第206話 セントラル王国①
城門前で、自警団に介護されながら横になって休むこの国の国王、ガルズ・セントラル。そして、宰相、カティ・アドバンスドを見付けた俺は、回復薬、数本を手に持ち満面の笑顔で声をかける。
「いやー、体調が悪そうですね。この回復薬……有料ですがお飲みになります?」
「ぐっ、いや、いい……それより、よく私の前に姿を現す事が出来たものだ。面の皮が厚いというのは、きっとこの事をいうのだろうな……」
一瞬、回復薬に手を伸ばしかけたガルズ王は、提示された回復薬の値段を見て悪態を吐いた。三日間断食してこれだけ元気なのだ。回復薬なんてそもそも不要だったのかも知れない。
まあ、それはそれとして……。
「ええ、国王陛下の仰る様に、私は面が厚くとても大らかで、細かい事には拘らない性格ですので……そういえば、国王陛下は知っていますか? とある医学者の研究によれば、面の皮が厚い人ほど寿命が長いみたいですよ?」
「ふん……お前の為にある様な言葉だな……まあいい。それで? これから、私達はどうなる……?」
ガルズ王の隣りでは、カティ宰相がグッタリとした表情を浮かべ横たわっている。
名前は知らないけど、王妃らしき方や王太子殿下も同様だ。
「そうですね……契約書にサインを頂いたので、後は国民に迷惑をかけず、善政を敷き、貴族達の不満の的になって頂けるだけで十分かと……」
どうなると言われても困る。
個人的に、『身分制に基づく不公平な課税制度を廃止』させ、『十年間国民に対する税金の免除』を飲ませた以上、国王をどうこうするつもりはない。
素直にそう伝えると、ガルズ王は苦い表情を浮かべた。
「難しい事を言う……」
「そうでしょうか?」
貴族から金を巻き上げても不満を買うだけで問題ない様、契約書で縛って上げたんだから好きな様にやれば良いのに……。
ここから十年間、税金を支払うの平民ではない。貴族だ。
これまで国民に多額の税金を課し、税金を自分の財布代わりに湯水の如く使って来たのだから、これまで同様、そうすればいい。できる事なら、貴族が私腹を肥やす為ではなく国民全体にその恩恵が行き渡れば最高だ。まあ期待なんかしてないけど……。
まあ、それでもこれだけは言っておこう。
税金チューチュー駄目絶対。
とはいえ、一応、目の前にいるのは仮にも国王なので、取りあえず、進言しておく事にする。
隣でグッタリしている宰相はもう限界そうで覇気無いし。
そういえば、こいつか……。
権力乱用して徴税官を俺に送り付けて来たのは……。
懐かしいな。捜索差押許可状にかこつけて建物内ぶっ壊されたっけ……まあ、やり返したけど……。
うん。やっぱり、進言しておこう。
甘い汁を舐める事に慣れきっている奴や、税金を自分の財布だと勘違いしている奴等。増税を特権だと思っている奴等には、総じてマネーリテラシーがない。
一度、痛い目を見てから進言するのがある意味では手っ取り早いとすら思ってしまう。
「――まあ、折角なので一つだけ……。これから先、貴族相手に税金を搾取し、善政を敷くのはさぞ大変な事でしょう。でも、よく考えて見て下さい。これまで民衆は随分と不満を貯め込んできました。しかし、今回の様に一度、民衆が立ち上がれば、国なんて簡単にひっくり返ってしまう事をあなた方は理解した筈です。事の発端となったゴミ処理場を初めとする国の施設は一度、国から離れ今、民間がその運営をしています。国からのお金を中抜きする不届き者や、私腹を肥やそうとしていた貴族は今回の一件で一掃されました。王様には、十年後を見据え、国の為にできる事をしてほしいものです……」
今まで国民から税金を搾取……いや、詐取してきた貴族を踏み台にして……。
まあ、これまで美味しい思いができたのだから問題ないよね?
平然とした表情で、税金を詐取したり、悪政を敷く様な貴族は切り捨てて、公僕となれというと、ガルズ王はポカンとした表情を浮かべる。
「……私にできるだろうか?」
「――できるかじゃありません。やって下さい」
契約書の効力が切れるのは十年後。
それまでの間に、これまでやってきた悪政を払拭する様な何かができなければ、十年後、また同様の事が起きる。
それでもいいというなら好きにすればいい。
その時はまた俺もその運動に加わるまでだ。
「――できる限り努力しよう」
それだけ言うと、ガルズ王は起き上がり、ホテル行きの馬車に乗り込んだ。
まあ、側近が側近なのであまり期待できないかも知れないが、取り敢えず、その言葉を信じておく事にしよう。貴族を優遇したり、中抜き業者を国の施設の重要ポストに据えていたりと、ガルズ王の周りには、もしかしたら、お金大好き、権力大好きな魑魅魍魎しかいなかったのかも知れない。
まあ、現実世界にもあるしね。そういう事……。
有識者会議の有識者に利益相反に成りうる人物を多数入れて国の基本方針の骨子案を提示したり、議員と係わり合いのある特定法人だけを優遇したり……。通したくないけど民意に押されて仕方がなく通した法案を骨抜きにしたりと……まあ、現実世界では、ままよくある事だ。
そんな税金チューチュー勢に負けず、ガルズ王には頑張って欲しい。
「……さて、それはそれとして、カティ宰相? ちょっと、よろしいでしょうか?」
「な、なんだっ……?」
何だかもの凄く警戒されている様だ。
まあ、やりたい様にやったからな……当然か。
とはいえ、権力や圧力が常に効果的だと思ったら大間違いだ。
世の中には色々な人がいる。
当然、その中には、絶対に触ってはいけないアンタッチャブルな人物も……。
俺以外が相手だったら多分、とっくに泣き寝入りしている所だ。
「いや、何がじゃねーだろ。よくもまあ、散々、やってくれたな……徴税官なんて送り込んできやがって……。まあいい。そんな事はどうでもいいから、はい。これ……」
「うん? これがどうしたと……んんっ!?」
そう言って、請求書を渡すと、カティ宰相は目を見開かせ驚いた表情を浮かべる。
俺が渡した請求書は影の精霊・シャドーを持っている部隊に城壁内のゴミ処理費用だ。現実世界でかかるゴミ処理費用は年間二兆二千億円。それを元に日数単位で割って乗じた金額。締めて六百億コル。
「――まあ、何かと大変だろうけど、一週間以内に振り込んでね? ああ、お金の使い道なら安心してくれ。あんた等と違って、俺の所は明朗会計だから。不正や隠し事なく全部、この仕事をやってくれた彼等に渡しておくよ」
当たり前の事だが、こういった事は、他人の金に執着のない人間が行うべきだ(なお、自分が動いて稼いだ金については別)。
請求書を受け取ったカティ宰相はプルプルと肩を震わせると、少し間を置き大きな声を上げた。
「――な、何だこれはああああっ!」
「なんだって、見りゃわかるじゃん。城壁内に積み上がっていたゴミの山。あれの処理費用だよ」
つーか、滅茶苦茶元気だな、このおっさん。
三日間断食した筈なのに……まあ、元気なのは良い事だ。
城壁内にあったゴミの山。それがあった場所を指差すと、カティ宰相は唖然とした表情を浮かべる。
「だ、だからって、この金額はっ……!?」
「えっ? もしかして……金額に不満があるの? まあ、自分達でやるって言うなら元に戻しておくけど……?」
エレメンタルの力を借りたからこそ、こうも簡単にゴミを処理できたのだ。
簡単に処理し過ぎて勘違いされてしまっただろうか?
多分、人力でゴミの処理なんてしてたら終わらない。
搬出作業だけで何日かかるかわからないし、第一、ゴミ処理場がぶっ壊れているというのにどうするつもりなのだろうか?
もしかしたら、現実が理解できていないのかも知れないので、念の為、忠告しておく。
「そもそも、ゴミ処理場が爆発してぶっ壊れているのに、ゴミ処理どうするつもりですか? 不満があるならすぐにでも……」
「えっ? ち、違っ――そう言う意味では……」
そう呟くと、影の精霊・シャドーにお願いして、先ほど、影の世界に収納して貰ったゴミの山を城壁内部に一瞬にして出現させる。
すると、カティ宰相は思い切り目を見開き顔を強張らせた。
「――それじゃあ、城壁内のゴミ処理頑張って……毎日毎日、ゴミが空から降り注ぐだろうけど、宰相閣下がそう言うのであれば仕方がないよね? あーあ、残念だな。折角、格安で処理して貰ったのに……」
呟く様にそう言うと、カティ宰相は又もや大きな声を上げた。
「――ち、ちょっと待てっ!」
「うん? ちょっと待て?」
そう言われたので振り向くと、カティ宰相は肩を震わせながら呟く様に言う。
「――わ、わかった。わかった! 六百億コル支払う……! だから、だから……城壁内のゴミ処理を頼む……」
「そうですか……わかりました。それでは、追加でこれを……」
「――へっ?」
そう言って、追加の請求書を手渡すとカティ宰相は茫然とした表情を浮かべる。
「――い、いや……えっ? 先ほどは、六百億コルという話では……」
「ええ、なので、もう一度、ゴミを処理する為には追加で六百億コル必要という事で……。合計一千二百億コルの請求をさせて貰った訳ですが……」
城壁内に積み上がったゴミの山に視線を向けると、カティ宰相もゴミの山に視線を向ける。
「――えっ? だが、それは……」
「まあ、その件については、ゆっくり国王陛下とお話下さい。ああ、あと僭越ながら一つだけ忠告を……判断が遅い。人に頼む態度ではないその姿勢、早目に直した方がいいですよ。今、この国で一番力を持っているのは国民であってあなた方ではないのですから……」
そう言うと、宰相は狼狽する。
「き、気に障ったのか? もしかして、私の態度が気に障ったのかっ!? だとしたら謝る。だからあのゴミの山を何とかしてくれっ!」
「ふうっ……」
わからない人だ。その態度は人に頼む時の態度じゃないぞ。
まあ、ガッツリ恨んでいる訳だし、その点は否定しないけど……。
俺はできるだけ柔和な笑みを浮かべ諭すように言う。
「はい。構いませんよ。でも、その前に一千二百億コルを先に振り込んで下さい。話はそれからです。あなたの謝罪一つに一コル程の価値も無いので……あと、謝罪するつもりなら最低でも頭位は下げた方がいいですよ。欧米スタイルですか、それ? まあ、払う気になったら言って下さい。六百億コルじゃないですよ? 当然、一千二百億コルです。それじゃあ、俺はこれで……」
そう言うと、俺はカティ宰相に手を振りながらその場を後にした。
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2022年1月9日AM7時更新となります。
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