第二章
第159話 新たな問題事続々
面倒事が終わってすぐヤバい奴に目を付けられてしまった。
……いや、よく考えてみれば俺の人生、いつもそうだったじゃないか。
気分を切り替えよう。
そう思って、スマホ画面を見たのが悪かった。
SNSのメッセージを見て見ると、もの凄い数のメッセージが届いている。
マナーモードにしていた為、気付かなかったが、その殆どが、俺に対する罵詈雑言だった。
『お前のせいで、優秀なディストリビューターが消えた。どうしてくれるんだっ!』といった内容や『損害賠償を請求する!』といった内容。
『今、どこにいるっ! すぐにその場に向かうから教えろっ!』といった内容のメッセージが止め処なく届いてくる。
「い、一体、何が……」
思わずそう呟くと、突然、電話が鳴る。
思わず『応答』をタップすると、電話口から女性の声が聞こえてきた。
『もしもし、会田です。高橋様。今、よろしいですか?』
「あ、はい。大丈夫ですけど……」
電話の主は合コンで出会い、俺をネットワークビジネスに勧誘しようとした女性・会田さんだった。一体、何の用だろうか?
『突然の電話、申し訳ございません。実は緊急で話さなければならない事がございまして……』
「緊急の話?」
滅茶苦茶、謙った喋り方をしている。
本当にどうしたのだろうか?
正直な所、緊急の話よりそちらの方が気になる。
『はい。大変申し上げ難いのですが、実は私が管理していた末端の会員が、私が元属していたネットワークビジネスグループのボス・
「あー、なるほど……」
なんとなく理解した。
これはアレだ。問題事という奴だ。
私見だが、俺はネットワークビジネスを営む団体は一種のカルト的宗教団体の様なものと考えている。
ネットワークビジネスの中心的人物を『神』。集客ノウハウを『教え』、中心的人物に集まるダウン報酬という名の金を『お布施』と考えればまんま宗教団体だ。
不労所得という名の幸せを手に入れる為、盲信的に活動するネットワークビジネス信者。
どうやら、俺はそんな連中の中でもとびきり質の悪い奴を敵に回してしまったらしい。
まあ面識がないのだから当たり前だけど……。
「それで、SNSに大量のメッセージが……」
『はい。大変申し訳ございません。念の為、宝くじ研究会・ピースメーカーの末端会員を更屋敷義雄の監視に付けております。動きがあったらすぐに連絡いたします。また、他にも、少々厄介な会員がピースメーカーに入会しておりますが、それは尻尾を掴み次第、後々、報告させて頂きたいと存じます』
「ああ、わかった。それじゃあ……」
電話を切ると、俺は、とりあえず、更屋敷義雄のSNSをブロックし、通報ボタンをタップする。
「少々厄介な会員が入会しているのか……」
俺の人生、厄介なことばかりだ。
何だかゲーム世界に逃避したい気分になってきた。
テレビに視線を向けると、バンダナを頭に巻いた人権団体が人権擁護活動に精を出している姿が目に映る。
ここ数ヶ月絶え間なく報じられている世界規模での失踪事件。人権擁護団体はそれに対する集会を開催していた。
失踪被害者の共通点は、とあるゲームのプレイヤー。警察の調査により、その事だけが判明している。
ちなみに警察はゲームの販売元を家宅捜索しようとしたがもぬけの殻だった様だ。
「本当に厄介だな。この世界は……」
俺や美琴ちゃんがゲーム世界に出入りできる事を知られれば、大変な事になりそうだ。万が一、バレれば拉致犯扱いされてしまうかもしれない。
何だろう。一度、厄払いしたはずなのに、また厄が降りかかってきそうな気配が漂っている。
よし。とりあえず、ゲーム世界にログインするか……。
ゲーム世界に逃げるともいう。ゲーム世界に出入りできる事がバレるのは拙いと思ってはいるが、この世界にいるより遥かにマシだ。
俺はヘッドギアの電源を入れ、頭にかぶるとベッドで横になる。
「よし。それじゃあ、ログインするか。――コネクト『Different World』」
そう呟くと共に、『Different World』の世界へとダイブした。
◇◆◇
現実世界に突如出現したにも係わらず、ゲーム世界は平和だった。
もしかしたら、出現した場所が良かったのかもしれない。
何せ、ゲーム世界が現実の世界で出現した場所は、北極のど真ん中。
ゲーム世界に張られた薄い膜のお陰でこの世界の気温も変わらない。
もしかしたら、現実世界である地球に現れた事すらここに住む人達は気付いていないかも知れない。そんな平和さがあった。
当然だ。この国……いや、この大陸の周囲は海に囲まれている。
海の向こう側には巨人の住む世界?があり、その外側を巨大な毒蛇ヨルムンガルドが守っている。
ゲーム世界の外側には現実世界が広がっている事に気付く者は殆どいないだろう。
いやー平和だ。やっぱり、いいなぁ。平和って……。
――と、そう思っていた時もありました。
「……カケル様。話を聞いておりますか?」
「はい。聞いています……」
俺は今、セントラル王国の王城にいた。
宰相が対面に座り、騎士が俺を囲む様に整列している。
なんでこんな面倒事に巻き込まれているのか。
それは、特別ダンジョン『ユミル』を攻略した事がセントラル王国にバレた事が発端だ。
特別ダンジョン『ユミル』を攻略した『ああああ』達を王城へと招いた国王は、『ああああ』達に新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』の調査を願い出た。
しかし、『ああああ』達はそれを拒否。
何故なら、『ああああ』達が身に付けているアイテム『ムーブ・ユグドラシル』は俺の所有物だからだ。
『ムーブ・ユグドラシル』を付けたまま、新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』の調査に向かえば、俺に何をされるかわからない。そう考えた『ああああ』達は国王の願いを断った。
その結果、何が起こったのか。
国王が俺に招待状を送り付けてきたのだ。
召喚状ではない。招待状である。
招待状とは、国が人を王城へ招待する正式な案内状。
しかし、招待状を送ったものの、まったく王城に姿を現さない俺。
その間、現実世界でステイしていたのだから当然だ。
結果、この世界にログインしてすぐ宿を見張っていた兵士にとっ捕まり、なし崩し的に王城まで馬車で運ばれ、この国の宰相であるカティ・アドバンスドの下まで連れて行かれる事となった。
俺の目の前に座り、様々な要求をしてくる。
「……陛下は、転移門『ユグドラシル』に追加された新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』の調査を望んでおります。どうか、調査依頼を受けて頂けないでしょうか?」
「嫌です」
俺の言葉に目を剥いて驚いた顔をするカティ宰相。
当然だ。上級ダンジョン攻略に失敗した転移組と冷蔵庫組に一体、幾らの罰金が科せられたと思っている。国の依頼事なんてハイリスク・ローリターン過ぎて受ける気にもならない。
前回、転移組と冷蔵庫組の上級ダンジョン攻略の判定員を務めたのは、俺、直々に奴等を嵌める為だ。それ以上でも、それ以下でもない。
きっぱり断ると、兵士達が厳しい視線を向けてくる。
しかし、俺は怯まない。
ボディガードにエレメンタル達が付いている為だ。
長い物には巻かれる主義の俺も、この国からの依頼だけは受けない様に決めている。
「話はそれだけですか? もう帰ってもいいですかね?」
そう言って、立ち上がろうとすると、兵士が俺に詰め寄ってきた。
「……何か用で?」
「宰相閣下の話はまだ終わっておりません。どうぞ、お座り下さい」
マジでか。面の皮が厚いな。
「えっ? 他にも何か俺に要求する事があるんですか?」
まあ、普通。宰相直々の依頼を断る奴なんていないだろうし、当然っちゃ当然か?
そんな事を思いながら再度、着席すると、カティ宰相は「こほんっ」と咳を吐く。
「……何故でしょうか? あなたは先の上級ダンジョン攻略に立ち会ってくれていましたよね?」
「まあ、そうですけど。でも、それとこれとは話が別ですよね? 一度でも国からの依頼を引き受けたら、次も必ず受けなきゃいけないんですか?」
あの時は、私怨で行動していたに過ぎない。
そもそも、国の依頼なら何でもかんでも受けなきゃならないという風潮自体おかしい。
そう視線を向けると、カティ宰相はたどたどしく「いや、そういう訳ではないが……」と呟いた。当然の事だ。
「それなら話はお終いですね。ああ、冒険者協会経由で俺に強制依頼をかけても無駄ですよ。既に協会長には、この手の依頼は引き受けない旨を伝えてありますので……」
そう告げると、カティ宰相は燻しがるような表情を浮かべる。
「……何故、そうも調査依頼を引き受ける事を嫌がるのです。あなたも新しい世界に興味があるのでしょう?」
当然、興味はある。
しかし、国の調査依頼を受けて新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』に向かうのと、一人気ままに新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』に向かうのとでは大きな違いがある。
「当然、興味はあります。でも、調査依頼を受けるという形で行きたい訳ではないんですよね。俺は俺の好きな時に自分の気分で行ってみたいんです。依頼するなら他の人にどうぞ。何なら、『ああああ』達に再度、依頼して頂いても構いませんよ? 俺から彼等に何かを言うつもりはありませんし……。しかし、国側でも『ムーブ・ユグドラシル』を保有しているでしょう? 何故、冒険者に調査依頼をかけようとするのです?」
新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』に転移する為の条件はたった二つ。
二百五十レベル以上である事。そして、『ムーブ・ユグドラシル』を保有している事の二点だ。
俺だけが二百五十レベルオーバーという訳ではない。
二百五十レベル以上の者を探して、セントラル王国で保有している『ムーブ・ユグドラシル』を貸与すればそれで問題無い筈。
態々、冒険者である俺に依頼をかける意味がわからない。
「まあ、確かに、兵の中には二百五十レベル以上の者もおりますが……」
カティ宰相のその発言を聞いてピンときた。
「ああ、そういう事でしたか……。カティ宰相は兵を未知の世界に出したくないんですね?」
そう呟いた瞬間、カティ宰相は目を大きく見開いた。
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