お父さんお母さん

バブみ道日丿宮組

お題:近い暴力 制限時間:15分

お父さんお母さん

 血を吐くというのは日常的で、切り傷がなくなるということはなかった。

 弟を守るためにも、私はお父さんからの暴力を耐え続けなければならない。それが肉体関係を持つようになったとしても変わらない。

 ……私が弟を守るんだ。

 ホントであれば、家を出たい。今すぐ弟と一緒に逃げ出したい。

 けれど、私たちには財産というものはない。

 莫大な資金を持ってたお母さんの遺産は、全部お父さんにいってしまった。

 お小遣いらしいものはもらえてないが、お酒代、タバコ代として余分にもらってはいる。それで弟の欲しい物を買ってあげたり、服を整えたりしてる。

 私のわがままは何一つとして、実現することはない。

 毎日のように吐き出される体液のために、飲みたくもないものを飲んで、お父さんの子どもを身籠らないようにしてる。

 お金があるから、お父さんは会社を辞めて家に居続ける。学校からすぐに帰らないと、憤怒を激しくする。弟はご飯になったら、帰ってくるようにいって、私はされるがままでいた。

 きっとこれは他人にどうこうお願いができるようなものじゃないと思う。

 幼馴染や、友だちがそうなってしまえば、私が耐えられない。何かを返すってこともできない。助けを呼ぶことだってできない。

「ずっと包帯してるけど、大丈夫?」

「う、うん。料理が上達しなくてさ」

 嘘のつき方は上達した。

「そっか。でも、調理実習のとき、誰よりも上手だったような?」

「それは……」

 そうだ。以前から身につけてたものは隠しきれない。

 それは自分を否定するかのようで……嫌だった。

「難しい料理に挑戦してるんだ」

「そうなんだ。今度食べさせてよ」

「う、うん。わかった」

 それは叶わない夢だった。

 弟のお弁当は色とりどりだが、私のはほぼ白。具なしといってもいいぐらいなものだ。

 友だちはダイエットと思ってるらしく、たまに野菜をくれたりする。

 本当に優しい人ばかりだ。

 どうして、お父さんはそうならなかったんだろう。

 お母さんが生きてた頃は、優しかったのに……何がお父さんを変えたんだろうか。

「あ、また男子に見られてるね。ほんと人気者なんだから」

「包帯が気になってるだけだよ」

「そっかなぁ。スタイルいいから、邪な視線だと思うけどね」

 邪。

 そうかもしれない。

 私の身体がいけないのかもしれない。

 でも、それはどうすることもできない。

 お母さんはそうでもなかったのにな。

「……」

 空は何も答えてくれない。

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お父さんお母さん バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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