第2話

少年の友人である暁は、その惨劇から2日後に帰還した

従姉に呼び出され不在だったところを狙われたのだ



「…なん、だよ…これ…!」



友人は走り出した

血痕が続く道を走り抜けて桜並木を通る

そして頂上に到達し、少年と共に桜へ体を預ける少女を見つけた



「…こんなところに、女の子…?一樹!」



友人は少年に駆け寄り肩を掴んで揺すった



「おい一樹!ここで何が起きた!?あの血の海はなんだ!?」


「…うるさい。なんなの」


「あ…すまない。ちょっとこいつに用があって…」


「…見てわからないの?」



少女が言う

ハッとして友人は少年の中を覗き込んだ

本来なら見える魂魄の核が、ない



「…は……?」


「死んだの。貴方がいない間に、私の愛した死神は死んだ」


「…なん、で…?そもそもあんたは…」


「…私はこの桜の精霊。死んだ理由は、処刑されたから」



淡々と答える少女に戸惑いつつ、後から追いかけてきた別の少女に目を向ける友人



「霊くん!」


天音あまね…。一樹が…」


「…!」



天音と呼ばれた少女が一樹に駆け寄り手首に触れ瞼を開き、額に手を当てた



「…死後2日、ってとこかな」


「そんな…俺らがここを出た翌日だぞ…?」


「…私は貴方たちを知ってる。よく、一樹の話に出てた幼馴染と親友」


「私幼馴染なのかな…」


「親友なんて、あいつ一言も…」


「…そう。なら忘れて」



冷たく言い放つ少女

友人が詰め寄ろうとしたが天音───幼馴染がそれを止めた



「…一樹が処刑で死んだなら、なんで國の人も死んでるの?」



幼馴染が問い詰める

すると少女が立ち上がり、右手を幼馴染に向けて軽く握った



「おいで、夜叉姫やしゃひめ



少女がそう言うと、少女の手の中に刀が現れた

あの惨劇で使われたものだ



「…っ!」


「これ以上、私と一樹の邪魔をしないで。殺すよ」



目が赤く染まった少女を見て後退りする友人と幼馴染

それぞれの手に黒い帯が巻き付き、帯が解けた下から黒い手が現れた

爪が長く、彼らの手より一回り大きい。彼らが牙装と呼んでいるものだ



「…そう。なら、2人は敵」



居合いの構えをとる少女

その攻撃を防ぐために牙装を構えた友人と幼馴染だったが、すぐに構えを解いた

少女が倒れたのだ



「…もう,限界…なんだ…」


「お、おい…?大丈夫か?」


「…私はもう、動くことができない」



少女は何とか桜の木に寄りかかり、2人を眺めた



「本来、私はここから動けないの。けどその時は,無理矢理下に降りてみんな殺した。だから、もう体が限界」


「天音!」


「霊体診断!」



駆け寄って伸ばしてきた幼馴染の手を振り払い、2人を睨む少女



「…許さない」


「は…?」


「貴方たちがいたら、一樹は死ななかった」


「それは…」


「…そう、かな」


「…でも私は、貴方たちが羨ましい。いつも一樹と一緒にいたなんて。むしろ、恨めしい」


「なんでそうなるんだ。まぁ、天音が幼馴染だからよく一緒にいたけどよ」


「…だから、約束」



少女は笑った



「…もし、一樹がこの世界に戻ってきたら、私も戻ってくる。けどそれまで、一樹を守って」


「…!ああ、わかってる。ハナからそのつもりだ」


「とーぜんだよ。ちゃんと帰ってきてよ?」


「一樹が、いたら戻る。だから今は、さよならね」



目を閉じた少女の体が薄れていく

散らないと言われた桜の花びらが散り始め、友人と幼馴染に降りかかり始めた



「待て」


「…なに?」


「一樹はさよならなんて言葉は好まない。だから、またな」


「またね」


「…そう。本当に,恨めしい。また、ね」



少女の体が完全に消えた

桜の花びらが散り終えるまで、2人はその場を離れず見守った

彼女がまた、ここで一樹と会えることを祈って









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幻想少女の恋煩い Remake 本条真司 @0054823

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ