第87話

 さてやると決めたのであれば行動を起こすまではスピードが大事である。

 いちいちヤツに会うためにアポの取るつもりもない。


 そもそもそんなことやってたらどうせ仄暗い人脈を持つ黒山のことだ、絶対なんか良からぬことをしてくるだろう。


 そこで私はハルカに頼んで彼女のスキルで奴の居場所を速攻で特定し『瞬間移動』で送ってもらうことにした。


 もちろんタイミングを狙ってである。

 黒山が1人になるタイミングを狙う、というわけでそのタイミングを狙って待つことしばらくは普通にダンジョンでゴロゴロ過ごした。


「……今なら行けるわ」


「それじゃあ頼む、ハルカ」


 『瞬間移動』を使ってもらい突撃である。


「すいませんがここで話をさせてもいいですか?」


「いやっよくはないよ…人がトイレをしてる時に何を考えてるんだ君は」


 そうっ黒山が1人になる時、それはトイレである。

 小さい方だった。

 確かにタイミング的には一番悪いのだが仕方がない。


 コイツマジで1人になるタイミングがないんだもん、いつも誰かと会ってるかボディーガードみたいな黒服の人がいた。


 どんだけ自分が狙われてると思ってんだ、どこぞのVIPとかでもないくせにさ。


「すいませんがこちらとしてもこの話はさっさと片をつけたい、なにしろ時間の無駄ですのでもうここ終わらせたいんですよ」


「……なんだと?」


 自分とのあれこれの時間を無駄だと暗に言われたことが腹に据えかねたのかかなり不機嫌そう。

 ちょっとした挑発のつもりだったがしっかり釣れてくれて助かるな。


「まずっ以前の貴方からの話ですか、全てお断りします」


「……全く、目の前にぶら下げられたニンジンが餌かどうかも分からないくらい 無能だったのかな君は?」


「確かに私に特出した能力はありません。ですが私のダンジョンの価値が月々100万なんて言うことは有り得ないと断言できますね」


 私の返答に黒山は心底下らないといった態度で返事をした。


「たかがダンジョンを一つ手に入れただけで社会の底辺が随分と慢心したものだ。君について少し調べた、三十で無職、つまりはただのプー太郎だ。違うかっん?」


「………………」


「いいか、ダンジョンなんて言うのは我々人類が発展するための資源を得る為のただの道具なんだ。そんなものを一つに入れただけで、社会的な立場もなければ権力もコネもない。そんな人間がこの私とまるで対等かそれ以上の存在かのような口を聞くだと? 呆れてものも言えないと言っているんだ」


 ……はあっ何を言い出すかと思えば。


「そのダンジョンがあって初めて成り立つような組織で、しかも親の七光りで大きい顔をしている人間が、どの口で戯れ言をっという話ですね」


 私の言葉にこちらを見下すような笑みを浮かべていた黒山の表情が再び苛立ち へと変わる。


 事実ダンジョンがなければ存在すらしない組織であぐらをかいているようなヤツには本当の事だけによほど癪に触ったのだろう。


「それと…もちろんあのような人間を使っての妨害行為というものも、二度としないでください。今回はこちらが見逃してあげます、しかし次からは容赦はしませんよ?」


 わざと譲歩した発言をする。

 こちらが見逃してあげると言われるとプライドだけの人間はのってくるもんさ。


「……あのような人間? 一体何の話をしているのか私には分からないな」


「…………そうですか、私は言うことは言ったので。これで失礼します」


「待ちたまえ」


 背を向け歩き出そうとした。

 黒山が再び呼び止める為に声を大きくした。

 私が振り向くと殺意を込めた瞳をこちらへ向けている黒山だ。


「私の方からも忠告しておこう、今後は君だけではなく周りの人間たちすらも更に危険な目や不幸な目にあう可能性をちゃんと考えておくようにな!」


 既にうちの高校生探索者に実害が出ているのだよ。

 そちらこそこの場で私にどうこうされる可能性をちゃんとかんがえて言葉を口にしろ。


「……私は今、そのようなことはするなと貴方に命令したはずですよ?」


「私は可能性の話をしてるんだよ…いやっそもそもこの私に命令だと? 貴様は本当に元社会人なのか、身の程と言うものが分かっていなさすぎるな」


「何分もう八割方は社会というものから抜け出している人間ですので貴方の様に組織の後ろ盾や根回しがなければ人とまともに会話もできないような人間とは違うんです」


 私の言葉に黒山の表情が消えた。

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