第259話 まあ、俺を怒らせたんだ。こうなるのも仕方がないよね
市民活動家の面々に悪質な嫌がらせをされた俺は、エレメンタル達の報告を聞きながら、新橋大学附属病院の特別個室で珈琲を啜っていた。
エレメンタル達からの報告といっても、インスピレーションでそれを読み取っているに過ぎない。なんか楽しそうに俺の周りをピカピカ光りながら回っているので、多分、破壊工作に成功したのだろう。
ニュースや東京商工リサーチでも、この数日間で『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』と深い繋がりのありそうな環境活動団体が軒並み破産手続きを行っている事が報じられている。
中には、金に困って団体の資金を横領した人や、寄付金や補助金を目的外利用し、政治活動を行っていた非営利活動法人まであったらしい。まったく、信じられない奴らだ。仮にも、寄付や補助金で運営している非営利活動法人の金を横領したり、目的外利用するなんて……。
今回の一件で、そういった金が活動家又は、自称市民団体の資金源となっている事がよくわかった。
「……そっか。これで少しはあの界隈の人達も、大人しくなればいいんだけど」
少々、過激な療法(暴力団に寄生され、事あるごとに金をせびられる)だったかも知れないが、自業自得だ。まったく可哀想だと思わない。むしろ、これで終わったと思われるのは心外というもの。
俺の事務所に破壊活動を行った活動家の連中は皆、破滅させる予定だし、今回、潰れなかった『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』も最終的には、暴力団との関与を暴露し、これまで貰っていた補助金や助成金を返還させる予定だ。
しばらくの間は、是非とも反省し、ダニに寄生される苦しさや鬱陶しさ、迷惑さを理解してほしい。
まあそもそも、本当に社会を変えたい。物事を解決したいと願うなら、迷惑活動になんか時間を割かず、国会議員にでも立候補すればいいと思うんだけど……。
国民が賛同し、本当に必要であると理解してもらえるならなれるだろうさ。議員様にね。
まあ、批判する側からされる側になるのだから、普段、政権を批判してばかりのプロ市民や活動家が進んでなろうと思うのか疑問だけど……。
とりあえず、自分達の思想を実現する為の活動資金を得る為に、俺達の税金をかすめ取る様な真似をするのだけはマジでやめろ。普通に害悪だし、税金は国民の共同社会を維持するための、いわば会費のようなもの。
当然使い道も、民主主義によって決められる。活動家の活動資金にしていいものじゃあないんだよ。そういうのは、有志による寄付でやってくれ。その為に、この国には寄付金制度が存在するのだから。まあ、寄付金が集まるかどうかは分からないけどね。
「さてと、後はあれを推し進めるだけだな……」
優秀なエレメンタルの調査により、公益財団法人アース・ブリッジ協会が環境活動団体『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』をうちに送り込みデモ活動、破壊活動を行った事は分かっている。
あちら側が何も仕掛けてこなければ、こちらも動く事はなかったというのに愚かな奴等だ。
自分の思い通りにいかないの嫌さに癇癪持ちの活動家を嗾しかけてくる様な連中は、再起不能に追い込んでやらなきゃいけないな。
そんな邪悪が社会生活に溶け込み生活を送っているというだけで反吐が出る。
「これでよし。さてと……」
キーボードをタップし、会田さんにメールを送ると、ノートパソコンを閉じて立ち上がる。
ドワーフ達を殲滅する為、地下集落を襲撃してきたダークエルフをその日の内に撃退してから六日経過した。
そろそろ、動きがあっても良さそうだ。
あのダークエルフはちゃんと賠償金を支払ってくれるだろうか?
一括で支払う。又は、支払う意思を見せ分割払いの提案がなかった場合、俺は俺の権利を守る為、ダークエルフと戦わなければならない。
当然だ。ダークエルフは俺の金のなる木を伐採しようとした極悪人。優しい俺が仲介に入ってやったからこそ、あの程度の賠償金で済ませてやっているのだ。
普通、侵略を仕掛けてきた側が逆侵攻され根絶やしにされても文句は言えない。
根絶やしにせず、五兆コルの賠償で済ませたのは恩情である。恩情であるからには、それを反故にされた場合、滅するしかない。
「とりあえず、ログインしてみるか……」
なんだか怖い気もするが、行ってみない事には状況もわからない。
まあ影の精霊・シャドーを地下集落の守護に付けているし、多分、大丈夫だろう。
ダークエルフは精霊を信仰していたようだし、流石のダークエルフも信仰の対象に狼藉を働く様な真似しない筈だと……そんな風に考えていた時もありました。
「――なぁ……、なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああっ!?」
ドワーフの住む地下集落に辿り着いた俺は絶叫を上げた。
あ、あの侵略者共……恩を仇で返しやがった!
五兆コルの賠償金を支払う所か、逆侵攻をかけてくるとはあの腐れダークエルフゥゥゥゥ! 許せない!!
崩れ落ちた地下集落。
血塗れのドワーフ達。そして、略奪された金品。
瓦礫の山と化した地下集落の前で立ち竦んでいると、影の精霊・シャドーが瀕死の重傷を負ったドワーフ達を影の中から運んでくる。
どうやら、影の精霊・シャドーは、侵攻してきたダークエルフの軍勢を見て、多勢に無勢と感じたのか、迎撃から守護に対応を変えた様だ。
地下集落や金品は守り切れていないが、人命だけは守ったと、そういう事だろう。
流石はエレメンタル。尊い。
『――族長……族長ォォォォ!』
地下集落の様子を伺っていると、ドワーフ達が族長ドワーフを囲み何やら嘆いている。
『……ワシはもう駄目だ――』
『――族長……そんな事、言うなよ族長……』
族長ドワーフは力なく手を伸ばし、若いドワーフの肩に震える手を置いた。
『――ワシは族長という役目を降りる。後の事はお前達に任せたぞ……必ず、必ず、復興して見せるのだ。このワシの老後の為にも……ガクッ……』
『『『――族長ォォォォ!!』』』
目を閉じ、すやすやと夢の世界に旅立っていった族長ドワーフを尻目に俺は思う。
これが『ツケを回す』という事かと……。
あの族長ドワーフ。『ワシはもう駄目だ』とか言いながら『ワシの老後の為に(頑張れ)』って頭おかしいだろ。
つーか、なんで泣いてんの? なんで泣いてんの?
お前達が囲んでいる族長ドワーフ。自分の老後の為に頑張ってとしか言ってないよ?
なのになんで泣いてんの?
なんで、ツケ回されて咽び泣いてんの?
もしかして喜んでんの? 喜んでんの??
そこで横になっている族長ドワーフはただ、面倒事から逃げたいだけの老害だよ?
ダークエルフが侵攻してきた責任の一端は俺にあるかも知れないけれども。
面倒事がやってきた事に対し、嬉々としてむせび喜ぶドワーフの変態性を目の当たりにした俺は頭を抱えながら、アイテムストレージから回復薬を取り出した。
「……シャドー。これでけが人を治してくれる? それと、あそこにいる族長ドワーフには、この上級回復薬を飲ませておいて」
先に言っておくが、逃がさねーよ?
確かに、今回の件は俺にも責任があるだろう。
しかし、ドワーフ側にも責任の一端はある筈だ。
っていうか、何でこんなに惰弱で脆弱なの??
弱すぎるだろお前等!?
命名神シリーズ装備を身に着けた『ああああ』達に良く勝てたなお前等。
影の精霊・シャドーに回復薬を渡すと、シャドーはそれをドワーフ達に飲ませていく(強制)。すると、族長ドワーフが夢の世界から舞い戻ってきた。
『――ぶはっ!? な、なにをするんじゃ! 折角、良い感じに族長という立場を引き継ぐことが……』
「お前こそ、なにを勝手に隠居しようとしてるんだ?」
強制的に回復薬を服用させた族長ドワーフに話しかけると、俺の顔を見た族長ドワーフは顔を引き攣らせる。
『――げえっ!? お、お前は……』
「――あ? お前??」
誰に向かってものを言ってるんだ?
お前、何様だ?
俺がそう言うと、族長ドワーフは首を振る。
「――お前、引退を表明する前にやるべき事があるだろ。首を横に振ってないで説明しろ。被害状況は? 誰にやられた? ダークエルフにやられたのか?」
『……ああ、そうだ。ダークエルフの軍勢に襲われた。あ奴等はワシ等と違い魔法を操る。遠距離から攻撃されてはどうしようもない。被害状況は、見れば分かるだろう!』
何をキレているんだ。逆ギレか?
まあいい。やはり、俺の思った通り地下集落を襲撃したのはダークエルフだっととそういう事か。許せん。
「――わかった。今回の件、すまなかった」
そう。俺が頭を下げると、ドワーフ達は目を見開き、顔を見合わせた。
『いきなりどうした』『頭でも打ったんじゃないか』といった声が聞こえてくる。
族長ドワーフはというと、ここぞと言わんばかりにふんぞり返り、これまでのストレスを発散するかの如く罵声を浴びせかけてくる。
『――お前が、原因か……! 人間風情が……お前が下げた頭に何の価値がある! お前が下手にダークエルフなんかに喧嘩を売るからこんな事になったんだっ! 身をわきまえろ!』
「――すまなかった」
確かにそうだ。こんな事を言われる位なら、以前、ダークエルフの侵攻を受けた時、見て見ぬふりをすれば良かった。今更ながら反省だ。
次見かけたら、そうしよう。
謝罪をしながら、決意を新たにそんな事を考えていると、何をトチ狂ったのか族長ドワーフがいい気になって、賠償を要求してくる。
『ふん! 言葉だけの謝罪なんて幾らでもできる! 心の底から申し訳ないと思っているなら誠意を見せろ! 一生、ワシ等に尽くし、集落が復興するまでの間、奴隷として働け――』
「――あっ?」
頭を下げながらそう呟くと、その場の空気が凍り付く。
なるほど、よく分かった。お前等の性分という奴がな……。
「――クロノス」
そう。時の精霊・クロノスに声をかけると、地下集落に巨大な時計が出現し、時間が巻き戻っていく。
「……さてと、ドワーフ達が負った傷は回復薬で回復した。ダークエルフに破壊された地下集落は復興させた。後、やるべき事はなんだったかなぁ? ああ、そう言えば、今、何か言った? ちょっと、よく聞こえなかったんだけど、奴隷がどうとか言ってなかった?」
時の精霊・クロノスを撫でながらそう言うと、族長ドワーフは汗をだらだらと流し、もみ手をしながら笑顔を浮かべた。
『――と、いうのは冗談です。い、嫌だなぁ……老ドワーフであるワシの戯言を本気にしないで下さいよ』
「そう? それにしては真に迫っていたみたいだったけど……」
『と、とんでもない――ワシはそんな……』
そう言うと、族長ドワーフはもみ手をしたまま卑屈な笑みを浮かべた。
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