第81話

「やったぜ、さすがリーダー!」


「所詮を素人ということだっ爪が甘いんだよ!」


 連中の不快な会話が聞こえる。

 しかしそんなものはどうでもよかった。


「……随分と嬉しそうですね」


 私の声に固まる侵入者2人。


「馬鹿なっ!?」

「何故…まさか…」


「2人が……私を守ってくるましたから」


 暴風が吹き荒れ、舞い上がった土煙が新居を呑み込んだ。

 その使って煙が晴れた後には我が家の天井が吹っ飛ばされていた。

 それすらもどうでもよかった。


 私の意識が集中していたのはハルカとアヤメにである。

 2人は私の前にいて、守ってくれていた。

 だがそんな2人の両腕にはいくつもの切り傷を作っていて、血を流していた。


 さすがにこれには…私も頭にきた。


「ヒロキさん、無事かしら?」


「ヒロキ君~大丈夫?」


「私は何ともないよ、それより2人とも大丈夫なのか!?」


「こんなもの直ぐに治るわよ、大袈裟ね…」


「そうそうワタシたちは何だと思っているの?」


 2人はそう言うが私は結構怒っていますよ。

 2人は私とアズサ守るために咄嗟に前に出たのだ、ならば私としてはこの随分と舐めた事をしでかし過ぎた連中にそれ相応の罰を与えるしかないだろう。


「ハルカ、アヤメ。この人たちを……我がダンジョンに招待してあげようか」


「ふぅ~ん、つまりあれってことね? 了解したわ」


「こちらとしてもこの怪我の分の借りは返してあげなくてはね」


 2人が頷くと同時にここにあったダンジョン ゲートが消える。

 それは仕方ない、こっちの世界に出現させることができるダンジョンゲートは一つなんでね。


「………ダンジョンゲート」


 いつも扉型ではなく円形のダンジョン ゲートが床に出現した。

 アヤメの『念動力』を操作してもらい、何やらギャーギャーうるさい侵入者たちをダンジョンゲートへとポイポイしていく。


 そして私たちもそのダンジョンゲートに入った。

 ちなみにアズサには少しここで待ってもらう。

 何故ならここからはは少し怖い大人の時間だからだ…。


「なんだとっ!?」

「こっこりゃ何で海があるだ!?」


 ダンジョン ゲートの先は我がダンジョン島ではない。

 ダンジョン側のダンジョンゲートに限った話だが入り口の出た先を私を意思一つで変えることができるようになったのだ。


 多分ダンジョンが成長したことで私のスキルも少しは成長したのだろう。

 地球の方のダンジョンゲートはまだ好きな場所に出したりとか、私がいないところに出したりとかは出来ないのだが、ダンジョン側に関して言えばある程度自由にその出現する場所を操ることが出来るようになっていた。


「くそっどういうことだ……何故スキルが発動しない!?」

「リーダー、俺のスキルも発動しません!」


 我がダンジョンの大海に放り出された侵入者たちが随分慌てている。

 ハルカに気絶させられていた連中も海を放り込まれたことで目を覚ましたのだろう。


 5人ともバシャバシャとしているな。

 連中が慌てている理由は分かっている、おそらくあいつら全員かあるいは何人かは工藤さんみたいに海の上に立って移動することができるスキルを持っているんじゃないんだろうか。


 しかしそのスキルが一切発動しないんだろうね。

 その理由は簡単である。

 我がダンジョンは特定の条件を満たさなければあらゆるスキルは発動しないし探索者としての得たモンスター相手に戦えるあの超人じみた身体能力も発揮されないのだ。


 以前ハルカにあのバッチを何でみんなに身に着けさせるのかについて聞いたのだが。


 アレは我がダンジョンに住むモンスターたちに敵として見られる事がなくなる以外にも実は理由があったのだ。


 それがスキルと身体能力の無効化を免除するというものだったのである。

 元からバッチを持たないものは基本的にダンジョンゲートを通過することは出来ない。


 だが私とハルカとアヤメの3人が入れようと思えばその限りではないのだ。

 しかしバッジ持たない者は今、目の前で溺れかけている5人のように完全に無力な存在となってしまうのである。


 最もそのことを一から十まで説明してやる義理は当然ないがね。


 私たち3人はアヤメの『念動力』によって浮遊しながら少し高いところからその5人を見下ろしていた。

 リーダーらしき男はこちらを発見し、大声で何かを呼びかけてくる。


「頼む、助けてくれっ! こちらの負けだ、情報は全て話す!」


「……いえっもう結構ですよ」


「なん…だと!?」


「ですのでもう結構です、貴方たちはそのまま海に沈んで消えてください」


 めっちゃ驚いた顔をしてる5人。

 むしろ何で助けてもらおうとか思えるのかが私には理解出来ないのだが…。


「本気か…貴様、日本人が人間を見殺しにするのか!?」


 人の家に無断侵入して、家の中めちゃくちゃにしといてアズサを拘束したり私たちをスキルで攻撃したり。


 その上ハルカとアヤメに怪我させておいて、そんな連中を人間としてカウントすると思ってるのかこいつらは…。


「人殺しは犯罪だ、それも重罪だぞ!」

「捕まればどうなるのか分かってるのか!?」

「 5人もの人間の命を奪えば死刑も確実だぞ、例え免れても終身刑だ!」


「日本人でもないのに日本の法律に詳しいですね、それで脅してるつもりなんですか? なら一ついいこと教えてあげましょうか…」


 私は彼らに声が聞こえやすいように少し近づいて声を発した。


「いくら日本でもね、いくら探しても死体が見つからなければ事件として捜査のしようがもないんですよ。そしてここはダンジョンです、それも私個人が持つね。警察にしろ貴方たちの背後にいる人間にしろ、どれだけ動こうが何の証拠も出ることはないんですよ、従って何の罪にも問われないんです」


 ダンジョン持ちにガサ入れなんて真似も出来ない、そんなの許可しないからね。


 そもそも日本の警察ってことが起こったからじゃないと動かないからさ。

 事件が起こったっていうのが証明されない限り何もされないんだよね。

 ぶっ壊された新居については思うところがあるが…まっそれは後で考えよう。


「嘘だろ…お前本気なのか?」


「人間の命を奪うのに技術や力というものが私の場合は要らないんです。こうやって…たとえどれだけ泳いだとしても陸地にたどり着くこともない海のど真ん中に捨てるだけで貴方たちは為す術がなくなるでしょう? ……アヤメー」


「はいは~い」


 『念動力』を操作してもらい、我々は空中に出現しているダンジョンゲートへと向かう。


「待ってくれ! 頼むっ助けてくれー!」

「お願いだ、助けてください!」

「どうかご慈悲をーー!」

「おおっ神よ……」

「くそっくたばりやがれーー!」


「……貴方たちが誰の指示でここに来たのかなんて知りませんが……噛みつく相手を間違えましたね」


 そして私たちはダンジョンゲートへと戻って行った。

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