第8話
「お待たせしました」
月城さんが戻ってきた、手にはダンボールと数枚のお札と小銭が一緒に載せられたトレイを持っている。それをカウンターの上に置かれた。
「今回の買取は『ブルーシェル』のみが対象です、買取価格はこちらになります」
トレーに置かれた札束と小銭を確認する。
2万3620円。電子マネーとか慣れていない私は現金支給がとても助かります。
マジか、元手タダの貝殻だぞ。
それを集めただけで前の仕事を日当を軽く超えてしまった。
内心物凄く嬉しい自分。
自然と作ってる笑みが変な感じにならないように結構頑張って我慢してるくらいだ。
月城さんはそんな自分の心の中の葛藤など全く気付いていないようで事務的に仕事を進めていく。
「こちらの買取価格で問題ないのでしたら買い取らせていただきます」
「…はい、お願いします」
買取は無事終了した。
今回のことで分かったことが一つある、私の『ダンジョン』というスキルはとんでもない可能性をマジで秘めている。
これはダンジョンを守るためにモンスター戦ってダンジョンを育成させる価値あると思います。
ぶっちゃけあの貝殻を全部取りつくしちゃってもダンジョンの特性上、そのスポットの資源は数日ほど時間を置けば復活する。
つまりあの砂浜にあった『ブルーシェル』を全て採り尽くしてお金に換えても何も問題はないのだ。
実際に採取スポットが復活することを確認する必要はある。
そして採取スポットの復活が本当ならもうお金の心配をする生活からおさらばできちゃうかもしれないな。
いやまだあのダンジョンは育成が始まったばかりだ、今後も採取スポットが増えて行けば……。
私の人生、本当にダンジョンで逆転出来るかもしれない。
「……あの~どうかしましたか?」
やべっ妄想が物凄く膨らんで顔が変な感じにでもなってたかな?
さっさと席を立って、お金を忘れないようにっと。
あ~~恥ずかしい恥ずかしい何をやってるんだ私は。
「すっすいませんつい…」
「つい何ですか」
「つい…あなたに見入ってしまいましたね、はははっ…申し訳ありません」
月島さんが目を見開いてこちらまっすぐ見る。
その瞳は青い。
今完全に余計なことを言ってしまった、恥の上塗りである。こんな冴えないアラサーがなにを身の程を弁えない事を言ってるんだよ。
仕事してる相手に下手くそなナンパでもしてるとか思われたら死ぬほど恥ずかしいぞ。
もう帰ろ、さっさとダンジョンセンターを出て行くことにした自分だ。
考えなしに話そうとすると、本当にバカなことを言ってしまうな、恥ずかしい。
そして私は帰る、あの狭いアパートへと。するとそこに妙な奴らを発見した。
「ずいぶん狭くて汚い部屋だわ……」
「そうかしら、ワタシはこれくらいの方が人間味ってやつを感じていいと思うけど~?」
しまった。ダンジョンの入り口を開けっぱなしにしていた、ドアを開けて玄関入った時点でハルカとアヤメの会話が聞こえてきたのだ。
自分の失敗に呆れつつ中に入る。
するとそこには宙に浮く銃ではなく、宙に浮く黒いブレスレットが2つあった。
「なぜブレスレットが?」
「何故ってさすがにこちらの世界で銃の姿でいるのはヒロキさんの迷惑になるでしょう?」
「そうそう、そこら辺はちゃんと空気を読むダンジョンコアなのよワタシたちは」
「……ありがとう…ございます?」
そもそもこちらに現れないでほしいという言葉を言う前になぜかお礼を言ってしまった。
て言うかダンジョンコアって普通にこっちの世界にも来れるんだね。
まあ見た感じこっちの世界に来たからと言って暴れてやろうみたいな気配はハルカからもアヤメからも感じないので今のところは気にしないでおこう。
それよりもダンジョンセンターでの成果について話そうと思う。
「このアパートの壁をそこまで厚くないので、話す時は少し小声でお願いするよ」
「分かったわ」
「了解」
話をする前にまずはこのアパートでの注意事項である。
壁ドンとかされたらリアルじゃ怖いだけだから、宙に浮くブレスレットにかくかくしかじかと今回の成功について説明する。
「……なるほどつまりあんなものでもこの世界ではお金になるのね」
「いいじゃない。人間の世界ってお金ってのに余裕を持てれば大抵のことにも余裕を持てるんでしょう?」
「その通り。お金に余裕があれば労働時間を減らせる。そして労働時間を減らして自分の時間を多く持てる上に懐にも余裕がある人間は自ずと余裕のある人間ということになるんだ」
無論人間社会には様々な人間がいるのでそうでもない人間もいるだろう。
ただ私はお金と時間に余裕が生まれれば余裕を持った人間というものが出来上がると考えている。
実際にお金にも時間にも余裕を持った経験などないので絶対とは思わないけど。
「何より今回のことで私自身もお金に関してそこまで厳しく考える必要がなくなったかもっというのは大きいな。これならダンジョンに現れるモンスターの対処を優先してダンジョンの育成の方に時間を割くことができるからね」
「それは素晴らしいことね、私たちも協力するわ」
「ハルカが協力するならワタシも協力するよ~何しろダンジョンが成長してくれるのがダンジョンコア であるワタシらにとって一番の喜びだから」
「私もダンジョンというのが成長する姿というの見てみたいな…」
ダンジョン育成計画。
最初はだいぶ荒唐無稽な話だったが今の私は端的に言ってかなりやる気を出しているのだ。
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