第262話 爆発は芸術だ!③

「――ぎゃあああああああっ!? 世界樹が……私の世界樹がぁぁぁぁ!!!!」

「「「ぎゃあああああああっ!? カケル君の馬鹿ぁぁぁぁ!」」」


 これ以上、攻撃させない様に人質を並べた上でファイヤーウォールを解いたにも拘らず、攻撃を受けた事に絶叫の声を上げるルモンドと、その余波を喰らい泣き叫ぶ『ああああ』達。

 そんな中、アルフォードだけは、その様子を見て静かに頷いていた。


「し、信じられない。あの男には……人の心がないのっ――!?」


 か、仮にも同じ種族の仲間。何故、人間の盾に攻撃できる。

 こんな非道な種族見た事がない。人間とは皆、人間の盾となった同族の事などどうでもいいと思えるほど、関係が希薄な種族なのか……?

 そこは攻撃を躊躇う所だろう。


 人間の盾とは、戦争や紛争において、敵が攻撃目標とする施設の内部や周囲に民間人を配置するなどして牽制し、攻撃を回避する為のもの。

 民間人の存在を意図的に利用する人権意識を持たない人間のクズもしくは犯罪者が好んで利用する肉盾のことを指している。

 ダークエルフであるアルフォードにとって人間はただの物に過ぎない。その為、遠慮なく人間の盾として利用したが、まさかこんな事になるとは……


 世界樹の根からバラバラと焼け落ちた側根が降ってくる中、唖然とした表情を浮かべていると、ケツを蹴り上げ人間の盾とした『ああああ』達が生意気にも泣き言を言い出した。


「――も、もう嫌だぁぁぁぁ! だから俺は反対したんだ! 俺らの事なんてアウト・オブ・ガンチューじゃないかぁぁぁぁ!」

「――聞いていた話と全然、違う。もう帰る! 誰か俺を家に帰してくれぇぇぇぇ!」


 なるほど……確かに、こんな奴等を助けた所で足手纏いにしかならなさそうだ。

 こんな奴らは私でも見捨てる。

 溺れる者は藁にも縋るというが、縋られた方はたまったもんじゃない。

 もし助けたとしても、何故、もっと早く助けなかったと恩知らず且つ厚かましい難癖を付けてきそうだし、それが原因で恨みを買えば背後から刺されそうだ。


 しかし、困った。これでは、世界樹が、世界樹の根が焼け落ちてしまう。敵の捜索と迎撃に向かった臣下達は一体何を……


「ふ、ふへっ……」


 ふと、空を見上げると、不気味に笑うルモンドの姿があった。


「――ふ、ふへひ……ふへひははっ!? も、もう終わりだ。私はお終いだ――」


 ルモンドは、精神に異常をきたしたかの様にケタケタ笑うと脱力し、アルフォードに視線を向ける。


「お、お父様、気を確かに……」

「――気を確かに? 馬鹿を言えっ! 世界樹の守護者の任を果たす事ができぬばかりか、ファイヤーウォールで攻撃してしまう始末……私はもうお終いだぁ――!」


 ルモンドがそう呟くと、急に暗雲が立ち込め、闇が大地を黒く染める。


「――うははははっ! もう駄目だっ! ヘ、ヘルヘイムが、ヘルヘイムの扉が……わ、私はお終いだぁぁぁぁ! アルフォード。アルフォードよ! 頼む。頼みがある!」

「お、お父様? 気を確かに持って! 一体、どうしたというのです!?」


 何を慌てているのか全く分からないまま、そう返事をすると、地面から黒い手が伸びルモンドの体を掴んだ。


「――お、お父様っ!?」


 突然の事に動揺していると、ルモンドは必死になって声を上げる。


「――う、うわぁぁぁぁ!? アルフォード。私の愛しいアルフォードよっ! すぐにダークエルフ達を招集しろっ! すぐにこの国に住むダークエルフすべてを城に召集するのだっ! そうでなければ、私はぁぁぁぁ! 私はぁぁぁぁ――」


 地面から伸びた黒い手はルモンドを地面に叩き付けると、そのまま地面の中に沈めていく。


「――お父様っ!? お父様っ!」


 ルモンドが地中に沈む姿を目の当たりにしたアルフォードは、ルモンドを助ける為、手を伸ばす。


「お父様――!」


 しかし、アルフォードが伸ばした手は虚しくも空を切り、ルモンドが地中に引き摺り込まれていくのをただ黙って見る事しかできなかった。

 ルモンドの指先が地中に引き摺り込まれると共に、闇は消え去り月明かりが地面を照らす。


「――な、何なのっ!? 何なのよ、これぇぇぇぇ!」


 最愛の父、ルモンドを失ったアルフォードは思い切り地面を叩く。


「お、おい。攻撃が……攻撃が止んでいる」

「えっ?」


 人間の盾の一人がそう呟いたのを聞き、アルフォードは顔を上げる。


「攻撃が……世界樹の火の勢いが治まってる?」


 理解が追い付かず唖然とした表情を浮かべていると、こちらに向かってやってくる襲撃者達の……ドワーフ達の足音が聞こえてきた。

 足音の方向に視線を向けると、そこには捕縛された傷だらけのダークエルフ達の姿と、その手綱を引くドワーフの姿がある。


 キッと睨み付ける様な視線を向けると、群衆の中から一人の人間が現れた。


「――やっぱり、あなたの仕業だったのね……!」

「ああ、数日振りだな……」


『やっぱり、あなたの仕業だったのね』とはよく言う。

 相変わらずの被害者気取り、こいつ等の頭の中はどうなっているんだ?

 統合失調症でも患っているのではないだろうか?


 そんな事を考えていると、劣勢にも関わらず、アルフォードが訳の分からない言い出した。


「――今すぐ彼等を放しなさい! お父様をどこにやったのっ!?」

「はあっ? 何を言っているんだ、お前は? 頭……大丈夫か?」


 ドワーフの地下集落を襲い、その反撃に出た俺達を制圧しようとして逆に制圧されたダークエルフ共を開放しろって?

 する訳ねーだろ。アホか、お前は。

 目覚めている時に寝言を言うな。寝言は寝てから言え。白昼夢でも見てんのか?

 それに、お父様って誰だ?

 いや、王女であるこいつの父親という事は、ダークエルフの国の国王?

 えっ? もしかして今、不在なの??

 逃げられると困るんだけど――って、うん?


 そんな事を考えていると、急に暗雲が立ち込め大地を黒く染める。

 そして、地面から伸びた黒い手が俺の足を掴むと、そのまま地面に引きずり込んだ。


「なっ――」


 ――なにぃぃぃぃ!? 何これ、どういう事っ!?

 油断したっ! ダークエルフって、こんな事できるのっ!?

 ゲームの仕様で地中に敵を引きずり込む様な魔法なかったと思うんですけどぉぉぉぉ!?


 ゲーム世界が現実化してからというものの、殆ど、エレメンタル頼りになっていた弊害がここにきて出た。


「くっ! 誰か――」


 地中に引きずり込まれてなるものかと必死になって手を伸ばす。


「こ、この手を掴め――」


 すると、一人のドワーフが甲斐甲斐しくも俺に手を伸ばしてきた。

 突如として伸びてきた蜘蛛の糸を掴む為、手を伸ばそうとすると、その隣にいたドワーフが甲斐甲斐しくも俺に手を貸そうとするドワーフの手を掴み邪魔をする。


「――いや、待てっ! こいつがこのまま地面に引きずり込まれれば、俺達は自由に……」

「そ、そうだっ! ここは一旦、様子を見て……」

「そ、そういえばそうか……!」


「――お、お前等ぁぁぁぁ!」


 それがお前達のやり方かぁぁぁぁ!

 現在進行形で地面に引き摺り込まれている俺を見殺しにしてそんな楽しいか、お前等ぁぁぁぁ!

 ちょっと、笑っている奴までいるじゃないか。嬉しそうな顔をするんじゃない。顔覚えたぞ!

 ここを乗り切ったら絶対に復讐してやるんだからなっ! 覚えていろよぉぉぉぉ!


 心の中でそう絶叫すると共に、目の前がブラックアウトする。

 完全に地中に引きずり込まれたようだ。

 終わった……俺の人生終了のお知らせだ。

 こんな事ならドワーフ引き連れて、ダークエルフに報復しようだなんて思わなければよか……って、うん?

 おかしいな? 地中に引き込まれたのに息ができる??

 どういう事だっ?? 意味が分からん。


 感覚としては、息のできる海中に引きずり込まれた様な感じと言えば分かるだろうか。耳を澄ませると、地上からドワーフ達の悲痛な叫び声が聞こえてくる。


『う、うわぁぁぁぁ!? 誰か、誰か助けて――!』

『だから、助けようといったんだっ! それをお前は――!』

『そんな事、言ったって仕方がないじゃないかっ!? チャンスだと思ったんだよ――!』


 地面の中にいるにしては随分と良く響く悔恨の声だ。

 どうやら、エレメンタル達がダークエルフの拘束を解いた様だ。

 まあ、その場に常駐するようお願いしていなかったからな。お願いしていない以上、俺がいなくなれば持ち場を離れて俺を追いかけてくるのは当然。

 そんなお前達に、この言葉を贈ろう。『ざまぁ』という言の葉を。


 まあ、今はそんな事はどうでもいい。俺を見殺し?にしたドワーフ達の事は一旦、置いておこう。ちょっとスッキリしたが、大事なのは、俺がこれからどうなるのか。ただ、それだけだ。

 地中にも関わらず、息はできるし、謎の手に捕まれている足は無理でも手は動く。

 これなら、メニューバーを開きログアウトしてしまうという手も……

 いや、駄目か……


 例えば、今、ここでメニューバーを開き、ログアウトしたとしよう。

 そうすれば、多分、この危機的な状況から簡単に逃れる事ができると思う。

 しかし、その場合、もう二度とゲーム世界にログインできなくなってしまうだろう。

 再びログインする地点は、最後にログアウトした地点と決まっている。

 つまり、ログイン箇所は土の中。これでは、ゲーム世界にログインできないも同然だ。

 そうなると、困るのは俺だ。折角、レアメタルを売る任意団体を立ち上げ、流通網も引いたのにすべてがおジャンとなってしまう。

 と、なると、俺にできる事はただ一つ。

 流れに身を任せ、俺の足を物理的に引っ張っている存在の下に向かう他ないと、そういう事の様だ。まあ、最悪、命の危険を感じたらログアウトしたらいい。

 流石にレアメタルの為に命を懸けるなんて馬鹿らしいからな。

 そんな事を考えていると、足を掴んでいたはずの手がふと消え、代わりに浮遊感が襲ってくる。


「――って、あれ? ぎゃあああああっ!? 冷たっ!? なんだここ、滅茶苦茶、寒いですけれどもっ??」


 目を開くと、いつの間にか知らない場所にいた。

 辺り一面銀世界。周囲には誰もいない……と、思ったら誰かいた。

 黒い肌に尖った耳。どうやらこいつ、ダークエルフの様だ。

 しかし、何故、ダークエルフがこんな所に……

 そんな事を考えていると、ダークエルフが話しかけてくる。


「ぶるぶるっ……そ、そこのモブ・フェンリルよ。何か暖かい物は持っていないか……ま、魔力を使い切ってしまい死にそうなのだ……いや、今はとりあえず、その毛皮でこの私を温めてくれ……!」


 そして、有無を言わさず俺の方に向かってくると、タックルでもかますかの様に、ダークエルフが俺に向かって突っ込んできた。

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