第75話

 とりあえず今日の仕事は終わった、後は若者たちが好きに探索するのを見守るだけなので先頭を彼女たちに任せることにする。


 探索隊の出発だ。

 この探索隊の隊員は思い思いに探索を開始している。


 探索する場所は変わらず森の中だ。

 ちなみに私が危険はないとは言ってもダンジョンの中なので未だに武器を携帯している3人だ。


 私やアヤメやハルカみたいに両手に何も持ってない状態というわけではない。


 まあそこは仕方ないことだ、いずれよりこのダンジョンが安全だと言えるようになればおのずと武器を持つ必要もなくなると思うけど。


 何しろ成長するたびにダンジョンの中に不思議な生物だったり温泉火山だったりだ突然出現するのが我がダンジョンだ。


 警戒というものを知らないハルカやアヤメとは違いどうしても我々人間はそこら辺を未知を危険だと考えるものだから、 仕方がないのだろう。


 彼女たちが探索をする陣形を見てみる。

 前衛を響が担当し、アズサとさゆりが後方に陣取っている。

  響とアズサは武器に手をかけてはいないがいつでも取り出せるようにはしている。


 ちなみにさゆりは特に武器らしい武器は持っていない。

 彼女の場合攻撃スキルがやたらと凶悪だからな、性格も結構好戦的だし怒らせない方がいいのである。


 まあ後は彼女たちの好きにやらせればいいので私とアヤメは単なるお守りである。

 彼女たちの後ろをついていくと響が何かを発見した。


「……モンスターを発見、取り敢えずまだ臨戦態勢はなしね」


「分かってる」

「了解よ」


 私たちの視線の先にいるのは…あの野菜の精霊か。

 以前私が大根をもらった存在と同じものなのだろうか、今回は白い大根以外にもカブだったりキャベツだったりナスビだったりが宙に浮いている。

 小さな羽をパタパタさせている。


「あれは…ベジタブルボマーですか?」


「ベジタブル? 多分そうかな?」


 以前ハルカが言ってたのとちょっと名前違うけど…。


「それはどんなモンスターなんだい?」


「一見すると野菜の姿をしたモンスター で、戦闘になると同じ姿をした野菜のような見た目の爆弾を出現、突撃させて攻撃してくるモンスターだと聞いた事があります」


 アズサの口から物凄いヤバそうなモンスターの情報が。

 何その凶悪なモンスター、あの見た目でそんなモンスターがいるのか?


 そう思ってるとアヤメが横から口を挟んできた。


「確かにそのモンスターに似てるけど正確には全く違うわよ。あれは純粋に野菜みたいな姿をした精霊であって、そのベジタブルボマーとは全の別物よ? 多分見た目も多少は違うはずね」


「………調べてみます」


 アヤメの言葉にさゆりがスマホを片手に何を調べだした。


「ベジタブルボマーっていうのはこういうモンスターのはずよ」


 スマホの画像を我々に見せてくる。

 なるほど確かに宙に浮いてる野菜だ。

 ただ天使みたいなちっこい羽はないし見た目もデフォルメされた我がダンジョンのベジタブルたちとは違うな。


 目つきとかはかなり凶悪そうだ。


「さすがにこれと同じモンスターかと言われると違うと思うよ?」


「そうみたいね」


「確かに、それにベジタブルボマーはかなり好戦的なモンスターで有名なはずだから。僕たちの姿を見たら襲ってくると思うしね」


 私とアズサとさゆりの言葉を聞いて響は「確かにね…」とつぶやいた。

 ここはとりあえず私が前に出るか。


「多分大丈夫だと思うから私とアヤメが行ってみるよ、少し待ってて」


 私たちがそばに行くと野菜の精霊たちがフヨフヨと飛んで近くに来た。


「以前もらった大根は美味しく頂いたよ、ありがとう」


 そう言って野菜たちの頭というか上辺りを適当に撫でてみる。

 そうすると野菜の精霊たちは喜んだのか元気そうにフヨフヨと私たちの周囲を 飛んでいる。


 特に襲ってくる気配がないので私たちは彼女たち3人を呼んだ。

 最初こそ少しは警戒してきたが野菜の精霊たちの気配か何かを察したのだろうか。


 彼女たちも危険がないと判断してくれたようで普通に精霊たちをつんつんと指先でしている。


「本当に危険はないみたいだね」


「当然よ、精霊たちは別に人間たちを襲う理由なんかないし」


「というか少し可愛いわね…」


 確かに、結構デフォルメされてる空飛ぶ野菜だからね。


「……なんでかカブを渡されたんだけど」


「ちゃんと調理して食べてあげなよ紺野さん、結構美味しいと思うから」


 自身の手の上に突然出現したカブを難しい表情で見ているさゆりである。

 もしかしてカブ苦手だったりするのかな?


 私たちは先に移動を開始する。

 すると野菜の精霊たちは彼女たちを探索者たちを気に入ったのかフヨフヨと後をついて来だした。


 彼女たちも嫌がる様子はないのでこのまま探索を続行するとしよう。

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