武蔵野グレネヱドムーン

名取

出陣





 満月が、柘榴のように熟れていた。



「行くのか」

 後ろで師匠の問う声がする。あたしは笑って頷いた。もちろん行く。狩りに行く。ざざあ——背後の森が静かに声を上げる。行け。行け。そして晴らせ。我らの無念を。

 澄んだ夜風に、羽織がばたばたとなびく。 


「これを持て」


 振り向けば、師の手に、一振りの刀。

「先代の妖刀、名を金烏きんう。月を斬る為、生まれた刀よ」

 艶やかに光る旭日昇天の透しつば。慎ましい鞘に収まる、仄暗い殺気。

「用心しろ。主人を亡くし、永く飢えている」

「そう。ならばこれはあたし。魂の分身。怖がることは何もない」

 その瞬間、判り合う。向かうべきは一つ。約束の地、武蔵野。


「見ていて、蘇芳すおう。あたしは今宵——月を殺る」



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