第26話
「工藤さん下がってくださいここは私が……いや私たちが出ます」
「……一河さん?」
工藤さんが驚いたようにこちらを見る、そりゃ依頼主が出張ると言いだしてるのだから驚くのは無理もない話だろうな。
しかし状況は刻一刻を争うので構わず私は前に出た。
もっとも銃を持つ私が近接戦闘を仕掛けるわけではない、まずはアヤメの攻撃スキルで牽制だ。
「アヤメ頼む……『黒鎖弾』!」
アヤメガンの銃口から黒い銃弾をいくつも放ちイフリートを攻撃する。
銃弾がフリードの炎の体に着弾した瞬間、黒い鎖があの炎の巨人を体に巻きついた。
「凄い…まさか精霊の動きすら阻害するスキルだなんて」
アヤメの攻撃スキルを見た工藤さんが驚きの声をあげる。
正直言って私も驚いた、お願いだから効いてくれと願いを込めて放ったスキル。
あの黒い鎖は炎の体を持つイフリートにすら巻きついてくれたぞ。
今までどんな攻撃をされてもろくに反応すらしなかったイフリートがはじめて動きを封じられたことで明らかに不機嫌になっている。
その顔の形に見える炎、そして目と思わしき光がこのアラサーを捉えた。
「グォオォオオオオオーーーーーーーッ!」
イフリートが怒りの雄叫びを上げる。
空気を震わせさらには熱気すらかなり離れているはずの私の元に届いた。
こいつはとんでもない格上との戦闘の予感、もっとも戦闘なんてのはゲームみたいに手間も時間もかけられるもんじゃないけどね。
「……一瞬で終わらせるから」
イフリートがおそらく本気で暴れているのだろう、あの黒い鎖が今まで聞いたこともないような音を上げている。
おそらく一分もしないであのスキルの鎖すら引き千切られるだろう。
それだけの力をあの炎の化け物は持っているんだろうさ、なにしろ精霊様だからな。
だがぶっつけ本番とはいえハルカとアヤメが戦闘のド素人の私をサポートしてくれる。
だから必殺のスキルの一つくらいぶち当てる余裕はあるのだ。
「これがトドメの一撃だ!」
と思ったのだが、こちらに顔を向けたイフリートが口から炎の塊を放ってきた。
もちろん私の方に、こちらは全力で横っ飛びに回避する。
距離があって助かった。
あと自動ホーミングみたいなこともなくて助かったわ。
なんとか私の身体能力でも避けることができた。
「アヤメ…アイツ普通に攻撃してきたんだけど…」
「私のスキルじゃ動きは止められても攻撃の発動までは無効に出来るわけじゃないのよ~」
そうなのか、アヤメのスキルは一見かなり強力に見えるがやはりどんなスキルでも万能というわけではないらしい。
イフリートはここぞとばかりに炎の塊を放ち私を追い込む。
「くそっこれじゃ攻撃スキルの1つも発動できそうにないぞ」
ハルカたちに教えられたスキルには少し溜めがいる。
この状況じゃ使えないんだ。
「だったら私たちがサポートするわ」
「サポート?」
「そうよ私たちを手にした者の能力を引き上げる支援系のスキルを使ってヒロキさんを強化するの」
「まさかそんなスキルまであるのか!」
「ふふっそれくらい出来て当然よ」
ハルカが珍しく嬉しそうな感情を出して返事をする。
そういうのがあるのなら是非とも頼む、攻撃する前にあの炎にこんがり焼かれるのはごめんだ。
「いくわよ…『
ハルカの支援スキルが発動した。
さっきまでと体の調子がまるで違う、まるで背中に羽が生えたかのようだ。
イフリートがさらに炎の塊を放ってきた、私は走る。
「これはすごいな」
私は今砂浜を走っている、本来ならこんな極限状態の戦闘においては足の一つももたつきそうなものだ。
舗装された道を走るよりもにはるかにその速度は遅くなるはずだ。
しかし現実には全くその逆、炎の塊を見て躱していく、いくつも放たれる炎攻撃をその移動するコースを予測し無駄な動きを排除して全て躱す。
そんなの行動が可能になっていた。
いつもの私では絶対にできない行動であるイフリートが再び咆哮を上げる。
今度はなんだよ…と思ってると奴の周囲に炎の蛇のようなものが数体生まれた。
宙に浮いとる、ていうかまさかあれ…。
イフリートがさらに一声を発っするとその炎の蛇は空中をにょろにょろと移動しながらこちらに向かってきた。
結構速いな、動き封じられてるくせに好き放題しやがって本当に、あんなんありかよ。
「ならここはアタシにお任せってことで……『
アヤメも支援系のスキル発動してくれた。
そのスキルの内容的にはこちらの攻撃力を上げてくれるスキルだと思われる。
あんな炎の蛇に万が一でも巻きつかれたりしたらかなわないので当然攻撃する。
スキルではなく通常の銃撃である。
私は適当に蛇の方に銃口を向け、アヤメとハルカがそこにわずかな補正を入れることで素人でも銃弾を当てることができる。
ハルカガンとアヤメガンの連射攻撃だ。
放たれた銃弾が炎の蛇に当たる。
次の瞬間炎の蛇たちが消し飛んだ。
明らかに今までとは銃弾の威力が違うぞこちらの支援スキルも強力だな。
「一河さん!」
「!」
工藤さんの声を聞いて線を上げる。
すると彼女が顔を向けいてる先、イフリートのヤツが鎖を今にも引き千切りそうな感じだった。
攻撃をやめ拘束の破壊に集中しているようだ。
チャンスだ、ここに来てヤツは判断を誤った。
だったらこちらも攻撃に集中させてもらおう。
「ハルカ、アヤメ…決めるぞ」
「オ~ケ~」
「わかったわ」
2人が返事するとともに手にした銃からそれぞれ紫色と銀色の光が発せられた。多分魔力とかそう言うのを高めてるのだ。
チャージタイムだな。
時間にして数秒、こちらは動けない。
3……2……1……0!
これで準備完了ってわけだ。
イフリートの鎖は……まだもってくれた。
「……『
ハルカガンとアヤメガンから同時に黒い銃弾が放たれる。本来真っ直ぐな直線を描くそれらはいつもとは違い曲線を描きイフリートに向かって飛んで行った、しかしその弾丸はイフリート直撃することはない。
曲線を描いているあの弾丸は着弾する地点が元々決まっている。
鎖の破壊が出来なかったイフリートの目の前、いや眉間のあたりで銃弾同士がぶつかる。
その瞬間黒い光が発生し大爆発が起こった。
とんでもない爆発音と空気の振動、そして水しぶきがこちらにまで飛んでくる。
聞いてたよりも結構な威力だな。
そして頭を失ったイフリートはその残った炎の体を霧散させて完全に消滅した。
私はただその威力のオーバーキル具合に呆れることしか出来なかった…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます