第140話 嵌められた『ああああ』達④
「で、でも上級ダンジョンはリージョン帝国にあるんだよ? 国の協力無くダンジョン攻略なんて、そんな事はできな――」
「いや、できる。俺ならそれが可能だ……」
アイテムストレージから『ムーブ・ユグドラシル』を取り出すと、『ああああ』達の前に提示する。
「そ、それは……」
「まあ、皆知っているだろうけど、これはこの世界が現実化する前に手に入れた『ムーブ・ユグドラシル』という課金アイテムだ。これさえあれば、移動制限のある転移門『ユグドラシル』を制限なしで利用する事ができる」
もちろん、こいつ等に渡すのはボスモンスターとかからドロップした回数制限付きの『ムーブ・ユグドラシル』だ。
万が一、転移組や冷蔵庫組の連中に奪われたらシャレにならない。こいつ等は脇が甘すぎる為、隷属の首輪や契約書を交わしていないと信頼して渡す事ができないともいう。
「そ、そんな貴重な物を俺達に?」
「ああ、お前達を信頼して渡すんだ。魔が差して国や冒険者協会に売り払うなんて事はしてくれるなよ? 俺がムーブ・ユグドラシルを保有しているという事もだ……」
俺の場合、モブ・フェンリルスーツ内にムーブ・ユグドラシルを装着している。
何故なら、以前、これをモブ・フェンリルスーツの外側に装着していたら転移組に絡まれたからだ。
だから、この装備が外から見えるという事は絶対にない。
それに国家間を渡る事ができる課金アイテムを持っている事を知られたら大変なことになると容易に予想できる。まず、間違いなく国や冒険者協会が寄越せと言い出してくる事だろう。
「……これで、わかったろ? ダンジョン攻略は明日にでも行うとして今日の所は宿に戻ってゆっくりしていろよ。豚箱に入っていたから全然気が休まらなかっただろ?」
「う、うん……」
「……まあ、他国の上級ダンジョンだもんな。攻略には危険も伴うし、お前達の気持ちもよく解る。だが、安心しろ。お前達の持つ装備があれば大丈夫だ。(自爆攻撃で怪我をする事はあるかもしれないが)死ぬ事は絶対にない。あいつ等を見返してやろうぜ!」
リージョン帝国の上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』をこいつ等が攻略すれば、まず間違いなく。転移組と冷蔵庫組の信用は地に落ちる。
俺の所有物に手を出した罰だ。絶対に償わせてやる。
「それじゃあ、俺はこれからやる事があるから、皆、ちゃんと、宿に戻るんだぞー」
そう言うと、俺は『ああああ』達の拘束具を取り除き、ヘル組の建物の前にあった馬車に乗せて見送った。
「……さてと」
建物の外で伸びていた組員達にも隷属の首輪装着し、地下室に引き摺っていくと、ちょっとした家捜しをした後、俺はそいつ等の前で笑みを浮かべる。
「……そろそろ起きようか?」
そう呟き気絶している組員達を縛りビンタをかますと、気絶していた組員達は俺の顔を見た瞬間、目を見開き驚愕といった表情を浮かべた。
ついでに、収容所から連れて来た兵士長、アーノルド君もビンタして起こしておいた。
「な、なんで……」
「あ、あいつ等はどこに行った!?」
いやはや、中々いい反応をしてくれる。
「ねえねえ。お前達に聞きたいんだけど……まずは、この組のボスが誰か教えてくれる?」
そう尋ねてやると、隷属の首輪を嵌めた組員達が睨み付けてくる。
「……馬鹿がっ! そんな事、素直に言う訳がねぇだろっ!」
「さっさと、この拘束を解きやがれっ!」
「俺達を敵に回してタダで済むと思うなよ!」
まったく煩い奴らだ。
どうやら、自分の首に何が嵌っているのか何が嵌っているのか解っていないらしい。
「……もう一度だけ聞くよ? お前達のボスはこの中の誰だ? お前達の首に付いている物が何なのかをよく見てから回答しろよ? 二度目は無いからな?」
そう言ってやると、組員達は首に手を当て真っ青な表情を浮かべる。
「こ、これは……隷属の首輪ぁぁぁぁ!?」
「な、なんで隷属の首輪が俺達にっ……」
隷属の首輪を嵌められた者は、嵌めた者に逆らう事はできない。
何故なら、逆らった瞬間、首が締まるからだ。
一度目の質問は命令口調ではなくお願いベースで聞いた為、隷属の首輪が締まる事はなかった様だが、二度目は違う。
ちゃんと『回答しろよ』と命令口調で質問している。
「首に嵌められた物を見ればわかると思うけど念の為言っておく。俺の質問には誠実に答えろ。嘘を言ったり、質問に無回答を貫いたりしたら、お前等の首に付いている隷属の首輪が締まるからな……まあ、強靭な首を持っているというのであれば答えなくてもいいけど……それで? お前等のボスは誰だ?」
脅し気味に言ってやると、組員達は一斉にある男に視線を向ける。
「「この人です!」」
「なあっ!? お前等っ!」
隷属の首輪の効果は抜群の様だ。
俺の質問に組員全員で答えてくれた。
ちなみにヘル組のボスは一番初めに『……馬鹿がっ! そんな事、素直に言う訳がねぇだろっ!』と言った奴だ。
「……お前がこの組のボスか。それで、名前はなんて言うの?」
「はっ! 答えるかよ。馬鹿が……」
「……馬鹿はお前だ。もう一度だけ聞いてやる。お前の名前を教えろ……」
俺がそう命令してやると、男は唸りながら答える。
「……ジャピルだ」
何だ。必死に隠そうとしていたから、恥ずかしい名前かと思っていた。
隠すほどの名前でもなかったな。
隷属の首輪が嵌められているんだ。どうせ答える事になるんだから最初から答えればいいものを……。まあいい。
「そうか。ジャピルか……。それじゃあ、ジャピル。これから俺が口にする質問に嘘偽りなく答えろ。まず『ああああ』達を嵌めたのはお前か?」
ジャピルは恨みがましい視線を向けると、唸りながら答える。
「ああ、そうだよ……」
ヘル組の組長であっても首が締まるのは怖いらしい。
「その命令は転移組と冷蔵庫組から下されたものか?」
「そうだ……」
「『ああああ』達を借金奴隷に落とした理由は?」
「……あいつ等に上級ダンジョンを攻略させるためだ」
やはりか。まあ、最初からわかっていたけど、これで転移組と冷蔵庫組の関与が明らかになった。
「それで? 冒険者協会の冒険者を襲ったのも転移組と冷蔵庫組の指示か?」
「ああ、そうだよ……」
「なるほど、なるほど……」
自白ゲットと……。
やっぱり、転移組と冷蔵庫組をなんとかしないとダメだなこりゃあ……。
こいつ一人の自白じゃ転移組と冷蔵庫組を豚箱にぶち込む事はできないだろうけど、今はそれでいい。
「それじゃあ、アーノルド君。後の事はよろしくね? 折角、ジャピル君が自白してくれたんだから逮捕してあげないと……」
俺が収容所の長官であるアーノルドに話しかけると、アーノルドはとぼけた返事を返してくる。
「へっ?」
いや、『へっ?』じゃねーよ。アーノルド君。
「……お前、仮にもこの国の収容所に勤める長官だろ。借金奴隷に落として強制労働させようとしてました。冒険者を襲いましたと、ジャピル君が自白してるんだから収容してあげないと失礼だろうが。臭い飯食わしてやれよ」
そこでようやくアーノルドの存在に気付いたのか、ジャピルを筆頭としたヘル組の組員達が驚愕といった表情を浮かべる。
まさか収容所の長官がこんな所にいるとは思いもしなかったのだろう。
組員の中には、顔を強張らせ震えている奴もいた。
おそらく、臭い飯が食いたくて食いたくて震えているのだろう。
もしくは、牢屋に入りたくて入りたくて震えているのかもしれない。
「お、お前っ!? 騙しやがったなっ!」
「はあっ?」
騙した?
俺がか? 誰をだ??
意味がわからん。収容所の長官がいる事に気付かなかったのは、注意力散漫なジャピル君が悪いから俺が悪い訳ではない筈。
俺はただ組員全員に隷属の首輪を付けて質問しただけだ。
当然、喋らないという選択肢もあった。
まあその場合、隷属の首輪の効果により首が締まるけど……。
「……いやいやいや、ジャピル君。騙したなんて人聞きが悪いな。収容所の長官であるアーノルド君は最初からこの部屋にいたじゃないか。勝手に自白して自爆したのは君だろう? 隷属の首輪は付けたままにしてあげるから、牢屋の中で自分達が行った悪い事をすべて白状しろよ」
勿論、隷属の首輪の命令権はアーノルド君に与えるつもりだ。
「う、うぐぐぐぐっ……」
悔しそうに呻くジャピル君の頭にポンッと手を乗せると、俺は笑みを浮かべる。
「いやぁー、これが人を嵌めるって事か……。こうも上手く嵌ってくれると楽しいものだね?」
「こ、この性悪がぁぁぁぁ!」
いや、お前にだけは言われたくねーよ。と、ついそんな事を思ってしまったが、俺は敢えて言い返すのは止めておいた。
一瞬、確かにそうかも知れないなと思ってしまった為だ。
その位の批判は、大海より広い心で許してあげよう。
どの道、こいつ等の未来はきつく厳しいものになる。
自分で自分の不祥事を握り潰そうとした収容所の長官、アーノルド君が自分の保身の為にきっとそうしてくれる筈だ。
俺は笑顔を浮かべたまま、ジャピル君の肩を二度、軽く叩くと、アーノルド君の胸ぐらを掴み恐喝する。
「おい。お前、こいつ等の取り調べ、容赦するんじゃねーぞ? もし万が一、こいつ等に手心を加えようものなら、お前が自分のミスを握り潰そうとした事を映像付きでばら撒いてやるからな?」
「は、はいっ……。わかりましたぁ……」
もはや長官失格のアーノルド君が涙を浮かべそう呟く。
折角の機会なので、アーノルド君には二、三、追加で要求を突き付けておく事にした。
「……それともう一つ。こいつ等が転移組、そして冷凍庫組の命令で動いていた事をさり気なく国と冒険者協会に伝えろ。いいか? 間違ってもこいつ等をトカゲの尻尾切りにするんじゃないぞ? お前の持つ人脈、伝手をすべて使い転移組と冷蔵庫組を追い詰めろ……。なぁに、逮捕して牢屋にぶち込めとまでは言わないさ。国と冒険者協会が不信感を抱く程度の話を流してくれればそれでいい」
ぶっちゃけ、国と冒険者協会が招集した冒険者を傷付けたというだけでも、致命傷になるかもしれないが、そうなったらそうなったで好都合だ。
邪魔な虫が勝手に自滅して消えてくれるなら俺としては万々歳である。
それにここを家探しをした際、手に入れた金もある。
おそらくこの金は、ヘル組が転移組と冷凍庫組から預かった『ああああ』達を借金奴隷として買い取る為の購入資金。
それがまるまるなくなったとなればどうなる事か……。
「それじゃあ、後の事は頼んだよ」
アーノルド君に向かって、そう呟くと俺はヘル組の事務所を後にした。
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