メロンクリームソーダ
夏がやって来る。
父の生家の縁側で、茹だるような夏の暑さに身を浸す。
涼を求めて、硬く冷たい栗の木の床板に、大の字で寝転ぶと、外へと投げ出された足だけが、じりじりと夏の太陽に焼かれた。
遠くに見える山は黒々と盛り上がり、その上には入道雲が湧いている。
強い光線にさらされた、白く大きな塊は、雲だというのに、やたらとはっきりとした輪郭を持ち、もりもりと、たくさんくっついている雲の瘤は影を作って、他に例えようがない立体感を醸し出す。
りん、と風鈴がざらついた音を鳴らすが、ちっとも涼しくなりはしなかった。
そこには、私と夏しか居なかった。
それが私の夏の原風景である--
さて、今の私はというと、やれ最近の夏は暑いだの、アスファルトの照り返しがきついだの、日焼けしたくないから長袖を着なきゃだの、この暑さはいつまで続くのか! だの、尽きぬ夏への怨嗟を滔々と、寒いくらいに冷房の効いた涼しいカフェで、友人と語り合う。
そして、メロンクリームソーダを頼むのだ。
これが今の私の夏である。
メロンソーダはエメラルドをそのまま溶かしたかのように鮮やかに光り輝き、柔らかなアイボリーホワイトのヴァニラアイスクリームは、確かな神々しさをまとって、てっぺんに黙して鎮座する。
メロンソーダをひと口飲めば、喉でじゅわりと波が砕けて、火照った体が冷えていくのを感じる。
波が引いたら、アイスクリームをひと口。
冷たいのに、口に広がる甘さと舌触りは確かに温かく、心がほっと軽くなる。
夢中でアイスをほじる手を止め、ふと、引いた目線で見てみれば、その配色に、幼い頃見た景色の面影を感じ、私の意識は、あの夏へと帰っていった。
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