第19話

 モフリンベアーとの出会いの後は安心してダンジョンの中を探索出来た。

 新しい採取ポイントをいくつか発見したので後日それらを採取するのに必要な道具を買い揃えようという話になった。


 採取をした後はダンジョンセンターに持っていき収入ゲットという流れになるわけだ。


 その日は気がついたら夕方になっていた、ダンジョンの時間は地球の時間とは時間の流れがほぼ一緒の時らしい。


 だがやはりダンジョン。

 向こうが夜でこっちは真昼って時もあるダンジョンもあるとか。

 まあそこはダンジョンを調べてる人達が謎を追っているので私が出る幕ではない。


 私たちの目的はこのダンジョンを育て、そして自分たちの生活を安定させることである。

 それにしても今日は本当によく働いたな、これまで生きてきた人生の中で最も多く歩いたと思う。


 おかげで足腰が心配である。

 二日後に筋肉痛が来たらとんでもないことになりそうだな。

 そして今日はもうダンジョンから引き上げて晩飯を食べる為に家に帰ろうと考えた時である。


「ヒロキさん、今日はこのダンジョンの夜の姿を見てみる気はないかしら?」


「夜のダンジョンを?」


 言われてみれば夜のダンジョンに行ったことはない。

 ダンジョンによっては昼夜もないダンジョンもあるらしいがここは夜も昼もある、しかしやはりダンジョンなので視界がほぼゼロになる真っ暗な夜の時間帯はなんとなく避けていたのだ。


 それに個人的に心配してる部分もあったりする。


「ダンジョンは昼と夜で出てくるモンスターが違うみたいな事ってあるのかな?」


「それはあるかもねしれないわね。ただこのダンジョンならたとえ夜でも危険なモンスターが出るということはないと思うわ」


「……そうか」


 ダンジョンコアであるハルカが言うのなら大丈夫 なのだろう、実際にいたモンスターのモフリンベアーは大丈夫だったし。


「分かった。それじゃあ晩ご飯を食べた後はこっちにまた来ようか」


「ええっ楽しみにしていて」


 夜のダンジョンか。

 実は探索者の装備をまとめて購入した時にダンジョンの中である程度の時間を過ごせる道具類というものも買う必要があると思ってテントや寝袋といったものも買ったのだ。


 その時の私はダンジョンの奥深くまで探索して探索者として名をはせる。

 そんなほぼ無理であろうという妄想を抱いていた、本気ではあったんだけど。


 まさか『ダンジョン』なんて言うとんでもなスキルを手に入れるとは思わなかったから、おかげで買い揃えた探索装備もほぼ無意味になってしまった。


 まあテントやら寝袋って普通にキャンプ用品なんだからキャンプにでも行けば使えるんだけどね。

 さてっアパートの一室に戻り晩ご飯をハルカやアヤメたちと一緒に食べる。


 その後は何かしら使えないかと思える道具類を以前買った探索者装備の中からあれこれと探してみる。


 こういう時間ってわりかし好きなのだ。

 明かりが必要かもしれないからランプを持って行こうだとかさすがにラジカセは使えないよなと思いながらあれこれと道具を見ていた。


 そんなことしてたらすでに外は夜になっていた。

 アヤメが一言声をかけてきた。


「ヒロキ君そろそろダンジョンの方に来てもいいよわよ~」


「了解、今行くよ」


 そして必要な道具を持ってダンジョン ゲートをくぐる。

 いの一番に視界に取び込んできたのはこのダンジョン島の美しい夜空だった。


「凄いな……」


 人工的な光というものが一切ないのもあるが、何より自分が今まで生きてきた中でこれほど星が近く、そして多く感じられる夜空見たことがない。


 プラネタリウムとも比べ物にならないほどの星と光が夜空を埋め尽くしていた。

 その光の明るさは月がないにもかかわらずとても明るく、本来は真っ暗なはずの海にその光が反射して波打つ海の輪郭が見えた。


 その光景に圧倒され気がつけば砂浜の方に足を向けていた、いつのまにかハルカとアヤメが近くに来ていた。


「どうかしら? こっちのダンジョンの夜も悪くないでしょう」


「そうだね、正直予想以上だった……本当にすごいなこれは…」


「それはよかったわ、ヒロキ君はいつもダンジョンが暗くなると早めに引き上げてたから一度はこの景色を見て欲しかったの」


「そうか今までちょっともったいないことしてたみたいだ…教えくれてありがとう」


  満天の星空とその光に照らされた海を見ていると、遠くの海面を生き物が跳ねた。


「えっまさか魚なのか?」


「でしょうね、今まではそんなのいなかったのにね~」


「ええっこのダンジョン島と同様に本当に何もいなかった海だったのに……けどきっとこの海も変わったのかもしれないわね」


「きっとそうね、ヒロキ君足元を見てみて」


 言われて足元を見ている。

 以前拾ったあの『ブルーシェル』という貝殻が近くにあった、しかしそれだけじゃない。なんと小さいサイズだがカニがいた。


 これもまたこのダンジョンに住むカニなのだろう、本当にいつのまにかここに住む命が増えていてなんとなく気分が暖かくなる私だ。


「ダンジョンっていうのは本当に不思議な所だね」


「そのダンジョンに影響を与えているのがヒロキ君の精神なんだけどね」


「私の精神が…か。こんな幻想的な景色に影響を与えているなんて、今だに信じられないけど」


「本来のダンジョンとはかけ離れた光景でしょうね。これだけ美しくそれでいて静かな景色であるということ自体があなたの人間性の現れないかもしれないわね…」


 そんなことを言われるとなんか褒められてる気分である。

 満天の星空を見上げながら私は思う。

 ダンジョンを育てるなんてやっぱりわからないことだらけだ。


 きっとこの先も大変だろうけど、それでもやっぱりやりがいはありそうだなと。

 明日からも気合を入れてやっていけそうである。


 とりあえず今日はテントを立てて寝袋を準備するかな。そう決めた私はテキパキと動き出した。


「そうだ、この後コーヒーでも入れようか。3人でここで飲もう」


 私の提案にハルカとアヤメは笑顔で頷く。

 そしてその日はテントで夜を明かした、もちろん2人には別のテントを用意してね。

 テントは買うときは特に悩んでしまいそれならと数種買ってしまった黒歴史がこんな所で生かされてしまった。


 そして次の日、ものすごい筋肉痛を襲われた。

 二日後に来るだろうと油断していた自分はめっちゃくちゃ苦しい思いをしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る