「俺に任せろ」と宣言し死ぬ予定のモブに転生した俺は、逃走することを決めました~絶対安全な天空の城でのんびりと暮らす……ために最強装備を漁ります~

うみ

第1話 死の運命を回避せよ

 何となく手持ち無沙汰になった時、ふと昔遊んだゲームをやりたくなったことはないだろうか?

 埃を被っていた懐かしいゲーム機を繋いで、電源をポチっと入れるとウイイインとした機械音が響きモニターが光る。

 入れっぱなしだったゲームが起動しタイトル画面が映りこむ。

 「天狼伝」か。超懐かしい!

 キャラクターは中華風なのに、敵キャラが西欧ファンタジー風という変わった構成のアクションRPGだったかな。

 

 缶ビールをぷしゅーっと開けて溢れ出る泡を吸い込みながらコントローラーを手に取る。

 青系の中華風民族衣装に身を包んだ短髪黒髪の少年が俺の操るキャラクターだ。名前はティエンランでこの時代のゲームにしては珍しく名前を変更できない。

 確かティエンランは天狼って意味で、ゲームのタイトルにもなっているからだろうな。ティエンランじゃなくなるとタイトルが変わってしまう。

 

 少年ティエンランは育った村からモンスターを討伐するバスターになるべく旅立つ。お約束というか何というか、幼馴染の美少女が彼に無理やりついてくるのだ。

 また、もう一つのお約束も忘れてはいない。いろんなタイプの女の子が彼の仲間になり、時にキャッキャしながらゲームが進む。

 冒頭の旅立ちのシーンで少年はキリっとした顔で「バスターはモンスターを討伐する奴らのことなんだぞ」なんて幼馴染に言うのだが、「連れて行きますか?」の選択肢で「いいえ」を選ぶとループして「はい」を選ばないと話が進まない。

 

「はいはい。どうぞどうぞ」


 モニターに向かってやれやれと呟く。

 自動で画面が進み、新米バスターらはパーティを組む。初のモンスター討伐ということで、たまたま依頼を受け付ける施設にいた熟練バスター「ロンスー」も付き添うことになった。

 ロンスーは裸ジャケットに長い帯を巻いたズボンスタイル。装備武器はサイという変わったもので、結構凝った作りをしているのだ。

 「後から仲間になったりするのかなあ」なんて初めて見た時は期待したさ。貴重な男キャラクターであることも期待を膨らませた大きな要因だ。

 そんなわけで、主人公ティエンランと幼馴染、新人のお団子頭の少女と筋肉モリモリの好青年の四人に加え、お守に熟練バスターという構成で初の討伐クエストに向かった。

 ロンスーが助けに入ることもなく、無事討伐を終えたティランラン一行。

 テクテクと大自然な中にある獣道を進んでいると突如音楽が代わり、空を舞う青い金属光沢を持つ竜が映し出される。

 この竜は中華風の細長い形ではなく、西洋風のどっしりとしたドラゴンタイプだ。

 竜は口から炎のブレスを吐き出すと、哀れ新米バスターの一人である好青年が悲鳴をあげて黒焦げになった。

 来るぞ。あのシーン。

 

『俺に任せろ』


 前に出たロンスーが渋く決める。

 戸惑いつつも逃げ出す主人公らだったが、お団子の少女が躓いて転ぶ。立ち上がろうとするが腰が抜けたらしく、動くことができないでいる。

 我らが主人公ティエンランは彼女を助けに引き返す。

 そこへ、竜のブレスが迫る!

 しかし、ロンスーが華麗にサイを振り回しブレスを弾き飛ばした。

 

『大事ないか?』

『ぐ、今ので足が……』

 

 情けないことにブレスにビビったティエンランは足を捻ってしまったのだと悔しそうに語る。

 腰を抜かしたお団子の少女とひょこひょこと足を引きずる主人公という足でまどいを抱えてしまっては、逃げることもままならない。

 逃げてもすぐ追いつかれるとでも判断したのか、ロンスーの覚悟を決めたらしい顔がアップで映し出された。

 激しい戦闘が繰り広げられるが、主人公とお団子頭は見守るのみ。操作を受け付けないんだもの、どうしようもないよね。

 イベントシーンってのはこんなもんだ。

 「がんばれー。ロンスーさん」と結果が分かっているが心の中で彼を応援する。

 

『ぐ、ぐうう。一筋縄ではいかんな』


 カッコいいセリフを吐いたロンスーは捨て身の一撃を竜に喰らわせた!

 竜の右の翼と右後脚が切り裂かれ、ぐぎゃああと竜の凄まじい咆哮があがる。

 一方のロンスーは竜の反撃によって致命傷を受け、力尽きた。

 正直、ロンスーがこの青い竜にそれなりのダメージを与えたことが驚きなのだよな。

 彼の決死の一撃を受けた竜は、青龍と呼ばれる最強の四神の一柱であることが後に分かる。有り体に言うと、青龍はボスの一匹ってやつだ。

 そんな竜こと青龍だが、ロンスーから受けたダメージが大きかったのか傷ついた翼で空へと舞い上がり去って行く。

 ここでティエンランたちを青龍が仕留めていれば、とか言っちゃあいけない。

 主人公一行と宿命のライバルの出会いなのだから。

 他にも突っ込みどころ満載だよな。雰囲気たっぷりで出てきて即退場したロンスーはまだマシな方で、パーティに加わった青年なんて見せ場もなく黒焦げだぞ。

 名前も適当さが酷い。ロンワンなんだよね。はは。


「む」


 もうビールが空になってしまった。

 ちょうど長い長いオープニングが始まったし、缶ビールだけじゃなくつまみも欲しくなったところでコンビニに繰り出すとしようか。

 

 ワンルームアパートの一人暮らしだし、気兼ねなく生活できるのはよいところだ。明日は休みだから、寝落ちするまで天狼伝を進めるもの一興よのお。

 アルコールの回った深夜テンションの俺はジャージ姿のままサンダルを引っかけガチャガチャと部屋扉を開けた。

 

「あ、しまった。鍵忘れた……え?」


 アパート、ボクハ、アパートの一階にイタ。

 予想外ってものじゃ生ぬるい光景に自分の心が壊れそうになってしまった。

 扉を開けたら大自然。舗装さえされておらず、公園の中というには木々が大き過ぎ、雑草が我が物顔でそこらかしこに生えている。

 そして何より、空に巨大なドラゴンが浮かんでいた。

 不思議と恐怖は感じない。

 メタリックブルーの鱗に牙の並ぶ大きな口、体を包むほどの大きな翼と帯電しビカビカと光る頭から生えた二本の角……。

 光に反射する鱗は金属光沢も相まってピカピカの新車のようにも思えてくる。

 へえ、リアルで見たらこんな感じなんだあ。青龍って。青龍って名前なのに西欧風のドラゴンタイプなんだよな。

 え? 青龍!?

 待て待て待て。

 自分が賢い方だとも頭が回る方だとも思っていない。だけど、現実と空想の区別くらいはつく。

 全長15メートルを超える巨大生物なんて地球上に存在しないし、ましてやバーチャルリアリティーなんてことも絶対にない。

 バーチャルスコープどころか眼鏡さえ装着していないからな。

 と考えつつもつい手が自分の目のあたりに伸びる。

 え、はれ。

 これ、俺の手じゃない。指ぬきグローブなんてダサいものは持っていないし、手の形が俺のものとは違う。

 ガシガシと頭をかくと裸の上からジャケットを羽織っていることが分かった。

 髪の毛が長いし、髪色もエキセントリック過ぎる紺色じゃないか。

 メタリックブルーのドラゴンに裸ジャケットの俺……ここから導き出される答えは――天狼伝ゲームに他ならない。

 ドラゴンが青龍で俺は儚く散ったロンスーか。

 まさか先ほどまでプレイしていたゲームに酷似した状況が現実になるとは、夢だと信じたいがそうではないと直感が告げていた。

 ここまで独り言をしてから僅か五秒。

 

 青龍の口元にチリチリと炎が浮かんできた。

 まずい!

 

「ロン……ロン! 伏せろ!」


 右斜め前方で巨竜に圧倒され見上げるだけだった大柄な青年に向け叫ぶ。

 必死だったので、ロン何だったか名前が思い出せなかった。

 

 俺の声でハッとなった青年が屈もうとした時、熱風が肌を撫でる。


「く……」


 青年の胸から上が黒焦げになってしまった。

 凄惨な光景に膝を付きそうになるが、青龍がこちらにターゲットを移さないわけがない。

 両手で口を抑える黒髪の少女、何が起こったか飲み込めていないツンツン頭の少年、口を開いたまま固まるお団子頭の少女とこの場にいる者もゲームと一緒だった。


「ロンスーさん……」

「俺に任せろ」


 掠れた声で俺の名を呼ぶ少年……ティエンランに口端をあげ応じる。

 俺がロンスーなら、名セリフを彼に告げて当然なのだけど、俺はロンスーであってロンスーではない。

 だけど、ロンスーの体が魂に刻まれた言葉を告げてしまったのだ。

 青年は死んだ。だけど、ゲーム内では全身黒焦げだったのが、胸から上だけになった。

 物語ストーリーは変えることができる!

 だから俺は――。


※少しでも気になりましたら、ぜひぜひフォロー、評価お願いしまっす!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る