第83話

 私たちはダンジョンセンター内にある喫茶店の一つに入った。

 ダンジョンセンターにはこうやって食事をとるような施設がいくつも中に入っているのだ、コンビニも然りで他にも医療施設、あとは本屋とかも入っている。


 まるで駅みたいだ、おっと今はそんな話はどうでもいいだろう。

 問題は私の前の席に腰を下ろして気持ちの悪い笑みを浮かべる男、黒山である。


 黒山はそんな笑みを浮かべながら口を開いた。


「さてっまず何を話そうか…」


「私から話を聞きたいことは一つです、月城さんの身に一体何が起きたんですか。嘘偽りなく答えて欲しい」


「フンッこちらとしてはあんな職員の話など特にする必要もないのだが、いいだろう、話をしてやろう」


 そして黒山は月城さんについて話をしだした。

 曰く私と一緒にダンジョンでストレスを発散しリフレッシュした後のこと。


 月城さんは何やら大きな失敗をしたらしく、多くの職員と上司である黒山…特に自身が迷惑を被ったそうだその結果…。


 心身が疲れて休んでるそうだ。

 とにかくここしばらく職場であるここにも顔を出さないでいるらしい。

 この男曰く何度か連絡を取り合って いるがまだ復帰には時間がかかるそうだ。


「……というわけだよ、あんな能力のない人間でも部下だからね、私は上司として部下にも紳士的に対応しているのさ」


 お前の話なんてどうでもいいんです。

 この男の話を聞いて思ったことは、噓偽りなくと言ってるのにどうやら何一つ 真実を話そうという気はないなということだ。


 端から聞いていてもそれっどこら辺に本当のことが入ってるの?

 ていうくらいの嘘臭い話である。


 当事者ではないから全ての真実を知ることなんか出来はしないが、少なくともこの男の言葉を何一つとして信用できるものだとは思えない私がいる。


 時間の無駄と判断した私は早々に席を立とうとした。


「話を聞けたことには感謝します、それでは失礼します」


「………月城の話などどうでもいいことだろう、それより問題なのはより大きな金の話…ビジネスの話をしようじゃないか」


「ビジネスの話? そんなものをする為に私はここに来ているわけではありませんよ」


「バカを言っちゃいけない、ダンジョンという金のなる木を君は個人で所有してるんだろう? しかも随分と我々人類に都合のいいようなダンジョンらしいじゃないか……月城から色々と聞いているよ?」


 ……月城さんがこの男に我がダンジョンについて情報をバラすね。

 元から2人が繋がっていたのか、或いは この男が月城さんに何かをしたのかお伺い知る事は出来ないが…。


  ただ一つわかるのは黒山は我がダンジョンを食い物にしてしようとしていることだけだ。


 この黒山という男が私の目には実に薄汚く不快に映った。

 眉をひそめる私に黒山は人差し指を一本立てる。


「100万だ」


「……………は?」


「ひと月に100万円をダンジョンの利用料として支払う、それでそのダンジョンの資源を我々ダンジョンセンターが用意した探索者たちの取り放題にしてもらう。どうだ? 悪い話じゃないだろう」


「…………」


 何を言ってるんだこの脳足りん(脳味噌が足りないヤツ)は。

 もう十分成長したであろう我がダンジョンなら、一ヶ月もあれば100万どころかその十倍以上の利益を出すことすら可能なのだ。


 そもそも100万かそこでダンジョンの資源を取り放題とか、そんなバカな話がまかり通ると思ってるのか?


 …いや本当にまかり通ると思ってるんだろう、この男は。

 こいつはダンジョンは金のなる木と言ったが多分私がその価値を碌に理解できていないとでも思っているのだろう。


 この男が頭の中だけでは自分以外の人間が全員等しく猿かそれ以下の能力しかないということにでもなっているのさ。

 そういう人間がたまにいると聞くがこの黒山がそうなのだろう。


 何かの本で読んだ記憶がある。

 無能というのは自分の能力だけでなく 『他人の能力を評価するという能力』も持ち合わせていない、故に必然的に自分自身の能力を周囲の評価、或い実際の能力よりもだいぶ高く考えてしまう云々。


 この男の横柄な態度はそこからくるものなのだろうか。

 その後黒山は耳にするだけ不快な戯言を何度も言っていた。

 私が再び席に着くことはない、ただ無言でその喫茶店も出ようとした。


「……ここまで私が下手に出ているのにその態度はなんだ? 後悔することになるぞ」


 下手に出てる?

 どの辺りがですかと聞きたい。


「そういえば先日、私の家に押し入ってきた不届き者がいましたが…」


「ふんっなるほど、それは不幸だったな。私とは何の関係もない話だが一つだけ忠告をしておこうか…そういった不幸がまだまだ序の口だったと知ることが近いうち訪れるかもな…」


 随分とよく回る舌だ、ボロが出てるぞ。

 表情こそ笑顔を浮かべているが若干苛立ちが抑えるのが限界に来てるらしい。


 この男の頭の中だけでは今回この喫茶店のやり取りで全て自分の都合のいいように事が進むことが妄想の中だけの予定として決まってでもいたのだろうか…。


 くだらない、ああっ心底くだらないな。

 私は喫茶店を出てダンジョンセンターも後にした。

 そして人通りがない場所にて。


「ハルカ、いる?」


「もちろんいるわ」


 瞬間移動でハルカが現れる。


「月城さんと話がしたい、千里眼で彼女が今どこにいるか分かるかい?」


「容易い事ね…」


 黒山なんていつでもどうとでも出来る、問題は月城さんの方だろう。

 黒山が何を言ったところで何も信用していないのでどうでもいい、やはり本人と会って話をしたいからね。


「分かったわ、ここから電車で一時間くらいの所にあるマンションよ」


「そこに瞬間移動で移動してくれ」


 ハルカは返事をすると同時にスキルを発動、私を連れてそのアパートへ向かってくれた。

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