第260話 爆発は芸術だ!①
まあ、痴呆気味な老ドワーフの事は置いておこう。
今は被害状況の確認が先だ。
「――それで、被害状況は?」
『は、はい。カケル様のお力添え頂いたお陰で、金品を略奪された位のものです。殆ど被害はありません』
「――はあっ?」
何を言ってるんだ?
金品の強奪って滅茶苦茶被害に遭っているじゃないか。
――と、言うより、人の金品を奪っておいて、ドワーフ達を半殺しにするって、知性ある生命体として、大丈夫?
金品奪って命まで奪おうとするなんて頭イカれてんだろ。盗賊か何かか?
「……それで、何を奪われたんだ?」
『はい。先祖が残した大切な宝物と、金庫にしまってあった宝石です。数億コルの価値がある宝石もあったのですが、すべて奪われてしまいました』
「数億コルか……」
先祖が残した大切な宝物と金品か。それは一大事だな。しかし、何で悠長に『金品は盗られてしまったが、命だけでも無事でよかった』見たいな空気醸し出しているんだ?
先祖が残した大切な物を守る為に自決する覚悟とやらはどこに行った?
初めて会った時、そんな事を言っていただろ……
まあでも、わかるよ。意見を変えるその気持ち。
金より命の方が大切だもんね。貨幣経済が発達していないこの世界においては……
しかし、俺は違う。貨幣経済が発達した世界から来た人間だ。
金は命より重い。
焼き土下座をしたどこぞの中間管理職がそう教えてくれたんだ。間違いない。だから……
「――ちょっと、ダークエルフ滅ぼしてくるわ……」
金は命より重いのだから当然だ。
奴等は知的生命体としてやってはならない事をした。
奴等は卑怯にも近接戦闘しかできないドワーフに遠距離攻撃を仕掛け、挙句の果てには将来、俺の物になるはずだった金品を略奪したのだ。
つまりこれは、俺個人に対し略奪行為をしたに等しい。
到底許させる行為ではない。
『――えっ? ち、ちょっと待ってください!?』
「あっ? なんだよ」
何故この俺が待たなければならない。
意味が分からずそう尋ねると、族長ドワーフがとんでもない事を口にする。
『じ、実は数名ほど、ダークエルフに攫われてしまいまして……その物達を助けるという事は、再び、ダークエルフと戦う事を意味している訳で……』
「はあっ? ダークエルフに攫われた奴がいるの?」
金品奪っただけではなく拉致まで行うとか、マジでドン引きだわ。気持ち悪っ!
害悪度が増しに増したなダークエルフ。
つーか、族長ドワーフ。お前、さっき『金品を略奪された位のものです。殆ど被害はありません』って言ったよね?
もしかして、連れ去られたドワーフ……お前がさっき言ってた『殆ど』にカウントされてたの?
カウントされてないよね?
そうだとしたら可哀想過ぎるだろ。
そんな事を考えていると、族長ドワーフが言い辛そうに答える。
『あの……大変言い辛いのですが、助かった我々の為にも、奴等を助けるなんて馬鹿な真似は考えないで欲し……ぶはっ!?』
訳の分からない事を口走りそうになっていたので、とりあえず、気絶させ口を塞ぐ事にした。
仮にもドワーフの族長として、言っちゃ駄目だろその言葉……。
言い切る前に止めてやった事を感謝しろよ。ゲス野郎。
そんな思いをアイテムストレージから取り出したガムテープに乗せ、族長ドワーフの口をガムテープで物理的に塞ぎ、他のドワーフに視線を向ける。
「――さて……なあ、このクソボケ老ドワーフ以外で、ダークエルフに戦いを仕掛ける事に日和ってる奴、いるー? いねーよなぁ!?」
ドワーフ達を見ると明らかに日和っている奴がいる。しかし、そんな事、俺には関係ない。奴等は俺を敵に回した。わかるか?
俺を敵に回したんだ。
ダークエルフのレベルは前回、実際に会った事で大体わかっている。
ダークエルフは確かに強いかも知れない。
しかし、それは俺達に対してだけだ。
エレメンタルに比べれば遥かに弱い。それだけわかっていれば十分だ。
俺にはエレメンタルさん達がバックに付いているんだぞ?
エレメンタルさん超強いんだぞ。腐れダークエルフに負ける訳ないだろ。
エレメンタル強化チケットを限界まで使ったエレメンタルさん舐めんなよ。
とはいえ、すべてをエレメンタルに片付けて貰っても、その場限りの対応にしかならない。それでは、今後の対策として不十分だ。
なので……
「……よし。お前達の気持ちはよく分かった」
反対の声を上げず黙ったまま俯いているという事は、俺の意見に賛同したという事。俺は悪い笑みを浮かべ、俯くドワーフ達に語り掛ける。
「本日の夜、ダークエルフの住処を強襲する。お前らにはそれまでの間に筒を作って貰うぞ……」
『つ、筒……?』
「ああ、金属製のな……魔法が使えないお前達にも使える取っておきの兵器を用意してやるよ」
それを持って逆侵略だ。少なくとも、俺の庇護下にあるドワーフを襲い金品を強奪した報いは受けて貰う。
「……さて、諸君。報復と行こうじゃないか……」
先に仕掛けてきたのはダークエルフだ。
その結果、被る被害や責任はすべてダークエルフが負うのが道理。
乗り気ではないドワーフ達を見下ろすと、俺は一人笑みを浮かべた。
◆◇◆
その頃、ドワーフの住む地下集落襲撃に成功してしまったダークエルフの王女こと、アルフォードは憂鬱な視線を捕虜として捕らえ牢屋に監禁中のドワーフ達に向けていた。
「ど、どうしよう。これ、絶対に報復されるわよね? 絶対に報復されるわよね??」
ダークエルフの軍勢が地下集落を襲撃した際、その場に、エレメンタルを操る人間の姿がなかった。そのお陰で、スムーズに襲撃できてしまったとも言える。
父様は隷属の首輪を嵌め、契約書で私の事を縛った人間を見つける事ができず憤慨し、腹いせとして道中発見した人間の集団をついでに捕らえ帰ってきたが、本気で拙い気がする。
私はその手の勘が鋭いのだ。
完全に滅ぼしたドワーフの地下集落。
そこから報復の狼煙が上がるのではないかと、本気で心配している。
考え事をしていると、牢屋に入れたドワーフと人間共が自分の立場を忘れ過分な要求をしてくる。
「出せよ。今すぐ出してくれ!」
「そうだっ! ドワーフ達から聞いたぞ。お前、なんて事をしてくれたんだ! よりにもよって、あのカケル君を敵に回すなんて……!」
個人的に、彼等には、そのカケル君とやらを牽制する為の道具になってくれる事を期待しているのだが、難しいだろうか。
「はあ……あなた達には、そのカケル君とやらを牽制して貰う為、特別に保全しているのだけどね。難しい様であれば、そのカケル君を捕らえる事ができず憤慨しているお父様の下に送って上げてもいいんだけど、どうする? お父様に拷問され世界樹の養分になりたい?」
ダメ元でそう告げると、人間達は掌を返したかの様に発言を変えた。
「……と、まあ少し厳しい意見を言わせて貰ったが、確かにそれは俺達以外にできる事ではないな。うん」
「僕もそう思っていたんだよ。カケル君も僕達の言葉であれは、とりあえずは耳を傾けてくれる筈だ。なので、父君の下に僕達を送るのは時期尚早だと思うな」
「待遇改善のみを要求する。カケル君を牽制するのは骨が折れる。栄養と休息を十分取りカケル君牽制に備えなければならないからな」
「――あなた達ね……」
この者達は自分の立場というものを本当に理解しているのだろうか。
頭を抱えそう呟くと、牢屋の中からドワーフがいなくなっている事に気付く。
「うん? ドワーフはどこに――」
そう呟いた瞬間、『ドーンッ!』という爆発音が鳴り響いた。
◆◇◆
その日の夜、新橋大学付属病院特別個室のコンシェルジュに依頼し、無理を言って集めて貰った物をアイテムストレージから取り出すと、それをドワーフ謹製の筒に入れ、照準を付ける。
『――ほ、本当にやる気ですか……? 今からでも、遅くはない。やめておいた方がいいんじゃ……』と、まあ、馬鹿な事を言うドワーフに一瞬微笑みかけると、導火線に点火した。
「族長ドワーフ君。お前、そんな喋り方じゃなかっただろ? 何を日和っているんだ? もう導火線に火がついてしまったんだから、諦めて腹をくくれよ。大丈夫だって、ただダークエルフの大切な物を破壊して、奪われた物すべてを奪い返し、賠償を支払わせるだけだから……」
『い、いや、ですから、それが心配だといって……』
ごちゃごちゃ煩い奴だ。
諦めて腹をくくれといっただろう。
導火線に火が付いた以上、もう遅いんだよ。
「――照準! ダークエルフの大切にしている世界樹の根を狙えっ! そろそろ、発射の時間だぞっ! 3,2,1――ファイヤ!」
導火線の燃え進み方を見ながらそう合図する。
すると『――ドンッ!』という音と共に砲台から丸玉が発射された。
「――たーまやー」
そう言うと数秒してから、丸玉が爆発し、派手に飛び散った火花が次々と世界樹の根に火花を浴びせかけていく。
もうお分かりだろう。俺がコンシェルジュに頼んで買って貰ったのは、信じられないほど大きい打ち上げ花火。
特注の四十号玉もある。直径七百五十メートルの大輪を咲かせる花火玉だ。
闇に咲く大輪の花。闇夜を照らす花火のコントラストが美しい。
爆発は芸術だとはよくいったものだ。確かに、芸術的に美しい。
「よーし! どんどん導火線に火を付けろ! ドワーフの地下集落を二度に渡り滅ぼそうとした奴等だ! 手加減はいらねぇよ!」
『し、しかし、それではダークエルフに攫われた人質が……!?』
「――人質?」
そんなのはもう助けたに決まってんだろ。
エレメンタルさんの力を舐めんなよ。
つーか、お前、俺が最初に問いただした時、『助かった我々の為にも、奴等を助けるなんて馬鹿な真似は考えないで欲し……』とか言ってなかったっけ?
何とも思っていなかった人質を戦わない為の理由に使うなよ。ダブルスタンダードは身を滅ぼすぞ。
そう呟くと、嬉々として導火線に火を付けるドワーフ達に視線を向ける。
『ま、まさか……あの者達は……!?』
「ああ、そうだよ。影の精霊・シャドーが取り返した人質だ。今は花火への点火役を買って出て貰っている」
あいつらの顔を見てみろ。
嬉々とした顔で、凶悪な爆発力のある四十号玉が入った筒の導火線に着火しているぞ。
あれが理不尽に住む場所を襲われ、攫われた者が復讐心に囚われた者の正しい姿だ。お前等も見習え。
「さあ、ドンドン点火しろっ! 誰を敵に回したのか思い知らせてやるんだっ!」
特注の四十号玉を次々と筒の近くに置くと、俺は点火し、花火を打ち上げるように煽っていく。
その日、ダークエルフの大切にしている世界樹の根に花火の嵐が吹き荒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます