第301話 村井……なんて厄介な奴なんだ……(勘違い)
公益財団法人アース・ブリッジ協会の理事長室。俺こと、高橋翔は今、ビルの管理人に無理を言い特別に監視カメラの映像を確認させて貰っていた。
「ふーん。なるほどねぇ……」
俺は煎れたてのインスタントコーヒーを啜りながら呟く。
アース・ブリッジ協会のフロア内には、至る所に監視カメラが設置されている。
今、見ている監視カメラの映像は、各階のエレベーターホールの映像だ。
「……見事に何にも映ってないな」
俺の護衛に就いているヘルヘイムの支配者、ヘルの情報によれば、長谷川を誘拐し、殺害した犯人は複数。
マスクで顔を隠していたとしても監視カメラにそれっぽい奴が映っているかと思ったが、考えが甘かった様だ。
フロア内の監視カメラも全滅。
村井の奴を調べる為に送ったエレメンタルもまだ帰ってこない。
ハッキリ言って異常だ。今までにない事が起こっている。
「まさかとは思うが、村井の奴。ゲーム世界から厄介なアイテムとか持ち込んでないだろうな……?」
命名神、ヤンデレ少女の呪い等の呪われた装備。他にも、ゲーム世界には契約書や隠密マント等、こちらの世界に持って来られては厄介なアイテムがいくつもある。
一応、ログインという手段を経ずに、ゲーム世界に置き去りにした場合、メニューバーを使う事ができない点は確認している。
メニューバーが使えないという事はアイテムストレージが使えないという事。
なので、一度に多くのアイテムを持ち帰る事はできな……いや、違うか。現実世界とゲーム世界を行き来できるという事は、時間さえかければ、ゲーム世界側のアイテムを持ってくる事自体は可能。アイテムストレージは便利だが、こっちの世界とゲーム世界を行き来できるなら関係ない。あくまで手間の問題だ。
しかし、事務次官クラスの脳を持った奴がゲーム世界のアイテムを使うか……俺は頭が悪いので、そこまで穿った見方でアイテムを変に使ったりはしないが、変に頭のいい奴がゲーム内のアイテムを現実世界で使ってくる可能性を考えると非常に拙い気がする。
「――って、あ……」
突然、理事長室の扉が開き長谷川が横たわる姿が映し出され、扉が閉まると同時に血痕ごと長谷川の姿が消えた。恐らくこれは、ヘルが長谷川の遺体を隠したのだろう。
しかし……これ、確実に隠密マント使ってんな……。
動画に映った長谷川の姿も一瞬……俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
ヘルが言うにはマスクで顔を隠していたというし、敵は複数。
村井の下に向かわせたエレメンタルも戻ってこない。
うーん。マジで厄介だ。こんな事になるんだったら、ゲーム世界に捨てるんじゃなかった。適当な部族が住んでいるこっちの世界の辺境にでも捨ててくればよかったと思うばかりだ。まあ、今更、言った所で後の祭りか……。
今度からは多少、面倒でも敵と認定した奴は社会的にも物理的にも再起不能な状態にしてから捨てるとしよう。
そう決心すると、俺は公益財団法人アース・ブリッジ協会の理事長である俺に被害を訴えてきた自称被害者共の声明動画に視線を向ける。
「それにしても、あーあ、こんな大それた事をしちゃって……」
溝渕エンターテインメントの性加害問題に隠れているので、まだ火は付いていない様だが、もはや時間の問題だ。
今、見ているのは、いつの間にか作られていた『アース・ブリッジ協会性加害問題被害者の会』のホームページに掲載された動画。
『――あいつは確かに私の事を凌辱しました。理事長という地位を利用し、逆らう事のできない私に対して凌辱行為を繰り返したのです。確かに物的証拠はありません。しかし、血の滲む様な辛い経験をした私が、勇気を持って告発しているのです。性加害に遭ってもいない人が自分の名誉を貶めてまで告発するはずがないでしょう! 被害者である私達の証言が物的証拠に代わる証拠です。アース・ブリッジ協会の現理事長には、性加害の事実を認めた上で、元理事長の非道な行いを謝罪し、私達の心の傷が癒えるその時まで、収益事業の売上の五パーセントを私達が作る予定の財団に寄付し、私達以外の被害者救済にも尽力してほしいと、そう切に願います』
公益財団法人アース・ブリッジ協会の元理事長、長谷川に性被害を加えられたという自称被害者の女性三人が、署名人数、主語のデカい要求の書かれたボードを持って訴えかけている。そんな動画だ。
この動画は、『アース・ブリッジ協会性加害問題被害者の会』とは別の謎組織、『リライフ・アース・ブリッジ協会の元理事長による性加害を明らかにする会』により全世界に配信されている。
ちなみに、この謎組織『リライフ』という団体名には、『再び生活を取り戻す』といった意味や『誰にでもやり直すチャンスはある。心に灯る光を輝かせ、社会を変える力にする』という願いが込められているそうだ。
アース・ブリッジ協会の性加害問題がニュースに取り上げられた事をきっかけに関心を持つようになり、自分達に何かできる事はないかを考え、組織を立ち上げたらしい。
不思議なものだ。ホームページに記載されている『リライフ』のメンバー紹介を見て見ると、そのほとんどがただの会社員。
普通の会社員が、たった一回放送されたかどうかも分からないニュースに関心を持ち、自分にも何かできる事はないかと仕事をする傍らで、同志を集め組織を立ち上げてホームページを作成し、署名サイトで署名を集めた上、被害者が被害を訴えている動画を外国語に翻訳し、全世界配信なんてできる筈がない。
しかも、何故かこの団体。溝渕エンターテインメントの性加害問題と関連付けて、アース・ブリッジ協会を批判する記者会見を起こし、その内容が何故か民放で放送……何の法的拘束力のないネット署名(ニックネームを含む馬鹿馬鹿しいもの)と共に要望書を送り付けてきた。
明らかに異常。普通の会社員を自称する割に手慣れている。
もしかして、会社員とは名ばかりの市民団体か? 市民団体なのか?
最近、そんなんばっかりだな。いい加減にしろよ。
現都知事により補助金や助成金を止められたら、今度は金を持っていそうな所から集ろうと、そういう魂胆ですか。俺が理事長を務める公益財団法人アース・ブリッジ協会から集ろうと、そういう魂胆なんですか。へー、実に浅ましいお考えですね。
奴等は元理事長である長谷川が謎の失踪を遂げた事を良い事に、自分を貶めてまで性被害者を演じ、傷が癒えるまで永久に収益事業の売上の五パーセントを寄こせと言ってきている。
法的拘束力も長谷川による性加害はないと確信しているので、無視したい所ではあるが……。
「――理事長、大変です! レアメタル連合に参加している企業数社が理事長に対し、前理事長の性加害問題について説明するよう求めています!」
「総務省から適切な説明と対応がなされない場合、補助金停止もあり得ると連絡が――」
「悪戯電話も止まりません!」
とまあ、先ほどからこの様な電話が引っ切り無しに掛かってきており、無視できない状況に追い込まれている。
しかし、偽の情報に踊らされ、義憤で掛けてくる電話や悪戯電話の多さたるや……馬鹿馬鹿し過ぎて溜息が出るな。
何だ、こいつ等。暇なのか?
テレビやネットには虚実入り混じった情報で溢れている。偏向報道だって普通に行われるのだ。ニュースで報道されたからといって、それが真実とは限らない。
現実世界には、ニュースで報道された真偽不明の情報に踊らされた情弱が人や企業の迷惑を顧みず、義憤という名のストレス発散で業務妨害に興じる愚か者が一定数存在する。
非通知の電話はガチャ切り。それ以外の内容は録音する様、徹底させているので、省庁や法人を除き、今、電話を掛けてきているのは、悪戯目的又はストレス発散の個人電話に違いない。
現に掛かってくる電話も「人でなし!」「地獄に堕ちろ!」「〇ね!」といった電話が多い。
「……よし分かった」
まずはお前達からだな、誤った情報に踊らされた行動力のある情弱共め。
批判するという事は、当然の事ながら批判される覚悟もある訳だよな?
公益財団法人だからと言って、やり返さないと思ったら大間違いだぞ?
前理事長である長谷川なら分からないが、今の理事長は俺だからな。
やられたらやり返す。例え、費用に見合わない事だとしても、誤った情報に踊らされた行動力のある情弱共を一匹ずつ潰すのは公益性を有する行動だと俺は思う。
思い込みや勘違いで難癖付けた挙句、謝罪しない愚か者や、正義感を爆発させ、頼んでもいない鉄槌を振りかざす馬鹿者。そして、日頃のうっ憤やストレスを解消する為、悪戯電話してくる害獣共、俺、大嫌いなんだよね。
「とりあえず、うちに掛けてきた電話はすべてBAコンサルティングに回して弁護士会照会制度を使い住所を特定。内容証明郵便を送り裁判を起こす」
BAコンサルティングは、俺が株の半数を持つ弁護士と会計士のいる専門集団。俺関連の訴訟を数多く抱えパンク気味だろうが、それ以上の費用を支払うので人員を増強してでも頑張って欲しい。
俺は、たった一言の誹謗中傷や悪戯電話だったとしても、裁判を起こす。
勝とうが負けようが関係ない。やり返してこないと思い込んでいる馬鹿にはこれ位やらないと本気度合いが伝わらない。
だって、あいつら馬鹿だから。人の言葉が通じないのだから仕方がないのだ。
そもそも、俺に人間の皮を被った獣と言葉を交わす趣味はない。
先に無法を働いたのはあちら側なのだ。
突然、顔に唾を吐きかけられたら、顔にショットガンを喰らわす位が丁度いい。
奴等はこちらが同情して悲しくなる程、愚かなので、そうする事により初めて、撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだという言葉の意味を理解する。
たかが悪戯電話で裁判なんて大袈裟だ、とかスラップ裁判だ、何だと言われようがそんなのは関係ない。
被害を受けた側が、悪質な行為を行った加害者に対し法律の定めに従って厳正な裁きを受けて欲しいと望むのは当然。
「照会できない様なら俺に回せ。その時は、俺が直々に処分を下す」
この世には、飛ばし携帯を使って、身元バレを防ぎ、石を投げる。嫌がらせするのが大好きなクズも一定数存在する。
そういった輩は、エレメンタルをけし掛け、合法的に沈黙させる。
超能力や呪いと同じだ。
こっちの世界はゲーム世界と違いエレメンタルの存在が科学的に証明されていない。
つまり、合法的に分からせる事ができる。
こっちは物理になってしまうが仕方がない。むしろ、本来、こっちで全部対応したい位だ。しかし、それだと、これから愚かな真似をしようとする情弱共には、誰に手を出したからこうなったというのが分からない。
「見てろよ。俺に集ろうとした自称被害者共……お前らの企み。害獣共の処分と同時並行でぶっ潰してやるよ」
その日から数日後、BAコンサルティングにより住所特定され、内容証明郵便が悪戯電話の主達に発送された結果、今度は悪戯電話の代わりに示談申し込みの電話がアース・ブリッジ協会に殺到した。
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