第123話 この店、高い酒しかメニューにねー!②
あれは……。状態異常無効のネックレス?
ボスモンスターから稀にドロップされる希少なアイテムだ。
なるほど、何であれ程の酒を飲んでも酔わないのか不思議だったがそういう事か……。
さり気なく他のキャバ嬢に視線を向けると、皆、状態異常無効のネックレスを付けていた。
どうやら店側も未成年者に対する配慮はしていた様だ。
それと共に勿体なく思う。
こんな高級な酒を状態異常無効のネックレスを付けて飲むなんて……。
まあ、注文したボトルは俺も飲めるみたいだからいいんだけど。
「そうだね……」
確かに、ドンペリは美味い。
しかし、それと同時にキャバクラで飲むドンペリは目が飛び出る位高い。
正直言って、冒険者協会のクソ爺から百万コル分の割引券を貰っていて良かったと思ってしまった程だ。
この際、使い切っちまうか。もう来る事はないだろうし……。
「実は今、手元に百万コル(分の割引券)しかないんだよね。お会計がそれで収まるように調整してくれる?」
「えっ? 百万コルも使ってくれるんですか!? 流石、Sランク冒険者様は違いますね~凄いです! それじゃあ、もう一本ボトルとフルーツを注文してもいいですかぁ?」
「ああ、いいよ。百万コル(分の割引券)の範囲なら……」
「ありがとうございます! それじゃあ、ボトルをもう一本とフルーツを注文させて頂きますね!」
そう言うと、マミちゃんはボーイを呼び、耳打ちする。
そして、追加のボトル、フルーツをテーブルに置くと、軽く一杯飲み干した。
「マミさん、あちらのテーブルで指名です」
すると、今度はボーイが軽くマミちゃんに耳打ちする。
「え~。行きたくない~」
「マミさん。そう言われましても……」
「……はぁい。分かりました。……ごめんね。すぐ戻ってくるからね」
席を立ち数歩歩くと、マミちゃんが一度振り返る。
そして、そのまま、他のテーブルに付いた。
「あ、あざとい……」
なるほど、あれがキャバ嬢のテクニック。
凄いな。まだ十○歳だというのに……。
カイルや下種司祭。協会長がハマる訳だ。
真正のロリコンには効果が抜群なのだろう。
ドンペリをチビチビ飲みながらフルーツを食べていると、キャストのミコトちゃんが何かを探るように話しかけてくる。
「そう言えば、カケル君って、普段、どんなお仕事をされているんですか?」
「仕事? そうだなぁ……」
――って、あれ?
……普段、俺って何をやっているんだっけ?
最近の俺の行動を振り返るも、仕事という仕事をした覚えがない。
現実世界の収入は、宝くじがメインだし、ゲーム世界では、Sランク冒険者として活動を……って、俺、活動してたか?
そういえば、最近、一切、活動してない気がする。
ヤベッ……。働かなくても収入のある無職がこういう質問をキャストにされたらなんて答えるのが正解なんだ?
「ネ、ネオニートかな? もしくは投資家?」
確か、ネオニートとは、就職していないにも関わらず十分なお金を稼いでいる人の事をいう単語だった筈。
投資家というのも、意外と的を得ているのではないかと、個人的には思っている。
宝くじは、宝くじの一等に当たる確率より、隕石が当たって死亡する確率の方が高いと言われる程、当選率が低く、『愚か者に課せられた税金』と言われているが、俺に限っていえば、ほぼ百パーセントの確率で宝くじに当選しまくっている。
俺、一番の収入源と言っても過言ではない。
正直、宝くじの販売元から何かしらの調査が入ってもおかしくない位だ。
内心、もし購入制限とかされたらどうしようとすら思っている。
疑問符を浮かべながらそう答えると、ミコトちゃんが困った顔を浮かべる。
「えっと、冒険者じゃないんですか?」
「えっ?」
言われてみればそうだ。
頭にアルコールでも回っていたのだろう。間違えて、現実世界の話をしてしまった。
完全に冒険者である事を失念していた。
正直、この世界がまだゲームだった頃は、ダンジョンに潜ってモンスターを倒したり、友達と共に攻略するのも楽しかったんだけど、今はなぁ……。
ダンジョンを攻略するにしても、自分の足で攻略しなきゃいけないから疲れるし、たった三階層しかないとわかっていても、その分、フィールドが広いから、攻略するにしても時間がかかるし、揚句の果てには、命までかかっている。
最近、『ああああ』や部下共、生臭司祭にダンジョン攻略を任せているのも、実はそれが原因だったりもするのだ。
とはいえ、百パーセント、ダンジョンに入らない訳じゃない。
何故だかわからないが、モンスターからドロップアイテムを手に入れる事ができるのは俺だけみたいだし、回復薬は、作る以外に初級ダンジョンからでしか入手不可能。
とはいえ、アイテムストレージの中に在庫がたっぷり余っている時点でダンジョンに入るメリットは皆無な訳で……。
「も、もちろん、冒険者もやっているよ」
言い訳がましくそう言うと、ミコトちゃんが顔を綻ばさせる。
「そうですよね! そうだと思っていました! 高橋さんは凄いです!」
「いや、それほどまででもないけど……えっ?」
そこまで言って、言葉に詰まる。
今、この子、『高橋さん』って言わなかっただろうか?
何で、俺の苗字知ってるの?
ゲーム世界じゃ一度も名乗った事がないんだけど……。
アルコールが入っているせいだろうか。
上手く考えが纏まらない。
すると、俺の反応を見たミコトちゃんが『やっぱり……』といった顔をする。
「あー、そういえば、ミコトちゃんは何でここで働いているの?」
なんだかよくわからないが、嫌な予感がする。
そう感じた俺は、話を逸らす為、俺はミコトちゃんに適当な質問を投げ掛けた。
俺の思い違いでなければ、確か、入店する時に見せて貰ったキャストのリストの中に、ミコトちゃんの名前はなかった筈……。
「う~んと……」
そう呟くと、ミコトちゃんは俺の耳元に口を近付け、小さな声でこう言った。
「お母さんの実家には居辛いし、ここなら私の事を知っている人はいないと思ったから……。ここで働いたのは偶々、体験入店っていうのかな? 結構前、お兄ちゃんが学校に行っている間に、ゲームを借りてプレイしてたら、この世界に来れるようになったんだ。高橋さんもそうなんでしょ?」
背筋が凍るような思いだ。
ハッとした表情を浮かべ、ミコトちゃんを凝視する。
「……ミコトちゃんって言ったっけ? 何で、俺の事を知ってるの?」
ゲーム世界の中で、俺の苗字を知っているプレイヤーは皆無。
となると、俺の苗字を知る人物は限られてくる。
つーか、何だこの女の子は……。
「……当ててみて?」
いや、まったくのノーヒントなんですが?
「情報が少なすぎる。わかる訳ないだろ……」
とりあえず、俺と同じで現実世界とDWの世界を行き来できる女の子位しか想像がつかない。
それにしても何だこれ、一方的に、苗字を知られているの滅茶苦茶怖いな……。
「それじゃあ、私にもドンペリ注文してくれたら教えてあげる!」
「おいおい……」
いや、駄目だろ……。
マミちゃんや他のキャストは借金奴隷だからセーフとしても、ミコトちゃんはどう考えても現実世界からこの世界にログインしてきた女の子。
酒を飲んでいいのは二十歳を超えてからである。
十代の女の子がドンペリなんて注文したらいけません。
「大丈夫だよー。ドンペリを飲むのは高橋さんだけで、私はミネラルウオーターで乾杯するから……。私、友達の家に泊まっている事になってるから、今日、泊まる宿代を稼がなきゃいけないんだよね。知ってる? お客さんが頼んだボトルの二十パーセントがキャストにバックされるんだって?」
「そ、そうなんだ……」
まあ、それならいいか?
それにしても、キャバクラのバック率高いな……。
そりゃあ、必死に高いボトルを客に入れさせる訳だ……。
しかし、俺と同じく現実世界とDWの世界を行き来できて、俺の事を一方的に知っている女の子か……。
「まあ、それならいいだろう」
『CLUB mami』の支配人から借金取立の報酬として百万コル貰ってるし、使い切れない程のお金がアイテムストレージに収められている。
「やったぁー! すいませーん! お客様にドン・ペリニヨンのP3をお願いしまーす!」
ミコトちゃんがそう注文すると、ボーイがドン・ペリニヨンのP3を持ってくる。
「これで宿に泊まれる。高橋さん、ありがとー!」
「いえいえ……」
そういって、グラスを軽く鳴らすと、俺はドン・ペリニヨンのP3を軽く口に含みグラスをテーブルに置いた。
美味しい。ドン・ペリニヨンのP3なんて初めて飲んだ。
もの凄く美味しい。……もの凄く美味しいが、これ以上飲んだらヤバイ。
このままでは間違いなく記憶を失う。それだけの量を俺は既に飲んでいる。
「……それじゃあ、聞かせて貰おうかな?」
その為に態々、ドンペリを注文したのだ。
質問に答えて貰わなければ困る。
「うん。いいよー! でも、その前に、このフルーツ、私も食べていい? 実は飲み物ばかりでご飯、全然、食べてないの」
「えっ? ああ、そうなの? まあ別にいいけど……」
「わーい! ありがとう!」
そう言うと、ミコトちゃんはフルーツの盛り合わせにフォークを突き刺し食べ始めた。
「うーん! 美味しい!」
こうして見ると、普通の女の子だ。
「……うん。フルーツ美味しかった? それはそれで良かったんだけど、そろそろ、君の正体を教えてくれない?」
そろそろ俺も限界だ。主に頭が……。
アルコールが回ってきて、いい具合に眠たくなってきた。
お願いだから、俺が正気を保っている間に……。というより、眠りにつく前になんで俺の事を知っているのか教えてほしい。
「うん。私は吉岡美琴。○歳だよー」
「いや、それはいいから……って、吉岡?」
なんか聞いた事がある様な名字だな……。
あれ、どこで聞いたんだっけ?
「……えっと、ミコトちゃん? 間違いだったら申し訳ないんだけど、ご家族の中で最近、急に家に帰って来なくなった人とかいる?」
例えば、カツアゲして逮捕されて家に帰ってこれなくなった高校生とか、放火で塀の中に入った男とか、ナイフで俺の事を刺した女とか……。
アルコールが回り切った頭でそんな事を考えていると、ミコトちゃんがフォークを食べながら頷いた。
「うん。いるよー」
その瞬間、目の前にいる女の子が誰なのか理解した。
この女の子……。俺をカツアゲした高校生の家族だと……。
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