第136話 キャッシュフローゲーム翌日
「マ、マジか……」
会田さん開催のキャッシュフローゲームを行った翌日、会田さんから直接連絡があった。
何でも、一週間後の土曜日に俺が思い付きで立ち上げた組織?宝くじ研究会、通称ピースメーカーの入会体験を受けたい人達がいるとの事だ。
入会体験を受けたいという人の人数は、とりあえず百人。
どうやら会田さんのマルチグループは相当大きなグループだったようだ。
各週に百人ずつ入会体験をしてほしいと言ってきた。
「だ、大丈夫か、これ……」
主に俺の持つ『レアドロップ倍率+500%』の在庫……。
一応、マイルームにある倉庫から目一杯の課金アイテムを持ち出してきたつもりだが、流石に毎週百人ずつ入会体験ともなると在庫が心配になってきた。
ダメ元でマイルームにもう一度行ってみるとして、なんとか安定的に『レアドロップ倍率+500%』を確保しなければまずい。
それにしても、この課金アイテムどこで売っているんだ?
少なくとも現実となったゲーム世界で課金アイテムが売っているのを見た事がない。
とりあえず、『レアドロップ倍率+500%』の確保は喫緊の課題だな……。
それと宝くじの購入場所も課題の一つだ。
関東・中部・東北自治宝くじの当選くじは俺と会田さんで粗方乱獲してしまった。
となれば、残るスクラッチくじは西日本宝くじと地域医療等振興自治宝くじ。ジャンボくじと数字選択式宝くじ位だ。
即効性があるのはスクラッチくじだが、いかんせんインパクトのある結果を与える事はできない。まだ全国自治宝くじがあるから問題ないと思うが、最悪、数字選択式宝くじをやらせるか……。
ロトは俺と購入が被ってしまうが、ミニロトやビンゴ5、ナンバーズ位であれば問題はない。念の為、購入制限もかけておこう。
会田さんの様に十万円をBETされても困る。
何より、宝くじが本当に当選するというパフォーマンスができなくなってしまう。
と、とりあえず、倉庫に『レアドロップ倍率+500%』を取りに行くか……。
会田さんに後日、宝くじ購入の場所を伝える旨をSNSで送ると、スマートフォンをアイテムストレージに放り込みベッドで横になる。
そして「――コネクト『Different World』」と言うと、『Different World』の世界へとダイブした。
マイルームに転移する為には、転移門『ユグドラシル』の前に立ち、メニューバーから『マイルーム』を選択する必要がある。
俺は祈る気持ちでメニューバーを開くと、メニューバーから恐る恐る『マイルーム』の文字を探していく。
すると、一番下の方に『マイルーム』の文字が表示されていた。
「ま、まだあった……」
しかし、まだ安心はできない。
……とりあえず、行ってみるか。
心の中でそう呟くと、俺はメニューバーからマイルームの文字を選択し、「転移。マイルーム」と口にして『マイルーム』へと転移した。
「……お、おう」
なんだか普通に入る事ができたな。
まあ嬉しい誤算だ。
結構前に、カイルの奴が入れないと言っていた事を一瞬思い出したが、あれは一体何だったのだろうか?
マイルームに入る為には、利用期限付きの課金アイテム『マイルーム利用権』または、『ムーブ・ユグドラシル』が必要となる。
まあ、カイルの奴は単純だからな。
もしかしたら『マイルーム利用権』の有効期限が切れて入れなくなっていたのを『マイルームに入れない』と勘違いしていただけなのかもしれない。
マイルームに転移した俺は早速、マイルーム内に置かれた端末に触れ、『倉庫メニュー』内を確認していく。
「よし。取り敢えず、倉庫内のアイテムは無事のようだな……」
むしろ、前よりアイテムが増えているような気がする。
マジで意味がわからないな。これについても一度検証が必要かも知れない。
幸いな事に、俺には、俺と同じ(現実とゲーム世界を行き来できるという)境遇にある美琴ちゃんがいる。
今度、『ムーブ・ユグドラシル』でもプレゼントして、美琴ちゃんも同様のマイルームに入る事ができるかどうか検証してみよう。
「……と、その前に」
今の内に、倉庫にあるアイテムを、アイテムストレージに移動させないと……。
「おっ! あるあるっ!」
俺は倉庫内にある各種『レアドロップ倍率』を中心にアイテムストレージに格納していく。
前回は、パーティーを組む気皆無だったので自分の欲しいアイテムを中心にアイテムストレージに格納したが、今回は『レアドロップ倍率』中心にアイテムを格納する事にした。
「……ふう。まあ、こんなもんかな?」
倉庫内に入っていた各種『レアドロップ倍率』の大半をアイテムストレージに格納する事ができた。これで当分、『レアドロップ倍率』に悩まされる事はなさそうだ。
それにしても、なんでまた補充されているんだろ?
まったく以って不思議な倉庫だ。まあいいんだけど……。
「他にも何かないかな……って、えっ?」
そんな事を言いながら倉庫内のアイテムをスクロールしながら物色していると、倉庫内で見た事のある通貨単位が表示されている事に気付く。
「さ、三百億円っ!?」
い、いや、それだけじゃない。米ドルや人民元、ユーロやウォンで日本円とほぼ同額のお金が倉庫の中に……。
す、すごい……。
まるで、人気モバイルゲームの年間売上数年分のお金が各国通貨で倉庫内に入っている。
つーか、なんで、現実世界の通貨がこんなに倉庫内に入っているのっ!?
あまりの大金に唖然とした表情を浮かべてしまうが、俺のマイルームの倉庫内に入っている以上、やる事は一つ。
「こほんっ、まあいいか……」
その大金すべてを自分のアイテムストレージの中に格納していく。
ヤベーなこれ、なんだか意味もなく涎が出そうだ。
しかし、本当になんでマイルームの倉庫に課金アイテムとこんな大金が……。
本当に意味がわからない。だが、俺にとっては僥倖だ。
しかし、意味は分からなかろうが金は金。マイルームの倉庫に入っている俺の金だ。
つまり、この金は俺のものという事。
ついでに言えば、現実世界にログアウトできない他の人達にはまったく意味のない金ともいえる。
つまり、この金は現実世界に戻る事ができる俺が使うべきお金とそういう事だろう。
「ありがとう。神様……」
日本人には、実質的無宗教な人が多い。
教会に行くのは結婚式、仏教のお世話になるのはお葬式。新年に受験合格、健康祈願、恋愛成就等をお願いし、クリスマスにはホールケーキを前にイエス・キリストの生誕を祝う。
正直、俺もその中の一人だ。
だけど、今日位は祈らせてほしい。
倉庫内からアイテムストレージにお金を格納すると、俺は神様に祈りを捧げる。
お金はいくらあっても無駄にはならない。
というより、これだけのお金があれば、銀行の利息だけで生活できるんじゃないだろうか?
「……いや、駄目だな」
よくよく考えてみれば、銀行の普通預金の金利は0.001%。
三百億円預けても年間三十万円にしかならない。
それに、こんな大金を銀行に振り込めば、即刻税務調査に入られそうだ。
しかも一日の内に引き出す事のできるお金に制限までかかってしまう。
俺にとってデメリットしかない。ついでに現実世界に戻ったら銀行から金を引き出して全額アイテムストレージに格納してしまおう。
三百億円預けて三十万円の利息しか付かない所に預けていても意味はない。
アイテムストレージが一番安全だ。
「よし。粗方金は引き出したし、そろそろマイルームから出るか……」
自分で言っていて何だが、泥棒にでもなったかの様な気分だ。
しかし、ここはゲーム世界。
マイルームの倉庫は運営によりプレイヤー一人一人に割り振られている。
まあ運営がいま何をしているのかまったく知らないが、俺が思うに、こんな大量のアイテムやお金が倉庫内に収められていたのは、この世界が現実となった弊害……つまり、バグ的な何かがマイルームで発生し、その結果、俺に巨万の富を授けてくれたのだろう。
自分で言っていて、何を言っているのかわからないが多分そうだ。
そういう事にしておこう。
転移門『ユグドラシル』経由でマイルームから出ると、俺は教会跡地に向かう事にした。
何故、教会跡地に向かう事にしたのか。それは生臭司祭の様子を確認する為だ。
生臭司祭には、既に一億コル投資している。
教会を建て直す間、暇だろうし、この機会にレベル上げをしてあげようと考えた為だ。ついでに、教会の建設がちゃんと進んでいるのかを確認するという理由もある。
「さて、生臭司祭はちゃんと仕事してるかな……」
まあ、教会の仕事なんかしてなくても、レベル上げか上級ダンジョン『アイスアビス』の攻略に着手していればそれでいいんだけど……。
そんな事を考えながら教会跡地に向かうと、そこには……。
「ミ、ミトラ司教! どうかお考え直し下さい!」
「いいや、これは本国の決定である。ユルバン、お主を助祭に降格処分とする」
「そ、そんなぁ!?」
高らかに降格処分を告げる司教様と、生臭司祭……いや、生臭助祭様がいた。
「な、何故ですっ! 私はこんなにも神に……教会に尽くして……」
「いや……教会に尽くす者が、教会建設を他人任せにし、冒険者の真似事をして我が国の上級ダンジョン『アイスアビス』を攻略する等、聞いた事がないわっ!」
まったく以ってごもっとも。
ぐうの音も出ない程、正論だ。
というより、仕事が早いな。
ユルバン助祭。いつの間にか、ミズガルズ聖国にある上級ダンジョン『アイスアビス』を攻略していたらしい。
俺が金だけ渡して放置している間によくもまあ……。
しかし、それが祟って今度は、今、建設中の教会の司祭から降ろされ助祭になってしまったようだ。
まったく以って嘆かわしい限りである。
「ま、待って、お待ち下さい。それには深い訳が……」
「後任の司祭は追って派遣する。それまでに教会を建て直しておくように……」
「ミ、ミトラ司教ぉぉぉぉ!」
ミズガルズ聖国の司教、ミトラはそれだけ言うと、馬車に乗り込みそのままどこかへ行ってしまう。
両手両足を地面に付きながら悔し涙を流すユルバン助祭。
流石の俺も胸の内が痛くなってきた。
俺はユルバン助祭に近付き、軽く肩を叩くと「教会を建て直す費用や借金は帳消しにしてやるから元気出せよ」とだけ呟く。
丁度、莫大なお金をマイルームの倉庫から発掘した所だ。
この位の出費であれば、まったく懐は痛まない。
唖然とした表情を浮かべるユルバン助祭の肩を再度、軽く叩くと、俺は教会跡地を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます