第202話 VS万秋会④
準暴力団・万秋会の大捕り物が行われた翌日。
俺は、綺麗サッパリ、準暴力団・万秋会を辞めてきた矢田牧夫。そして、警察の事情聴取を終えた会田絵未と共にサイゼリヤで会食をしていた。
「いやー、準暴力団って、警察に言えば結構簡単に辞められるもんなんですね? だったら早く辞めておけばよかったですよ!」
「いや、君の場合、特殊だから……。普通、そんな簡単に辞められる訳ないから……」
そう。矢田牧夫の場合、本当に状況が特殊なのだ。
準暴力団・万秋会を辞める為に警察署に向かったその数時間後に警察が万秋会の会員全員を拘束。その結果、準暴力団・万秋会は崩壊状態に陥った。
だから、矢田牧夫は思いの外、簡単に準暴力団・万秋会を辞める事ができた。
準暴力団・万秋会が崩壊状態にあるのだから当然だ。
そして、テーブルに頭を擦り付けて謝罪する人が一人。
そう。自分で解決すると言った挙句、見事失敗し、自分の命惜しさに俺の個人情報と資産金額を準暴力団・万秋会に売り渡した会田絵未だ。
誰しもが、自分の命を一番に考えるので、会田さんの行動を責めるつもりはまったくない。しかし、会田さんが俺の資産情報を準暴力団に話した事で少々、拙い事になっている。
「……ご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした」
「うん。まあそうだね」
本当にやってくれたよ。
お陰で俺の個人情報が面白い位、ウェブ上を飛び交っている。
聞いた所によると、準暴力団・万秋会は警察によりマークされている指定暴力団と繋がりがあったようで、万秋会が潰れる切っ掛けとなった俺の個人情報が拡散されてしまった。
お陰で俺は一躍有名人だ(但し、ネット界隈に限る)。
拡散されてすぐ、テレビ局からオファーが来たほどである。
当然断わったけど……。
「――それで、宝くじ研究会・ピースメーカーは……」
「うーん。当分の間……いや、新しい会員の受け入れは無期延期って所かな?」
当然、宝くじ研究会・ピースメーカーの情報も一気に広がった。
その結果、何が起こったのか。
高確率で宝くじが当たる組織、宝くじ研究会・ピースメーカーへの加入申し込みが会田さんの下に殺到した。
ちなみに俺の下へは、様々な宗教・慈善団体から『寄付のお願い』が沢山来ている。なんなら、よくわからない親戚や友達も勝手に増えた。
誰、コイツといった変質者から「子供ができたから養育費を払え」といった怪文書、元同級生を名乗る自称知人から借金の申し込みまできている。
お陰でマスクとサングラス、帽子が外せなくなってしまった。
完全に顔バレしているからだ。
とはいえ、人の噂も七十五日。こればかりは、時の経過を待つしかない。
「……でも、宝くじ研究会・ピースメーカーとしての活動は毎週行う予定だから、そこは安心してくれていいよ」
そうだ。バレちまったら仕方がない。
だったらやってやるよ。盛大に……。
こうなったら、日本中の宝くじを買って買って買いまくってやる!
それが俺の安寧を邪魔する日本国民に対する復讐だ。
俺達以外の奴が宝くじを購入しても、最高配当金額三百円しか当たらないようにしてやるよ。徹底的に宝くじで夢なんか見れないようにしてやる。
すると、会田さんがポカンとした表情を浮かべた。
「えっ? この状況で宝くじの購入は止めないんですか?」
「むしろ、何故、止めなければならないのか理解に苦しむね」
別に悪い事はやっていない。宝くじを購入しているだけである。
むしろ、ここで宝くじ購入を止めたらやましい事をしていますと白状した事になるだろうが。身の潔白って奴は買い続ける事でしか証明できないんだよ。
「流石は翔さん、そう来なくっちゃ!」
お前はお前でなんか性格変わったな。
どうした? お前、チンピラみたいな言葉遣いどこに置いてきたんだ?
警察署に置いてきたのか??
まあ、コイツの事は置いておこう。
「まあでも、暫くの間は、一人行動を避ける様に……」
「はい。わかりました」
本当にわかっているかどうかわからないがまあいい。
「そして最後にもう一つ……」
俺は指を一本ビシリと立てる。
「もし万が一、『宝くじ研究会・ピースメーカー』を組織ごと譲り渡せと言われたら、俺に報告する事。そうしたら、俺が対応するから……」
ゲーム世界のアイテムが使える俺だから何とかなったものの、他の奴らが準暴力団に狙われては一溜まりもない。
その時は、今回と同じく警察官に体を張って貰おう。
そして、体を張ってくれた警察官には、後ほど、お礼としてパトカーを寄贈しよう。
もしかしたら、暴力団の方も『警察官が相手とわかっていたらチョッカイなんて出さなかった』とか、そんな都合の良い事を考えていたかもしれない。
しかし、職種差別は良くない。
チョッカイを出すなら、チョッカイを出すなりに矜持を持つべきだ。
一般人だと思ってチョッカイ出した相手が警察で、その結果、逮捕される様な事になったとしても……。
「……わかったかな?」
「「はい!」」
うん。良い返事だ。
「それじゃあ、俺はそろそろ帰ろうかな。ああ、これで好きなだけ食べていってよ」
財布から一万円を取り出し、伝票入れに入れるとサイゼリヤを後にした。
「それにしても、思った以上に面倒臭い事になったな……」
スマホに視線を向けると、父さんからSOSが来ている。
何でも、父さんが就職している会社に自称親戚が押し寄せたそうだ。仕事も手に着かず困っているらしい。
警察も民事不介入を理由に間に入ってくれなかった様だ。
それを見て、俺は心に決めた。
これからは、どんどん警察官に体を張って貰おうと……。
「よし……」
とりあえず、父さんは近くの交番勤務になったという事にして、警察官に自称親戚が押し寄せるよう情報操作しておこう。
なに、父さんは民間企業に勤めているので警察官ではないが、闇の精霊・ジェイドの力を使えば、その位、朝飯前だ。
母さんとクソ兄貴は問題ないな……。
母さんは職場を変えたばかりだし、クソ兄貴は生活がどうなろうと知った事ではない。
とりあえず、迷惑をかけず生きているという事が確認できれば、それだけで十分だ。俺が今、かけている迷惑は以前の兄貴が俺にかけていた迷惑分と相殺という事にしておこう。
「それじゃあ、闇の精霊・ジェイド。父さんの事をよろしくね」
そう言うと、闇の精霊・ジェイドは父さんのいる場所に向かって飛んで行く。
「さて、俺は帰ろうかなぁー」
背を伸ばし、そう言うと、途端に水の上位精霊・クラーケンが目の前に顕現した。
クラーケン突然の顕現に俺は目を丸くして呟く。
「へっ?」
ク、クラーケン……な、何やってんの?
だ、駄目だって、街中で顕現なんてしちゃあ、それが例え触手一本だとしても……。
幸いな事に道ゆく人々は、俺になんか興味がない様だ。こんなにも堂々と巨大な触手が顕現しているというのに、殆ど気付かない。
触手の顕現に気付いたのは、精々、俺のほぼ真後ろを歩いていた人位のものである。
姿を隠す様、言おうとすると、水の上位精霊・クラーケンは俺の体に触手を巻き付け横に投げ飛ばした。
「がはっ……」
丁度、燃えるゴミの袋が積まれた場所に投げ飛ばされたので最小限のダメージで済んだ。
しかし、一体、どうしたというんだ?
何故、クラーケンが攻撃を?
もしかして、エレメンタル使いが荒くてストライキ起こされた?
それとも暴動?
どうしよう。どちらにしろ手に負えない。
クラーケン、突然の凶行に目を丸くしていると、俺が突っ立っていた所に、車一台が突っ込んできた。
「へっ?」
車はそのまま爆発すると、上空に向かって黒煙が昇っていく。
あ、危なかった……。
水の上位精霊・クラーケンが守ってくれなければ……って。
「……いやいや、いやいやいやいや!」
どういう事? これ、どういう事っ!?
炎上する車の運転席に目を向けるも、車内には誰も乗っていない。
えっ、あれ?
もしかして、俺、命狙われた?
……えっ? そんな事ある?
一応、ここ、法治国家日本だよ?
なんちゃって法治国家じゃないんだよ??
それに車が爆発するってどういう事っ!?
車ってそんなに簡単に爆発しないよ??
爆発する為には適切な酸素量が必要なんだよ??
それが爆発するって事はどう考えても命狙われているだろっ!
くそっ……。誰が俺の命を狙ったんだ?
もしかして、準暴力団・万秋会に残党でもいたのか?
それとも、他の奴か?
宝くじが当たった事を僻むような心の狭い奴がいるのか?
どうしよう。心当たりが多過ぎてわからない。
くっ、こんな時、ドラえもんの便利な秘密道具があれば簡単に犯人を割り出せるのに……。
なんだかよくわからないが、お前なんかいつでも殺せるんだ。調子に乗るなと言われているようで、とても悔しい。
普通は怖いと思う様な場面にも関わらず、悔しさが込み上げてくる。
すると、一人の男が泣きながら駆けてきた。
恐らく、この車の持ち主なのだろう。
慌てふためき号泣しながら廃車確定炎上中の車に手を伸ばす。
「う、うわあああああああっ!? 俺のっ! 俺の車がぁぁぁぁ!!」
「ちょっと、危ないからやめなさい!」
「車に近付いちゃ駄目だっ!」
泣き叫びながら車に縋り付こうとした瞬間、周囲にいた人達に羽交い絞めにされる。
もしかしたら、高価な車なのかも知れない。
それを簡易爆弾代わりに使われるとは……可哀想に俺なら立ち直れないね。
まあ、そんな事はどうでもいい。
とりあえず、この場から逃げた方が良さそうだ。
ここにいても、問題事に巻き込まれる未来しか見えない。
と、いうよりここの所、毎日の様に問題事、面倒事に巻き込まれているような気がする。
これは……少しの間、身を潜めた方が良さそうだ。
とりあえず、新橋大学附属病院の特別個室に引き篭って、ゲーム世界にログインしていれば、大抵の面倒事から解放される筈だ。
まあ、あっちはあっちで問題事山積みだが、こっちの世界で命を狙われるよりマシである。
と、いうより、堂々とエレメンタルを護衛につける事ができない現実世界は窮屈過ぎる。何よりエレメンタルの存在を認知されたら何が起こるのか想像もできない。
俺は燃え盛る車両から視線を外すと、新橋大学附属病院の特別個室に向かった。
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いつも★、応援コメントありがとうございます!
もし面白いと思って頂けましたら、★~★★★で、本作の応援を頂けると、とっても嬉しいですw
また、第202話が2022年最後の投稿となります。
今年は大変お世話になりました。
本作がここまで投稿できたのは読んで下さる読者様あってのことだと思っております。
2023年が皆様にとって、良い年でありますように。
皆様、良いお年をっ!
最後に★評価を付けてくれている御方に最大限の感謝を!
これからも更新頑張りますので、よろしくお願い致します。
2022年1月1日AM7時更新となります。
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