第181話 マスコミよ。またお前等か……
何だこいつ等、マスコミか?
まったくこいつ等ときたら……何の為に仮囲い立ててると思ってるんだよ。
関係者以外の立ち入りを防ぐ為だろうがよ。
何、取材許可も得ないで勝手に入り込んでんの?
しかも、入って来るなりカメラ回してくるし……またカメラを木端微塵に破壊されたいのだろうか?
「えっと、勝手に私有地に入らないで貰えますか? 今すぐ出て行って下さい」
俺がそう告げると、取材記者とカメラマンが目を合わせる。
そして、頷くと、カメラを向けながら俺の方に迫ってきた。
「突然で申し訳ないのですが、取材を……」
勝手に人に敷地内に入り込み、出て行けと言ったのに、出て行かない。
この時点で、不法侵入・不退去罪成立である。
俺の許可なくカメラで姿を撮影している時点で、肖像権も侵害。
仕方がない。
目には目を、歯には歯を、肖像権には肖像権でお返しするとしよう。
「それ以上、近付いたら悲鳴を上げます。俺の準備が整うまでその場から動かないで下さい」
片手を前に出しそう言うと、取材記者とカメラマンがピタリと止まる。
悲鳴を上げられるという言葉が聞いたのだろうか?
だったら、もっと、近付いてきた時、叫んでいれば良かったと、一瞬、後悔する。
まあ、とりあえず、取材記者とカメラマンが止まってくれたので、後ろを振り向き、カメラに収められないよう気を付けながら、アイテムストレージから三脚を二つとカメラを三台取り出すと、それを組み立て録画ボタンを押した。
カメラ一台を手に持ち、残りのカメラ二台を取材記者とカメラマンに向けると、俺は「こほんっ」と息を吐く。
突然、カメラを向けられ戸惑う取材記者とカメラマン。
どうやら逆取材には慣れていないらしい。
「……えー、聞こえていなかったようですので、もう一度だけ言います。よく聞いて下さい。先ほども言った通り、ここは私有地です。今すぐに出て行って下さい。また、先ほどから許可なく撮影しているようですが、それも肖像権の侵害に当たります。カメラを回すのを止め、テープを渡しなさい。録画内容を消してからお返しします」
俺がそうはっきり言ってやると、報道記者とカメラマンはたじろいだ。
しかし、それも一瞬の事。報道記者は強気な姿勢を取り戻すと、マイク片手に詰め寄ってくる。
「ちょっと、止めて下さい! そっちこそ、肖像権を侵害しているじゃありませんかっ!」
流石はマスコミ。厚顔無恥とはこの事を言うのだろう。自らの行いは省みず、他人の行いだけを非難するとは、中々、脳がぶっ飛んでいる。
肖像権を最初に侵害した奴が、肖像権の侵害を訴えてきやがった。
教えてやろう。撮っていいのは、撮られる覚悟のある者だけだと言うことを……
「そうですね。しかし、それが何か? あなた方も、現在進行形で肖像権を侵害していますよね? 何なら、許可なく敷地内に侵入した時点で不法侵入罪が、退去するよう要請したにも係わらず、それを無視し、居座り続けている時点で不退去罪が成立している訳ですが、それについては、どの様にお考えですか?」
俺がそう質問すると、「うっ!?」と言葉を詰まらせた。
しかし、一般人である俺に言い返されたのが気に入らなかったのか、声を大にして反論してくる。
「ほ、報道の自由は、憲法二十一条が保障する表現の自由の中でも特に重要な権利です! その為、我々には取材特権が認められています!」
なるほど、取材特権と来たか……。
「つまり、マスコミであれば、何をしても許されると……人の敷地に不法侵入し、退去や肖像権の侵害を訴えてもそれを無視する特権が与えられていると、そう言う訳ですか?」
こうもハッキリ、そう言ってくれるならこちらもやり易い。
「では、あなた方は、俺がいくら訴えた所で、今行っている違法行為を是正する気は一切ないとそういう事ですね? よくわかりました」
そう言って、ため息を吐くと、何を勘違いしたのか取材記者が俺にマイクを向けてくる。
「それでは、わかって頂けた所で取材を……」
「……いえ、あなた達に今、行われている違法行為を是正する気がまるでないという事がわかりましたと言っただけですよ」
俺がエレメンタルに視線を向けると、『バチッ!』という音が鳴り、カメラが派手にスパークする。
「えっ? はっ? 嘘だろっ!?」
突然、鳴り響いたスパーク音にカメラマンが慌てた表情を浮かべる。
流石は雷の精霊ヴォルトだ。仕事が早い。
「おや、何やら凄い音が聞こえてきましたが、大丈夫ですか? なんだか、取材どころではなさそうですが……」
俺がそう言うと、報道記者はカメラマンに視線を向ける。
「ちょっと、何、やってるんですか! 早くカメラを回して下さいよ。折角、取材許可が下りたのに……」
いや、取材許可なんて出していない。
この報道記者には俺が取材許可を出す幻聴でも聞こえたのだろうか?
つーか、何の取材許可だ。これ?
何となく心当たりはあるが、何の取材をするつもりだったのか気になった俺は、報道記者に聞いてみる事にした。
「いえ、取材するのを許可した覚えはありません。それで、興味本位でお聞きしますが、何の取材をするつもりだったんですか?」
「えっ? いえ、実はこの方についてお話を伺う事ができないかと、思いまして……」
報道記者が提示した写真。
そこには、区議会議員の更屋敷太一の姿が写っていた。
俺は写真を受け取ると、呟く様に言う。
「――それで?」
今更、更屋敷太一の事を調べてどうしようと、言うのだろうか?
謎は深まるばかりだ。
「いや、この土地は区議会議員である更屋敷氏の保有していた土地ですよね?」
「はい。今は、その更屋敷氏から買い取った俺が保有している土地となりますが、それがどうかしたんですか?」
そう返答すると、報道記者がずいっと前に出てくる。
「それなら教えて下さい。更屋敷氏は今、どこにいて、何故、あなたがこの土地を取得するに至ったのですか??」
対応に困る質問だ。
更屋敷太一のいる場所は、エレメンタル経由で知っているが言えないし、土地は低廉譲渡の基準に当たらない時価の五十一パーセントで購入した為、余計言えない。
ならば、やる事は一つ。
報道記者の困る事を言って諦めさせる。
それに越した事は無い。
俺は笑顔を浮かべると、こう言ってやる事にした。
「ノーコメントで、情報を知りたければ、それに見合う報酬を提示してからにして下さい。それと、もう既に何度も言ってますが、ここは私有地なので今すぐ出て行って頂けますか?」
そう言ってやると、報道記者はムッとした表情を浮かべる。
「……こちらも何度でも言わせて頂きますが、我々には報道の自由が保障されています。区議会議員の重鎮であった更屋敷氏の邸宅が火事に遭い、当の本人は失踪。そして、更屋敷氏が保有していた土地を購入した人物が現れた。その人物に対してインタビューするのは、国民の知る権利に奉仕する私達、報道記者に課せられた義務です。あなたには、それに答える義務がある筈です!」
話のわからない人だ。
「だから、話さないとは言っていません。情報を知りたければ、それに見合う報酬を提示しろ、ここは私有地なので今すぐ出て行けと言っているだけです。いい加減にして頂けますか?」
俺がそう言うと、報道記者は黙り込む。
「話は以上のようですので、それでは……」
「――あ、待って下さい!」
「……まだ何か?」
呆れた表情を浮かべながらそう言うと、報道記者は……。
「先程の言葉……行方不明になった更屋敷氏がどこにいるのか、あなたは知っているという理解でよろしいですね?」
いや、だから何故、そうなる。
「……憶測でものを言うのは止めて下さい。もし、万が一、あなたの勝手な判断で憶測を報道し、今後、こちらに何かしらの被害が出た場合、責任を取って頂きますのでそのつもりで」
まあ、新橋のガード下に行けば、ホームレス化した更屋敷太一に会う事ができる。
しかし、俺があいつの立場ならそれを望まない筈だ。
暴力団に目を付けられていると思い込み、折角、隠れて生活をしているのに、報道陣に居場所をばらされては堪らない。
それ所か、スキャンダルが再燃し、更屋敷太一はより危険な状況に追い込まれる可能性すらあるのだ。報道の自由だか知る権利だかは知らないが、人を傷付ける様な報道はどうかと思うぞ、実際。
「はい。それじゃあ、話は終わりという事で、警察に通報されない内に、さっさと私有地から出て行って下さい。次はありませんよ?」
そう言って、スマホを手に取り110番をタップすると、流石にこのままでは拙いと思ったのか、報道記者は苦い表情を浮かべながら仮囲いに取り付けられたドアを開け、出て行った。
「……絶対に、真実を明らかにして見せますからね」
ドアを締める瞬間、報道記者はそう呟く。
しかし、寛容な俺は、笑顔を浮かべながら見送ってやった。
やれるものならやってみな、と……。
「……絶対に諦めないパターンの奴だな、これ」
仮囲いの外側から『ドローンを使って中の様子を確認するわよ』とか『絶対に尻尾を掴んでやる』とか、そんな事を言っているのが聞こえてくる。
今から行う事をドローンを使われ、撮影されても困るし、とりあえず、ドローンが入ってきそうになったら撃ち落とすか……。
物理的に撃ち落とすと逆にこちら側が訴えられかねないので、とりあえず、エレメンタルにその役を担って貰おう。
「お願いできるかな? ジン」
風の上位精霊・ジンにお願いをすると、ジンは仮囲いの外側に風のベールを張った。
うん。これなら安心して作業に移れるというものだ。
燃えて廃墟となった更屋敷邸に視線を向けると、俺は廃材に手を当てストレージに収納していく。
やはり、思った通りだ。
現実世界でできるかわからなかったから今まで試さなかったが、ストレージを持っていると、こんな事もできるらしい。
ここで回収した廃材は、後でゲーム世界の王城へと捨てに行くとしよう。
そんな事を考えながら、どんどん廃材を回収していく。
「ふう……こんなものかな?」
二時間位、廃材の回収作業しただけでかなり綺麗になった。
後はここに建物を建てるだけだ。
俺がこの場所に建てたいのは、宝くじ研究会・ピースメーカーの本拠地。
会田さんによると、かなり大きな組織になっている様で、最近では集会するのにかなり苦労しているらしい。
現実世界で効率よくお金を集める為にも、こういう場所のセッティングは必要だろう。
「後は、コンシェルジュさんにでも頼んで、ビルを建ててくれる建設会社の選定だな……」
廃材の回収は行ったし、少し高くても構わないから手抜きをしない業者を選定して貰わなければ……
そんな事を考えながら仮囲いのドアに手をかける。
すると、何やら外が騒がしい事に気付いた。
「うん? なんだ……?」
ドアに耳を当て、聞き耳を立てると、報道記者達の声が聞こえてくる。
『カメラだけではなく、ドローンまで壊れるなんてどうなっているのよっ!』
『す、すいません。気流の問題なのかはわかりませんが、仮囲いを越えようとしたら急に……』
『このままじゃ、局に帰れないじゃない! せめて、あの男から情報を聞き出さないと……』
なんだかよくわからないが、俺から情報を聞き出さないとテレビ局に帰れないらしい。なる程、よくわかった。ならば、帰れない様にして差し上げよう。
俺はストレージから取り出した『隠密マント』を被ると、少しだけドアを開けすぐに外に出る。一瞬、報道記者がこっちを向いたが、気付いてないようだ。
そして、ドアの鍵をかけると監視カメラをエレメンタルに預け、撮影を任せる事にした。
「……それじゃあ、エレメンタル達。後はよろしくね」
エレメンタル達にそう言うと、三体のエレメンタルが報道記者達を包囲する様に散っていく。
うん。やはりエレメンタルは有能だ。
仮囲いの内側は、風の上位精霊・ジンに任せてある。
明日の朝にでも様子を見にこよう。報道記者達は断りもなくカメラを向けてきたし、録画カメラを持ちながら現れてやれば良い画が取れそうだ。
「さて、病院の特別個室に戻るか……」
カメラが壊れただの、ドローンが壊れただので、険悪な空気が流れる現場に記者達を残すと、俺は、特別個室に戻る事にした。
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