第257話 えっ?周りを巻き込むなって?それは俺に加害行為を働いた人に言ってください①

 エレメンタルが日本中に散り、一番初めに起こった事。

 それは、爆発だった。


 ――ボンッ! ボン、ボン、ボン、ボンッ!!


 面白半分、冗談半分……そして、日頃のストレスを解消する為、加害行為に乗っかっても匿名だから何を言っても訴えられる事も、仕返しされる事もない。

 そんな軽い想いで、非通知電話や捨て垢から誹謗中傷、ダイレクトメッセージによる殺人予告を送った者達のスマホやタブレット。

 それらすべてが、置いて席を立ち距離を取った瞬間、同時多発的に爆発していく。


 電子機器突然の爆発により蜂の巣を突いた様な騒ぎとなった会社の一室を覗き見ると……


「う、うわっ!? 何だっ? 一体、何が起きている!?」

「テ、テロだっ! 誰か警察を――!」

「きゃああああっ!? 買ったばかりのスマホがぁぁぁぁ!」

「馬鹿っ! そんな事を言ってる場合じゃないだろっ!」


 そう叫んだ視線の先には、煙を立て出火中のスマホが置いてある。


「――か、火事だ! 誰かっ、誰か消火器を持ってこいっ! 消防署に電話をっ!」

「だ、駄目です! 繋がりませんっ!!」

「な、なにっ――!?」


 同時多発的に発生した電子機器の爆発事故。

 これにより、消防署の電話がパンク。

 それだけではない。

 スマホ爆発の傍らで、作業中のパソコンが突然ブラックアウトすると、画面が真っ赤に染まり警告音が鳴り響く。


「――はっ?」


 意味がわからずパソコンを凝視すると、触れてもいないのにパソコンが勝手に動き出す。

 目の前で起こった出来事に唖然とした表情を浮かべていると、今度は、社内の内線が鳴り始める。

 それ所ではないので内線を放置していると、今度はフロア内に血相を変えた社長が怒鳴り込んできた。


「――小嶋、小嶋はいるか……って、なんだこれはぁぁぁぁ!?」


 そして、件の社員、小嶋の胸ぐらを掴むと、唾を飛ばしながら詰問する。


「小嶋君、君はぁぁぁぁ! なんて事をしてくれたんだっ!?」

「ち、ちょっと、社長!? 何のことですか!? 状況を見てください。今はそれ所じゃあないでしょう!? 時と場合を考えて……」

「黙れぇぇぇぇ! 状況が見えていないのは君だ! 小嶋君……君は、とんでもない事をしてくれたなぁぁぁぁ!」

「と、とんでもない事? ぼ、僕が一体、何をしたと言うんですか!?」


 小嶋からしてみれば、席を立ってすぐ電子機器が爆発し、ウイルス感染していたのかパソコンが勝手に動き始めたのだから、それを自分のせいにされたのでは溜まったものではない。

 そう反論すると、社長は会社支給のタブレット端末を見せ付けてくる。

 そこには、個人情報そして、社外秘情報を垂れ流すアカウント名が本名に書きかわった自らのSNSの画面があった。


「はっ? いや、これは……」


 突然提示された自らのアカウントに唖然とした表情を浮かべていると、社長が顔を真っ赤に染め怒り狂いながら更なる詰問をしてくる。


「――君は勤務時間中にも拘らず、SNSに現を抜かしていたみたいだなっ! 大方、その時、ウイルスでも拾ってきたのだろう。君しか知らない筈の社外秘が駄々洩れじゃないか! すべて君の個人的なSNSやメールからそれが流れている! 今すぐ止めたまえっ! 今すぐにだっ!」

「そ、そんな事を言われても……」


 視界の先には、燃え盛るデスクと、その傍らで外部に情報を吐き出しまくるパソコン端末。


「――いいから、今すぐ何とかしなさい! できない場合は……君はクビだっ! 損害賠償も請求するから覚悟しておくんだなっ!」

「そ、そんなっ!? そんな事、できる訳が……!?」


 爆発した電子機器の持ち主は、皆、揃って、これと似たような状況に追い込まれ、意味が分からないと、爆発し燃え盛る電子機器に視線を向ける。

 不思議な事に、電子機器の爆発による出火で燃えたのは、カケル達に加害行為を行った者の電子機器の置いてあった半径一メートル以内だけ……。

 当然の事ながら、組織的に集会し、カケル達の嫌がらせを行っていた集会場はそれにより全焼。

「そ、そんな……」と、ただ呆然とした表情を浮かべる他ない。


 当然だ。それをやったのは、カケルの願いを聞き入れ日本中に散ったエレメンタル。活動家、非活動家関らず、カケルに仇なす者達を標的にし、周りを巻きこんで的確にダメージを与えていく。


 しかし、これは始まりに過ぎなかった。


『【拡散希望】「紛争鉱物にNO!取引を行う加害企業に反対する」◯月◯日午前九時より新橋駅近くの◯◯事務所前。プラカードを持ってご参加ください』

 SNSを見ていると、フォローしている市民活動家からメッセージが届く。

 デモ活動に興味を持ったのは、震災の影響で原発事故が起こり、脱原発の声が大きくなった頃。

 主催は、国会議事堂前で原発反対のデモ活動を行ってきた市民活動家グループだ。

 その日は、雲一つない快晴。絶好のデモ活動日和。

 SNSなどの呼びかけで集まった人達は数百人に上る。

 国会議事堂前では既に多くの人達が押し掛けており、市民活動家の方達がビラ配りや署名活動の協力を呼び掛けていた。

 これからデモ活動が行われるというのに、どこか和やかで、デモ活動の参加者に声をかけると気さくに応じてくれる人が多く、中には、「気楽にやろう」と笑いながらペットボトルをくれる人もいる。

 そんな彼等と共に、いざ、国会議事堂へ。

 プラカードを持ち、シュプレヒコールを鳴り響かせながら国会議事堂前まで進むと、至る所に設置されたスピーカーから市民活動家の大きな声が響く。

 政府を批判する声、救済を求める声、デモに参加する人の思惑は様々だ。

 これまでは、自分一人が声を上げてもどうにもならない。

 そんな思いが心の内にあった。

 しかし、デモ活動に参加する事で思う事もある。それは、多くの人と共に声を上げる大切さ。

 声を上げる事で一歩踏み出せた様に感じたし、デモ活動参加者との一体感や活動が終わった時の達成感。プラカードを沿道の人達に見せて歩く事には一種の気持ちよさを感じた。

 そこからだ。ボクが市民活動に参画的になったのは……。


 ボクは無言でキーボードを叩き、いつもと同じ様にデリバリーピザの注文をする。

 支払方法は当然、現地での現金払い。

 悪戯だと思われない様に、頼むピザは三枚だけ。

 他のサイトでも宅配寿司を頼む予定なのでこれでいい。

 紛争鉱物を扱う加害企業の住所はSNS上に流れている。


 加害企業に少しでも嫌な気持ちを味わって貰いたい。なにせボク達は、その何倍もの嫌な気持ちを味わっているのだ。加害企業なんてこの世から無くなればいい。


 そんな気持ちを込めて注文ボタンをクリックすると、突然、画面が真っ暗になった。


「――えっ?」


 思わず、呆然とした表情を浮かべる。


 え、あれっ? 何でっ??

 パソコンが壊れた? そんな筈が……だって、これ一週間前に買い替えたばかりのパソコンだぞ?


 しかし、それも一瞬の事。画面が元に戻った事を確認すると、ボクはホッと息を吐く。


「あ……あー、驚いた。そうだよね。買ったばかりだもんね」


 買ったばかりのパソコンが壊れる筈がない。

 そう安堵すると、席を立ち、背伸びする。


 そろそろ、シャワーでも浴びてくるか……。

 時計を見ると、午後七時。

 ボクはパソコンを付けっぱなしにしたまま、タンスから着替えを取り出すとシャワーを浴びる為、風呂場へ向かう。


 それと時を同じくして、勝手にパソコンが動き出す。

 今、男が注文した注文を取り消すと、男のクレジットカード、そして、デビットカードの番号を入力し、返品のきかない生ものをクレジット決済で大量に注文していく。

 その注文確認メールが大量にメールフォルダに届くものの、注文確認メールが届くたびに開封し、ゴミ箱へと消し去る為、注文した履歴も残らない。

 また、男の持つFX口座にアクセスすると、二十五倍のレバレッジをかけ、カケルも知らない時の精霊・クロノスの能力、未来予知により百パーセント損をする通貨に投資する。


「――ふうっ、さて、続きをするか……」


 シャワーを浴び戻ってきた男は、現在進行形でFXでとんでもない損失を出している事に気付くことなくネットデモに邁進。気付いた頃には、時すでに遅し。とんでもない借金が積み上がっている事に愕然とした表情を浮かべ破産申請する為、弁護士事務所を訪れる事になる。


 同刻。任意団体宝くじ研究会の職員が集まって何かを企んでいると密告を受けた活動家達が密告のあったビルの前で待ち構えていると、ビルの中から人が出てきたのを確認し、動き出す。


「あっ、出てきたぞ!」

「紛争鉱物を売り捌き人権侵害に加担する企業の職員の方ですよね!」

「何とか言ったらどうなんですか? 紛争鉱物を売って、コンゴの子供達が可哀想だと思わないんですか! どうなんですか?」

「あなた方がコンゴの子供達の未来を奪っているんですよっ!」

「こんな町外れで隠れて取引しても無駄ですよ。すべてお見通しなんですから!」


 ビルから出てきた人が任意団体宝くじ研究会レアメタル事業部の人間である事を信じてやまない活動家達は、ビルから出てきた人達を囲むと責め立てるように糾弾していく。

 すると、ビルから出てきた男達が突如として姿を変え、黒いスーツを着て、サングラスをかけた、いかにも気質ではなさそうな男達に変貌した。


「――どこの者だ。取引が行われている事を誰に聞いた?」


 活動家達の退路を塞ぐように黒いハイエースが道を塞ぐ。


「「「――えっ……?」」」


 状況について行けず、呆然とした表情を浮かべる活動家達。

 当然だ。ただの一般職員を寄って集って責め立てるのと、その筋の人間を寄って集って責め立てるのとでは、訳が違う。


「――うん? お前等、どこかで見た事があるな……まあいい。金の密輸を知られたからにはタダで帰す訳にはいかねぇな……」

「き、金の密輸……」


 活動家の内一人がそう呟くと、男達は怪訝な表情を浮かべる。


「――あ? コンゴから(金の)密輸を抗議してきたのはテメーらだろうが……何、言っていやがるんだ?」

「えっ? いや、それは……」


 確かにそうだが、それは任意団体宝くじ研究会だと思っていたからで、暴力団組員だと知っていたら、誰が関わり合いになろうと思うものか……


「おい……」


 男がそう呟くと、ハイエースの中から組員達が出てくる。


「えっ? なにを……」

「ひっ! や、やめっ!?」


 そして、活動家達を捕らえると、組員の男は活動家の男の頭を踏み付けドスの効いた声で威圧する様に言う。


「……お前等、生きて帰れねーぞ? 全員、仲良く山にでも埋めてやるからな。最後に聴きたい曲はあるか? 黄泉への手向けに聞かせてやるよ」


 その言葉に活動家達は、全員揃って青褪めさせる。


「――ドナドナなんて良いんじゃないか? なあ、お前。どう思うよ。名案だろ? 何とか言えよ。つい数分前までは、大きな声で俺達の事を恫喝していただろ、なあ――?」

「ど、恫喝なんてそんなっ……」


 活動家の一人がそう呟くと、組員の男はがドスの利いた声を上げる。


「――あ? 俺、間違った事、言ったか? なあ? どうなんだよっ!」


 組員の男は、反論した活動家の男の腹を軽く殴り付ける。


「――うぐっ!? げほっ、げほっ!」


 せき込む男。

 組員の男は、活動家の男の髪を掴むと乱暴に車の後部座席に押し込み、車の中で暴行を繰り返した。


「――も、もう止め……」

「……お前よぉ……自分の立場、わかってんのか? わかってんのかってっ!?」

「――ぐううっ!?」


 腹を蹴られもんどり打つ活動家の男。

 組員の男は活動家の男に唾を吐きかけると、髪を掴み強引に持ち上げた。


「それで……誰の差し金だ? 誰に密輸の事を聞いた?」

「うっ……それは……ぎゃっ!?」


 活動家の男の要領得ない発言に、組員の男は平手打ちする。


「――誰だって聞いているんだよ!」

「し、知らない! 本当だ……いえ、本当です! 本当なんです!!」


 正直、誰が言ったかなんて知らない。

 知らされていない。ただ、この場所に集まるようSNSで指示があったから来ただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。


「そうか……それじゃあ、お前から死ぬか……」


 組員の男がナイフを取り出すと、活動家の男は泣きながら、頭に浮かんだ名前を口にした。


「ち、ちょっと! ちょっと待っ! 本当に知らなかっ……し、白石……白石美穂子さんの指示でここに……」

「――白石美穂子? 誰だそれは?」

「そ、それは、環境活動団体『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』の代表で……」

「ふーん。『環境問題をみんなで考え地球の未来を支える会』の代表ねぇ……おい……」


 組員の男がそう声を掛けると、部下と思わしき男が環境団体名を……そして、白石美穂子の名前をスマホで検索する。

 そして、検索結果を男に差し出すと、組員の男はニヤリと笑みを浮かべた。


「――白石美穂子か。どうやら環境省や共同募金会から多額の助成や寄付を受けているようだな……おい。本当にこの女がお前達に指示を出したんだな?」

「は、はい。その通りです!」

「そうか……そいつはいい。最近は、シノギが上手くいかず収入が減っていたからなぁ……寄付や国からの助成という形で金が入るならそれに越した事はない」


 貧困ビジネスを規制する条例が各都道府県で施行されつつある。

 白石美穂子とかいう市民活動家の女を隠れ蓑に、国から金を毟るのも悪くない。


「それじゃあ、ほらよ」


 そう言って、取り上げたスマホを放ると、組員の男は活動家の男に対し、白石美穂子に電話をするよう指示を出す。


「――今すぐ白石美穂子とかいう女に電話を掛けろ。電話が繋がったら俺に電話を寄こせ」

「えっ?」

「『えっ?』じゃねーだろ、早く掛けろっ!」

「――は、はい。すいません!」


 活動家の男はスマホを受け取ると、涙を浮かべながら白石美穂子に電話を掛ける。


「――も、もしもしっ! 白石美穂子さんの電話ですかっ!? 小林です」

『えっ? 小林さん? 今、一体、どこにいるの? あなた達がいないとデモ活動が……』


 組員の男は、活動家の男からスマホを奪い取ると、薄ら笑みを浮かべながらスマホを耳元に当てる。


「――ああ、白石美穂子さん? 俺は、任侠会の新田言うもんですけど、お宅の所の市民活動家の皆さんが大変な事を仕出かしてくれましてね。それで、これから山に穴掘りに行こうと思ってるんですけど、小林君でしたかね。彼が、どうしても穴掘りに参加したくない、言い張るんですよ。もし、お宅がこの事を警察に話さず、誠意を持った対応をしてくれたら、こちらも話を大事にしなくて済むんですけどね……具体的には、うちのフロント企業からおしぼりを定期購入して欲しいんですわ。月額たったの十万円。大した金額じゃない。もし契約を結んで下さるんでしたら、今すぐ部下を向かわせます。第一回目の取引と、定期購入契約を結んでくれたら、小林君達はすぐに解放させて貰いますよ。それで、どうします? あんたの判断次第で数十人の市民活動家の皆さんが山堀りから帰ってこなくなってしまうかも知れませんけど……うん? ああ、そうですか……」


 任侠会の若頭、新田柴はそう言うと笑みを浮かべながら小林にスマホを返却した。

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