第142話 嘘ついてんじゃねーぞ、こらっ!①

「な、何だこれはっ……」


『ああああ』達を助けた翌日、ヘル組の動向を確認する為、ヘル組の事務所に向かった俺は愕然とした表情を浮かべ呟く。


「い、一体、何で……。なんでこんな酷い事ができるんだ……」


 そう呟く俺の前には、四階建てのヘル組の事務所がある。

 その事務所の外壁に『モブ・フェンリルはロリコン変態野郎』という文字がピンクの色で塗りたくられていた。

 しかも、モブ・フェンリルの絵まで描かれている。


 俺の建物ではない為、勝手に消す事はできない上、俺を見て嘲笑する人々が多数いる。


「嫌だわ……モブ・フェンリルの恰好をした頭のおかしい人がこっちを見てる……」

「ロリコンだなんて……」

「あのモブ・フェンリル……。私の体を性的視線で見ているわっ! ああ、なんて気持ちが悪いのっ!」

「あのモブ・フェンリルッ! 私の娘にも性的な視線をっ……。ベティちゃん、私の背後に隠れてっ!」


「いや……」


 誰がお前等なんかに性的な視線を向けるかと言いたい。


 なあ、信じられるか?

 この発言、言ってる奴に美女やロリなんて存在しないんだぜ?


 せめてだ……。せめて、目の前で俺の事を嘲笑する連中が自意識過剰、馬鹿で間抜けな上、緩くて軽い頭の持ち主だったとしても、ロリや美女ならまだいい。

 しかし、現実は残酷だ。俺の目の前で俺を非難するのは、性格が歪んでいて噂好きでそんなに顔も良くないのに被害者顔する大人達ばかり……。


 現実って、何でこんなに残酷なんだろうか。

 俺の目の前で騒ぐのは、俺の守備範囲外の自意識過剰で被害意識の強い情報弱者ばかりだ……。正直、俺の方がお前等の方をキモイと思ってしまう。よく、偽情報を流され、それをそのまま信じる事ができるな?

 お願いだから近寄らないで、馬鹿な思想が移る。


 お前等は俺の事をロリと言うが、俺は逆にお前等の事を異常者だと思うわ。

 ついでに言っておくと、俺はロリではない。ノーマルである。

 そして、最後に一つ言わせてほしい。


 誰がお前等みたいな自意識過剰なキチガイに欲情するかぁぁぁぁ!

 言いたい放題言っているけどなっ!

 誰もお前等の事なんて見てねーからっ!

 むしろ、珍獣みたいなっ!

 何なら、『不思議なこと言ってんなーこの人達、自分の顔面見てからそういうこと言えよ。むしろ、お前の方が犯罪者面じゃね。頭可笑しいんじゃないだろうか?』程度の事しか思ってねーからっ!

 何なら、被害者意識が強くて自分の価値観や考え方が正しいと思っている上、自分のことを美化して自分の問題点や欠点を受け入れようとしないキチガイ、超嫌いなタイプだからっ!


 そんな事を考え、吐き気を催していると、兵士まで出しゃばってきた


「君がこの騒動の主か? 駄目だよ。そう言うのは頭の中だけで完結させなくちゃ……」

「悪いんだけど、ちょっと、話を聞かせて貰えないかな?」


 それを聞いた瞬間、俺は顔を空に仰ぐ。


 駄目だ。こいつ等……早く何とかしないと……。


「……何か勘違いしているみたいですが、あの建物に書かれた言葉を真に受けた有象無象が勝手に騒いでいるだけで、俺は被害者です。話を聞くなら、この騒動の主であるあの人達に聞いて下さい。というより、普通に冤罪&名誉棄損なので逮捕してあげて下さい」

「ええっ……」


 そう言ってやると、兵士は『面倒臭い奴に当たったな』と言った表情を浮かべた。

 しかし、ここで頭のおかしい女が声を上げる。


「な、何が冤罪よっ! 兵士さん、私はさっきあのモブ・フェンリルにセクハラを受けましたっ! 性的な目で舐めまわす様に体を見られたんです! 治安維持の為、すぐに捕まえて下さい!」

「「何っ!?」」


 『何っ!?』じゃねーよ。

 どうやら、この女は頭がおかしい上、脳が逝ってしまっているらしい。

 その瞬間、その女の隣りにいたボーイフレンドらしき男共が俺を捕えようと襲い掛ってきた。


「この変態がぁぁぁぁ!」

「俺達の女神に穢れた視線を向けてくるんじゃねー!」

「ロリコン野郎がっ! ぶっ殺してやる!」


「ま、待ちたまえ君達っ! 暴力はいかん!」

「そうだ。止め給えっ!」


 そう兵士達が吠えるが、それを止める気はなさそうだ。


「はあっ……まったく、仕方がないな……」

「「「ぐふぅえっ!!?」」」


 俺は男共の攻撃を軽くいなし、腹をパンチしてから抑え付けると兵士が俺を諭すようにこう言った。


「ぼ、暴力は良くないんじゃないかな? こ、この女性はこう言っているがっ……」

「な、何て酷い事をっ! この私を性的視線で舐めまわす様に見るだけでは飽き足らず暴力まで奮ってきたわっ! そ、そういえば、さっき、私のお尻を撫でられたかも……」


 おい。クソ女……。お前はもう何も言うな……。

 ここがどこだかわかっているのか?

 ゲーム世界なんだぞっ?


 ここが現実世界で、且つ、頭のおかしい女に痴漢冤罪に巻き込まれたのであれば、誰とも握手を交わさず警察官に『繊維判定お願いします』と言い、繊維鑑定して貰い、ついでにDNA鑑定して貰うつもりだが、ここはゲーム世界。

 現実世界より簡単に真実が解ってしまう。


「はあっ、面倒臭っ……。教会に金を払うんで、真偽官を呼んで下さい」


 真偽官とは、教会に属する者に発現するジョブの一つで、虚実を明らかにする事のできる力を持った者を指している。

 真偽官はジョブの制約上、嘘を付く事ができず、虚実を明らかにする為には、一回当たり十万コルのお布施を教会に納めなければならない。

 助祭以上の聖職位に就いている者であれば、誰もが一度は通る道である。


 そう言うと、俺を加害者にしようとしたクソ女は顔を青褪めさせた。

 恐らくこの女、勝手な思い込みで俺の事を性犯罪者だと思い、義憤神溢れる心で無罪である俺を性犯罪者に仕立て上げようとしたのだろう。

 その反応を見た男共も同じ表情を浮かべている。


 真偽官を呼ぶといった瞬間、顔を青褪めさせて立ち竦んでしまった。

 しかし、俺は容赦する気はない。


 何故なら、この女は俺を犯罪者にしたて上げようとした加害者だからだ。

 一切、容赦する事無くそう言ってやると、俺の人生を棒に振ろうとしていた加害者が自分にとって都合のいい事を言ってきた。


「も、もしかしたら、私の勘違いだったかも……」

「へえ、そうですか……」


 遅い遅い。今更、遅い。

 思い込みで虚言を言い、俺を嵌めようとしたクソみたいな奴にかける情などない。


「まあ、そんな事はどうでもいいんで、真偽官を呼びましょうよ。それで白黒をはっきりさせましょう? あなたの言葉を信じるなら、俺はあなたにいやらしい視線を向け、お尻を触ったんですよね? さっき、そう言ったじゃないですか。真偽官を呼べばすべてが明らかになりますよ?」

「ま、まあまあ、そこまで話を大きくする必要は……」


 そう言って、俺を犯罪者に仕立て上げようとした奴に加担する兵士も同じ事だ。


「いえいえ、別に話を大きくしようなんて思っていませんよ? 俺の無実を証明する為にも、真偽官を呼び、真偽を明らかにして貰いましょうよ。それとも、真実が明らかになって困る事でもあるんですか? この被害者顔した方が嘘を付いていなければ問題ない事ですよね?」


 都合のいい言葉を並べているんじゃねーぞ。クソ野郎&クソ女が……。

 何が『そ、そういえば、さっき、私のお尻を撫でられたかも……』だっ!

 いざ、真偽官を呼んで真実が明らかになると思ったら発言を覆すとか、そんな事、許される訳ねーだろっ!


 この場から逃げ出そうとする男達と俺を陥れようとしたクソ女をグレイプニル弾で捕えると、男達は逆ギレし始めた。


「こ、この性犯罪者がっ! ロリコンは事実じゃないのっ!」

「そうだそうだっ! 中学生位の子を囲いやがってっ!」

「羨ましいぞ、この野郎っ!」


 ヤベーな。本当の意味で犯罪者がここにいるよ。

 周り犯罪者予備軍だらけだよっ!


「何度も言うが、俺はロリコンじゃない。とりあえず、真偽官が来ればお前達が嘘を吐いていたかどうか明らかになるんだけど、どうする?」


 そう俺に冤罪を被せようとしたクソ女にそう告げると、犯罪者になりたくないのかクソ女は土下座した。


「っ!? も、申し訳ございませんでした。私の勝手な憶測であなたを犯罪者にしたてあげようとしてしまい……」

「……だったら、罪を償う必要があるよね?」


 憶測で人を犯罪者に仕立て上げようとしたんだよね?

 兵士の前でそれを自白しちゃったよね?

 だったら当然、罪を償わなきゃ駄目だよね?


 もしこれが日本だったら、虚偽報告罪で最低三ヶ月、最長十年牢屋にぶち込まれる所だったぞ?

 そんな事を考えていると、真偽官が来る前だと言うのに、兵士達が決を下そうとする。


「ま、まあまあ、落ち着いて下さい。女性も反省している見たいですし……」

「いやいやいやいや……」


 何、穏便に話を済ませようとしているんだ?

 俺は一切、そんな事は望んでいない。

 俺が望んでいるのは、目の前にいる犯罪者共に法の裁きを受けさせる事、ただ一つだ。


「……駄目だって、この人達は自分の行動を正しいと思い込み、ロリコン&痴漢扱いして冤罪を吹っ掛けてきたんだぞ? もしかしたら、これまで人に冤罪吹っ掛けて他の人の人生をぶっ壊してきたかも知れない奴等なんだから豚箱に閉じ込めとかなきゃ駄目だろ? 兵士であるお前等も、お前等だよ。お前等の仕事はこの国の治安維持だろ? 治安乱している奴等の味方しちゃ駄目だって……。つーか、こいつ等が反省しているってなんでわかる訳? お前等もしかして真偽官みたいに虚実を明らかにする力でも持っているの? ねえ、エスパーなの? お前、エスパーなの?」


「い、いえ、そう言う訳では……」


 じゃあ、どういうつもりなんだ?

 つーか、こいつ等じゃ話にならない。


 すると、丁度良く俺の宿に泊まっているユルバン助祭が近くを通りかかる。


「おっ? 丁度良い所に……ユルバン助祭!」

「げっ……!?」


 俺がそう声をかけると、ユルバン助祭は面倒臭い奴に声を掛けられたといった表情を浮かべた。


「こ、これはこれは、カケル様……。それで、私に何の用でしょうか? 何やらとてつもなく面倒臭い状況に置かれているようですが……」


 そう言いながら、嫌々、こちらに向かってくるユルバン助祭。


 教会に属するユルバン助祭の登場に、グレイプニル弾で捕えられた人達と、俺に冤罪をかけようとした女の顔が青くなる。


「いや、ユルバン助祭には、この人達が嘘を付いているかどうか真偽官のジョブで判断して貰おうと思いまして……ああ、これは教会に寄付する予定のお布施です」


 そう言って、十万コルではなく百万コルを手渡すと、ユルバン助祭は苦笑いを浮かべた。

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