第193話 一喜一憂する某国の国王
ここはセントラル王国の王城。
コンデ公爵、他の貴族達により軟禁状態にあるセントラル王国の国王、ガルズ・セントラルは焦っていた。
「――な、何故だ。何故、返信が無いのだ……もう午前三時になるというのに何故……!」
「へ、陛下。本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫……大丈夫な筈だ……」
そうは言うものの、ガルズ王はここ数時間、ずっとカケルからの返信を待っていた。
おかしい。何故、返信が無いのだ……。
仮にも、一国の王からのメールだぞ。
しかも、緊急を要する内容のメールだ。
まさか、内容に不備があったのか?
い、いや、そんな筈はない。ちゃんと、宰相であるカティに添削して貰ったのだ。
問題はない筈だ。
メールの内容を見返して見たが、文章に問題はなかった。
これで伝わる筈だ。
しかし、今の時刻は午前三時。
もしかして、宛先を間違ったのか?
それとも、外で指揮を取っているのはカケルでは……あのモブ・フェンリルではなかったとでも言うのか??
どうしよう。割とマジで笑えない。
笑える状況ではない。
えっ? 嘘だろう??
まさか、本当に人違いとでも言うつもりか??
このまま返信が無ければ、ここから脱出する事もできない。
私はもう嫌なのだ。この場所にいるのは……。
ここ数日、体調も悪いし、王妃に至っては寝込んでしまった。
息子達も同様だ。とにかく、ここは空気が悪い。
理由は明らか、外に積み上がっていくゴミの山にある。
そして、ここにきての食糧難。
しかも、王城限定と来たものだ。
先ほども、大凡、食べ物とは思えない。乾燥したパスタをオリーブオイルに浸しただけの代物を食事として提供された。
酷いものだ。
あんな物は食べ物ではない。
そもそも、あんな食事が数日続けば完全に体調を壊してしまう。
一刻も早くここから出たい。本気で出たい。
ゴミの臭いを嗅いでいるだけで、体中がゴミ臭くなる。
ゴミ・汚物処理場の重要性を再認識した。
衛生管理は大切だ。
カティ宰相は、ゴミ・汚物処理場に対し、かなり大規模な予算を組んで対応に当たっていたと言っていたが、信じられない。
カティ宰相の言う通り大規模な予算を組んでいたら、ゴミ・汚物処理場が炎上するなんて事、あり得ないからだ。
もし、大規模な予算を組んで、それでも足りないとしたら、どこかで中抜きされているに決まっている。
もし万が一、中抜きしている不届き者がいたら絶対に許さん。即刻、斬首してやる。
しかし、これからどうしたものか……。
先に出した御布令により、完全に王都民を敵に回してしまった。
貴族に対し課税した事で臣下であった公爵にまで反旗を翻されもうどうしていい事やら……。
この際だ。この件が片付いたら、息子に王位を譲ろう。
息子や貴族に多大な負担をかける事にはなるかも知れないが、十年間税負担が無くなるのだから、その間に、王都民の我々に対する悪感情もなくなる筈だ。
いやいや、話が逸れた。
そんな夢物語を頭に描いている場合ではない。
早く返事を寄こせ!
あれから何時間経つと思っているんだっ!!
午前三時。空腹そして、過度なストレスによる苛立ちから五分おきにメールを二通づつ送ると、ようやく返信が返ってきた。
「――おおっ! やったぞっ!」
もう午前五時まであと一時間しかないが、返信が返ってきた事に安堵するガルズ王。
しかし、返ってきたメールを見てガルズ王は落胆した表情を浮かべる。
「な、ななななっ……」
メールにはただ一言『うるせー。もう二度とメールしてくるな! 次は三日後の十時変更になったから! それじゃあなっ!』とだけ書かれていた。
国王に対する敬意が微塵も感じられない文章。
次、外に出してもらえる機会が三日後だと知り、ガルズ王は愕然とした表情を浮かべる。
「ど、どうかなされましたか? それで、返答はなんと……?」
心配そうな振りをして、返信内容を聞いてくるカティ宰相。
そんなカティ宰相に、ガルズ王は落胆した表情を浮かべながら呟く。
「もう二度とメールしてくるな、だそうだ……外に出してもらえる機会も三日後に延長となった。もう駄目かもしれん……」
これには、カティ宰相も開いた口が塞がらない。
「な、何故、そんな事に……」
国王が臣下である国民に話しかける時と同じように格式ばった文章で助力を願ったというのに……。
カティ宰相は頭を抱えると食べずにそのまま放置していたパスタのオリーブオイル漬けに視線を向ける。
「――と、いう事は、これから三日間。食事はアレですか……」
食べなければ生きていけないとはいえ、あれを三日間も……。
「だ、大丈夫だ……とりあえず、水さえあれば三日間位は生き永らえる事ができる――と、文献で読んだ事がある」
「ほ、本当に大丈夫ですか……?」
三日間何も食べず、水だけ……。
流石に大丈夫だとは思えない。
しかし……。
「……これも罰だと思って、やるしかなかろう」
「そうですね……」
こうして、これより三日間。
ガルズ王達は断食をする事となった。
◇◆◇
「――うーん……良い朝だ」
今の時刻は午前八時。
朝食はコンシェルジュさんが持ってきてくれるし、今日はゴミ臭い王城の臭いを嗅がなくてもいい、最高だな!
そんな事を考えながら、タコさんウインナーにフォークを突き刺し口に運んでいると、扉をノックしコンシェルジュさんが入って来る。
「おはようございます。翔様。珈琲をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
流石はコンシェルジュさんだ。気が利く。
食事を終え、珈琲を一口飲むと、コンシェルジュさんがテーブルに資料を並べ始めた。
「それで、元更屋敷邸の件ですが、こちらの業者でいかがでしょうか?」
「うん? どれどれ……?」
テーブルに置かれた資料に書かれた業者名。
そこには堅実建設㈱と書かれていた。
「へー、堅実建設ねぇ?」
聞かない名前だ。
コンシェルジュさんの事だからてっきり有名な施工業者を候補に挙げてくると思っていた。
まあ、本来、自分の土地の施工業者探しなんてコンシェルジュさんの仕事じゃないので探してくれただけ感謝だ。
コンシェルジュさんの院内査定が上がり、より良いサービスを提供したくなる様、今回は回復薬を奮発するとしよう。
さてと、企業情報をパラ読みしながら見ているが、経営成績、財政状態に問題は無いように見える。一番の関心事は施工が丁寧に行われるかだが……。
チラリと視線を向けると、コンシェルジュさんは自信満々に告げる。
「この堅実建設は、建築・土木工事を主体に舗装工事、水道施設工事など、幅広い技術力を持ち多彩な分野で活躍する総合建設会社です。数多くの公共事業を手掛け、『堅実建設は良い仕事をする』と評価は上々。実際に、堅実建設が建てたマンションや家の住人に訪問調査、並びにアンケート調査を行いましたが、同様の評価を得ております。ご安心ください」
「そ、そうなんだ……」
何だかグイグイ来るな……コンシェルジュさん、ここの営業マンか何かか?
まあ、ちゃんと仕事をしてくれる所なら別にいいや。
どちらにしろ欠陥工事できないように、闇の精霊ジェイドで洗脳する予定だし……。
コンシェルジュさんは、堅実建設の資料を纏めると、クリアファイルに入れテーブルの隅に置き笑顔を浮かべる。
「それでは、堅実建設でビルの建築工事を進めたいと思います。後日、業者から建設するビルについてのプレゼンテーションがあるかと思いますので、よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願い致します」
そう言って、ガッシリ握手すると、コンシェルジュさんは特別個室を後にした。
コンシェルジュさんが出て行ったのを確認すると俺は、宝くじ研究会・ピースメーカー所属の会田さんに電話する。
「ああ、お疲れ様です。高橋翔ですが、会田さんにちょっとお願いしたい事がありまして、俺の持ってる土地にピースメーカーの拠点にする予定のビルを建てるんだけど、それ会田さんの方で進めておいてくれない?」
そうお願いすると、会田さんはため息を吐いた。
『はあっ……いきなり電話してきたと思えば……わかりました。こちらで対処させて頂きます』
流石は会田さん。話がわかる。俺を騙してネットワークビジネスに引き込もうとしていた昔の会田さんはもうどこにもいない様だ。
「うん。それじゃあ、後の事はよろしく」
『ちょっと、待って!』
そう言って電話を切ろうとすると、会田さんがそれを引き止めてきた。
何だか切羽詰ったかのような声色だ。
一体どうしたというのだろうか?
『――以前、お話した少々厄介な会員についてですが……』
会田さんがそう言った瞬間、俺は電話を切った。
「ふう……危ない危ない……」
また面倒事に巻き込まれる所だった。
ただでさえ巻き込まれ体質なのだ。
仕事を辞めてからというもののその傾向が高くなっている。
こういった危ない話は聞かないのが一番だ。
しかし、すぐに電話がかかってくる。
「――やはり駄目か……」
会田さんであれば、俺に相談する事を諦めて勝手に対処してくれると思ったが、今回ばかりはそうもいかないらしい。
仕方がなく電話に出ると、憤慨した様子の会田さんが電話口に現れる。
「――何で、電話を切るんですかっ!」
心外だ。電話を切ったのではない。面倒事から逃げたのだ。
電話を切るという行為自体はあくまで副産物の様なものである。
「あーすまない。ちょっと、電波が悪くてさ……それで、今度はどんな面倒事?」
気分はもうどうとでもなれ状態。
きっと俺はゲーム世界と現実世界を行き来できる代わりに、問題事が寄ってくる様になったのだ。美琴ちゃんだってそんな感じだった。
もうそういう事にしておこう。
会田さんはため息を吐くと、話を続ける。
「はあ……まあいいです。以前、お話した少々厄介な会員……矢田牧夫が準暴力団・万秋会の会員である事がわかりました」
「――はっ? 矢田牧夫?」
いや、誰それっ?
――っていうか、宝くじ研究会・ピースメーカーって、暴力団まで会員に組み入れていたのっ!?
会田さん突然のカミングアウトに、俺は唖然とした表情を浮かべた。
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