第371話 狡知神降臨
土下座ポーズのまま地中に沈んだララバイを見て、モブフェンリルは言う。
「――よし。完璧な土下座だな。やっぱり土下座はこうじゃないと」
『…………!?』
こ、こうじゃないと??
地中に埋まっての土下座なんて初めて体感したんですけど!?
地中という圧倒的窮屈感。
上からの圧迫で身動きが取れない。
すると、モブフェンリルがまるで心を見越したかのように言う。
「いや、身動き取れなくていいんだよ。漫画の世界のとある老害が言っていた。謝罪の意があるならば、例え焼けた鉄板の上でも土下座できるはずだと、焼き土下座を強要しないだけ有難いと思え」
や、焼き土下座っ……!?
モブフェンリルの言葉を聞き、ララバイは恐怖する。
『…………!?』
完全に見誤っていた。
霜の巨人を敵に回した時からサイコパスだと思っていたが、まさか、ここまでサイコパスだったとは……。
真性のサイコパスがモブフェンリルをサイコパス扱い。
焼けた鉄板で土下座させるという発想がもう堪らなくサイコパス。
利用する相手を間違えたとララバイは絶句する。
そんなララバイの頭を踏み付けたまま、モブフェンリルは言う。
「それで? 何か言う事はないの? 例えば、謝罪とか謝罪とか謝罪とかさ」
またもやララバイは絶句する。
――さ、さっき、言ったじゃん!
――謝罪ならさっきしたじゃん!?
大事な事なので二回思う。
すると、モブフェンリルはララバイの心を見透かすように言う。
「――まさかと思うけど、さっき土下座した時言ったとか思ってないよな?」
『…………!?』
――い、言ったけど!?
思うも何もそれが事実。
確かに、ララバイは謝罪した。
しかし、モブフェンリルはそれを否定する。
「……お前さ、俺に頭を見上げさせておいて、その時謝罪したとか、そりゃあねーだろ。お前には常識がないのか?」
サイコパスに常識を説かれたララバイは、顔を真っ赤に染め上げる。
しかし、今、キレる訳にはいかない。
今、キレればモブフェンリルに何をされるかわからないからだ。
何せ、このモブフェンリルは著しく沸点が低い。
ちょっと高い位置に頭があっただけで、体全体を地面にめり込ませる最高にサイコなサイコパスだ。
ララバイは、こめかみに青筋を浮かべ、怒りを殺しながら謝罪の言葉を述べる。
『……も、申し訳ございませんでした』
声を震わせながらも謝罪の言葉を口にするララバイ。
土下座ポーズのまま、謝罪の言葉をしたララバイが顔を上げようとすると、再び、顔が地面にめり込む。
「何勝手に終わらせようとしているの? その謝罪、俺はまだ受け入れてねーぞ?」
ララバイは心の中で盛大にキレ散らかす。
『――い、いい加減にしろよ! クソモブフェンリル! 俺が何をした! 俺がお前に何をしたァァァァ!! ちょっと、名前を騙っただけじゃねーかァァァァ!』
すると、頭からかかる圧力が更に強くなる。
「――お前、何にも反省してねーじゃねぇかぁぁぁぁ!」
『……ええええええええっ!?』
どうやら、心の声が駄々洩れだったらしい。
反省していない事がバレ、怒り心頭のモブフェンリルはララバイを土下座ポーズのまま地中深くまで踏み倒す。
最早、意識を保っているのが精一杯。
『ど、どおしだら許じで頂けまずが……』
どうやったら許してくれるのか。
必死の思いでそう言うと、モブフェンリルは頭を搔きながら少し考える素振りを見せる。
「仕方がないな……。俺も鬼じゃない。俺の言う事を実行するなら許してやるよ」
しかし、聞こえてきたのは、どこかで聞いたセリフ。
「――俺の前で潰し合え、最後に残った一人だけを許してやるよ」
その瞬間、地中から引き摺り出され、乱暴に放り投げられる。
『……あがっ!?』
何メートル投げられたのだろうか。
思い切り背中から落ちたララバイは悶絶し、目を思い切り見開く。
何で、何で俺がこんな目に……!?
俺はただ一人では何もできない愚かで馬鹿な丘の巨人共の力になりたかっただけなのに……!!
誰も頼んでいない自分勝手な妄想に、自分中心に世界が回ると思い込む事で自己の正当性を保とうとする醜い愚考。
他責な上、不利になれば被害者振る醜悪性。
最早、存在そのものが害。
そんなララバイに影が差す。
見上げると、そこには拳を振り上げる丘の巨人がいた。
『悪いな。許されるのは一人だけなんだ。だからよぉ! 俺の為に死んでくれよな、キモ粘着ストーカー野郎!』
『ま、待っで……!?』
拳を振り上げているのは、ララバイと共に一緒に逃げてきた裏切者の丘の巨人達。
既にモブフェンリルにやられたのか、皆、ボロボロになっていた。
その瞬間、容赦なく振り下ろされる拳。
拳がララバイの股間にクリーンヒットすると、ブチュという音と共にララバイのララバイがララバイする。
『ひゃっはー! やってやったぜ!』
「おー! その調子で潰し合え、お前らの股間に付いてる一物をよぉ!!」
懲罰的去勢。
労働力を確保しつつ、立場を弁えさせ、害悪の血を後世に残さない様にするにはこの方法が一番。
『……び、びどい』
そんな言葉を残しながら股間を潰され地に沈む裏切り者の丘の巨人達。
股間を真っ赤に染めた裏切り者の丘の巨人達の懲罰的去勢は最後の一人になるまで行われ、最後は二人同時に股間を潰し合われた事で終結した。
◆◆◆
股間を真っ赤に染め地に伏す裏切り者の丘の巨人達を見て、俺こと高橋翔は思う。
「……少しやり過ぎたな」
種族は違えど、同じ男として玉ヒュンする思いだ。
自分でやらせておいて何だが引いている。
いや、だってあいつが『俺の前で潰し合え、最後に残った一人だけを許してやる』なんて言うからさ……。自分が吐いたセリフの責任を取らせたくなるじゃん?
折角、最後の一人位は許してやろうと思っていたのに、最後の二人も一物を全力で潰し合うし、そして誰も残らなかったみたいな状況だ。
まあいいか。
憎まれっ子世に憚ると言うが、実際、憚られても困る。
諸悪は元から根絶するのが一番だ。
「さて、ゴミ共を片付けるか……」
社会のゴミも労働力位にはなる。
死なず、潰れた股間が治らないよう裏切り者の丘の巨人達に初級回復薬をかけて回ると、風の上位精霊・ジンの力を借り旧ゲスクズ領へ雑に運んでいく。
雑にというのがポイントだ。
社会のゴミは雑に扱う位が丁度良い。
「さて、こいつで最後だな」
風の上位精霊がララバイを旧ゲスクズ領へ飛ばした瞬間、周囲が途端に暗くなる。
ヘルヘイムの主にして、常時俺の守護についている神、ヘルまで姿を現した。
「……っ!? お前、なんで」
ヘルの出現に驚いていると、声が聞こえてくる。
『――あれれ~? おかしいぞ~? なんでボクの世界に人間がいるんだ~?』
空から聞こえてくるソプラノボイス。
上を見ると、そこには紫色の髪をした中性的な容姿の子供が宙に浮かんでいた。
『あれー? ヘルもいる……。なんで?』
この子供、どうやらヘルの知り合いのようだ。
子供は、惚けた顔でそう言うと、俺に視線を向けてくる。
『――ペロペロザウルスの卵が送られて来ないから様子を見に来てみれば……。それで? 霜の巨人達はどこにいる?』
「は? つーか、誰だよお前。霜の巨人の仲間か何かか?」
その割には、体が小さいな……。
巨人だらけの世界をボクの世界と言うからには巨人だと思うんだが……。
そう尋ねると、子供はポカンとした表情を浮かべる。
『――え? もしかして、君……。ボクの事を知らないの?』
どうやらこの子供は自分の事を有名人か何かと勘違いしているらしい。
自意識過剰な子供である。
「しらねーよ。そんで? あんた、誰?」
そう尋ねると、子供は「そっか、そっか」と頭を掻きながら言う。
『――ボクの名前はロキ。そこにいるヘルの母にしてスリュムの代わりにこの世界を治める狡知神さ。それで? 君の名は?』
「…………っ!?」
狡知神・ロキ。
その名を聞き、俺は警戒心を露わにする。
ロキと言えば、北欧神話に登場する悪戯好きの神にして、ヘルヘイムの主、ヘルの親に当たる狡知の神。
「そうか、あんたがロキか……」
現実世界にゲーム世界の住人を送り込んできた元凶だ。
「……俺の名は高橋翔。それで、何しにここに来た?」
そう尋ねてやると、ロキは……。
『さっき言った通りさ。ボクは霜の巨人を探しているんだ。彼等には、ペロペロザウルスの卵を始めとした食の娯楽供給というとても重要な役割があってね。それを反故にしたから探しているんだ。それで霜の巨人達の事を知らない? 今、言った通り彼等を探してるんだよね。ボク……』
大気が震えるほどのロキの威圧を受け、頬に汗が流れる。
『……例えば、君のアイテムストレージとか、君のアイテムストレージとか、君のアイテムストレージとかに霜の巨人が氷漬けで格納されている。なんて事はないよね?』
滅茶苦茶具体的に霜の巨人が封じられている所を指摘してきた。
これ、絶対にわかって言ってんだろ。
そんな事を思いながら、どう返答するべきか悩んでいると、隣にいたヘルが正直に暴露する。
『うむ。格納されているな……。あ痛ぁ! 貴様、何をする!?』
その瞬間、俺はヘルの頭をスパンとはたいた。
「いや、何をするじゃねーよ! お前こそ何言ってくれてんのォォォォ!?」
もし霜の巨人を解放しろとか言われたらどーすんだ。フィールド魔法で優位な立場を作りエレメンタル総出で倒しただけで、別にあいつら解放した所でどーでもいい雑魚って訳じゃないからね!?
普通に強いから!
だから氷漬けにしてアイテムストレージに封印しているだけだから!
ヘル突然の暴露によりアイテムストレージに霜の巨人が格納されていることを知ったロキは手のひらを上にして片手を向けてくる。
『――そう。なら早く解放して? ボクには彼等が必要なんだ』
ほら見ろ。霜の巨人の居所がわかった途端にこれだ。ヘルの奴め。ボディガードの癖に余計な事を……。
しかし、考えてみれば、ヘルは元よりあちら側。ロキ側の駄神だ。
「……悪いがそれはできないな」
霜の巨人を解放すれば、あいつらは絶対俺に復讐してくる。確信をもってそう言える。
そうお断りするとロキは「そう。なら仕方がないね……」と呟き、俺の目の前に降り立った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます