、どっちか空いてる?」

「……土曜はじっちゃんとの約束があるから無理だけど、日曜なら……てか、僕も行くの?」

 幼馴染み一人で行くのかと思った。

「だ、だって……ほら! 私の作品の扉いつもケンちゃんの写真使わせてもらってるじゃんだからっ……だから今回も、一緒に来て、写真撮ってよ」

 じっと僕を見ながら頼んでくる幼馴染み。

 そういえば毎度そうだったな。

 他の人は美術部や漫画研究会に扉絵を描いてもらってるのに、何故か幼馴染みは僕の写真を求めてくる。

 そこまで上手い写真じゃないのに、物好きだなぁと思うけど、うん、悪い気はしない。

「分かった、じゃあご一緒させてもらおうかな」

「……! やった! 日曜ね!」

 幼馴染みはすごい喜んでくれている。

 そんなに僕の写真が好きなんだなと思いながら、僕も遅ればせながらポテトを摘まむ。

 ……あ。

「というか音豆ねずさん、もう中学生なんだからケンちゃん呼びはやめてっていつも言ってるよね」

「今は二人なんだからいいじゃん。ケンちゃんだって私のこと、昔みたいにあーちゃんって呼んでいいんだからね」

「ぼっ、僕はいいよっ!」


 結局、日曜日に二人で上野には行けなかった。

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