第88話
「さっきから人が優しく接していれば…ずいぶん舐めた口をきくものだ」
あれで優しく接したとか本気で言ってんのかこの男は?
「それもまあお互い様では? それと世の中を舐めている人間と言う意味なら貴方には負ける自信がありますね」
私が言葉を発した瞬間に黒山の右手に紫色と黒色を合わせたような炎が出現した。
スキルか。
どうやらこの男もダンジョンに入ったことがあるみたいだな、探索者をしていたかまでは分からないが。
「これが私が持つスキル『
「それはまたすごいですね、色んな意味で…」
まるで中二病の願望を再現したかのようなスキルだ。
「当然だ、これだけのスキルを当たり前の様に手に出来ている、分かるか? 私は常に選ばれた存在なのだよ。単なる運だけで『ダンジョン』なんてものを手に入れた人間とは違うのだ」
一体何が違うんだろう。
スキルなんて何を手に入れられるかなんて結局は運だけじゃないかな、少なくとも最初に手に入るやつは。
「それで、そのスキルが一体どうしたって言うんですか?」
「君は少々私を怒らせすぎた。私が1人でいる今なら自分への実害がないとの思ったのだろう?」
「随分と物騒な話をしていますね」
「私が用があるのは君じゃなく君のダンジョンなわけだ、君の身に多少の損傷があったところで何の問題もないんだ。少しばかり人間としての格と社会の上下関係というものを教えてあげようか無職君?」
「………はぁっ」
呆れた私はため息を一つついた。
本当にこういうバカってやつは…まあ『ダンジョン』というスキルを持つ私だって似たようなものか。
直接的な攻撃スキルではないが使い方によっては簡単に人の命を奪わえてしまう、そんなスキルを持ってしまった側だからな。
実際にそれを利用して人を脅したこともあるわけだしね。
そういう意味じゃこの黒山と似たような部分もある人間なのだろう。
違うところがあるとすれば、この男は本当に自分の身勝手な理由一つのためにそれをして。
私の場合は私自信も含めて周りにいるみんなの身の安全を守りたいのが理由だという違いだろうか。
「……なんだ今のため息は、舐めているのか?」
「それは……お前だ」
「………何?」
「組織と人間を使って人を追い詰め、苦しめて。その次はスキルを使って人を襲おうとする…本当にどれだけの愚行を重ねれば気が済むんだ?」
「もういい………とりあえず両足からだな『呪炎』!」
黒山が放った炎が私に迫る。
「……ダンジョンゲート」
私の足元に円形のダンジョンゲートが出現した。
次の瞬間、黒川が放ったスキルは一瞬で消滅した。
「バカなっ!?」
驚愕する黒山だ、私は不敵に笑う。
「ふんっ驚いたか」
「貴様、一体何をした!」
「説明をする義理があるか?」
以前ハルカがダンジョン内は私たちの許可がなければ私が敵と認識した侵入者は全てのスキルを無効化されると話した。
実はそのダンジョンの領域というものはこのダンジョンゲート自体も指すのだ そうだ。
つまるところこのダンジョンゲートが出現している領域もまたその気になれば相手のスキルを無効化できる領域ということらしい。
そして私がこのトイレという場所でわざわざこの男を迎え撃った理由がここにある。
「ふざけるなぁあっ! 最早ダンジョンなどどうでもいい、お前は八つ裂きにしてやる!」
「先程から物騒な言葉ばかり五月蝿いぞ、しかしその考え方はある意味間違ってはいないがな」
「なんだとっ!?」
「むしろ遅すぎたんだよ。お前はここに私が来た時点でもう詰んでたからな」
私はダンジョン ゲートを拡張した。
私の意思に従い私の足元のダンジョン ゲートがより広範囲に広がっていく。
ダンジョンゲートの領域はこのトイレ全体に広がっていた。
今の私にはこれが精一杯だ、だからこそここで黒山を迎え撃ったわけさ。
黒山はさっきから両腕を構えているがもうスキルは発動しないよ。
焦り、業を煮やした黒山は今度は何かの拳法っぽい構えを取った。
「上等だ、私はこれでも古武術をおさめている男。お前程度の人間この拳だけで 叩き伏せてやる!」
「……そうか」
私は数歩を踏み込んだ。
黒山は私の動きをほとんど認識できていなかった。
私はまずその無防備なお腹に拳で一撃を加えた。
「ぐはぁあっ!?」
黒山は苦しそうに呻き声を上げてお腹を押さえて両膝をついた。
「そんな…全く見えな…」
「ああっすまない、私も正直に言うとあまり手加減をするつもりはないんだ」
この作戦を実行する前にハルカに教えてもらった話なのだが、どうやら私自身もハルカやアヤメみたいにダンジョンが成長したことでちょっとばかし身体能力が上がってるそうだ。
どれくらいかというとこの古武術がどうのと抜かしていた黒山程度の人間だったら何人にいても無力化出来るくらいである。
まあ仮に達人クラスが何人いても瞬殺なのは変わらないけどね。
なんかどんどん人間離れていくな~としみじみ思う私だ。
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