ストレスないない

シヨゥ

第1話

「君はストレスがなさそうでいいな」

 学食で先輩から話しかけられた。

「そうなんですか?」

「自覚がないときたか。今は何をやっているんだい?」

「この学食で一番安いランチをどれだけおいしく見えるように撮影できるのかに挑戦しています」

「意味は?」

「ないです。ただちょっと思い立っただけです。やりたいと思ったらやる。それがマイルールなもので」

「やらなかった後悔であれこれ考えてストレスを抱え込むよりはよさそうだ」

「でしょう?」

「成果はどうなんだい?」

「ぼちぼちです」

 スマホを見せると先輩は興味なさそうにタップする。

「この写真まだ消していないのか」

「ああすみません! 消すのを忘れていました! すぐ消します!」

 先輩の隠し撮りに挑んだ時の記録が1枚だけ残っていたようだ。それを突き付けられて慌ててスマホを奪おうと手を伸ばす。

「あああ!」

 結果、手が滑ってスマホが小ラーメンの中に落ちた。

「早く拾え!」

 素早く拾い上げたからスマホ自体は壊れてなさそうだが、画面は油まみれネギたっぷりである。

「ほら台ふき。ないよりマシだろう」

「ありがとうございます」

 鞄からポケットティッシュも取り出して丹念に噴き上げる。

「そうやって取り繕わず、感情を表に出すこともストレスを抱えないコツなのかもな」

「……もしかして先輩、ボクを観察しています?」

「どうだろうな」

 明言せず先輩は立ち上がる。

「まぁストレスに関する卒論を書こうとは思っている。とだけは伝えておこうか」

「なんかこの1年胃に穴が開きそうな気がする」

「お前ならそうならないよ。そう信じてるよ」

「やっぱり観察対象じゃないか!」

「まぁよろしく!」

 そういうと先輩は颯爽と去っていく。

「説明ぐらいしていってくださいよ! ってもう遅いか。まぁその時はその時と思うしかないか」

 とりあえずどさくさに紛れて消さずに済んだこの大あくび中の先輩の写真は別のところに保存しておこう。なにかの交渉材料には使えるはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ストレスないない シヨゥ @Shiyoxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る