第116話 教会事変-ヤンデレ少女メリー再び④

「それでは、司祭様。あなたにミズガルズ聖国の上級ダンジョン『アイスアビス』を攻略し、楽して金を稼ぐ力を与えましょう」


 渋々とはいえ頷いたという事は、了承の意を示したという事。

 ならば与えよう。俺の持つ呪いの装備を……。

 丁度、欲しかったんだよね。

 ミズガルズ聖国の上級ダンジョン『アイスアビス』に挑んでくれる冒険者が……。

 その点で言えば、偶然とはいえ、カイルの奴はよくやってくれた。

 結果的に、教会は廃墟化してしまったが、死人は出なかったみたいだし……。


 俺はアイテムストレージからDWのコラボ武器『神罰の代行者』の名を冠する呪いの銃剣を取り出すと、司祭様の前で提示する。


「……な、何故に、銃剣?」


 そんな事は知らない。

 大方、司祭(神父)といえばこれだろうという偏見に凝り固まったゲーム制作陣の悪ふざけだろう。


「……それはわかりませんが、この銃剣は司祭様にとってとてもお薦めです」

「こ、この銃剣がですか?」

「はい……」


 この『神罰の代行者』の持つ効果は、『再生』と『破壊』。

 もの凄く抽象的な効果かもしれないが、その効果は非常に強力。

 眉間を銃弾でぶち抜かれても再生し、その銃剣は無数に分裂、圧倒的な力で敵を銃斬殺する事ができる優れものだ。

 ただし、一度装備したらこの武器が壊れるまで他の武器も防具も装備できなくなる上、ダンジョン内では、意識を保ったまま『狂戦士化』してしまう呪いがかけられている。


 つまり、ダンジョン内に入った途端、自分の意思では身体を動かす事ができなくなり、傷など関係なしにモンスターを屠るだけの殺戮マシーンと化す呪いの装備という事だ。

 しかし、そこは安心してほしい。周りにモンスターがいなくなれば、『狂戦士化』も解けるし、モンスターの素材も回収し放題。ちょっと、パワーレベリングしてからじゃないと危険過ぎて使えないけど、そこは初級ダンジョンから始めてもらって徐々にレベル上げしてもらえば何とかなる筈だ。


 しかし、俺の思惑とは裏腹に司祭様が怪訝な表情を浮かべる。


「この装備からは何やら禍々しい気配を感じるのですが……」


 禍々しい気配?

 当たり前だ。だってこれ、呪いの装備だもの。

 手っ取り早く大金を稼ぐ為にはリスクを取らなければならない。

 だからこそ、俺はリスクに見合った解決策を提示している。

 しかし、安心して欲しい。呪いの装備は強力だ。

 現に『ああああ』や部下、カイル等、呪いの装備を渡し、Sランク冒険者に至った者もいる。

 だからこそ……。


「まあまあ、そんな事どうでもいいじゃありませんか。手っ取り早く大金を稼ぐ為にはリスクを取らなければなりません。それにこれを装備してもちょっと好戦的になるだけで、何も問題ありませんよ」


 あっけからんとそう言うと「えっ? 何で好戦的になるんですか? どう考えてもおかしいですよね!?」と俺の説明の粗を突いてくる司祭様。


 中々、痛い所を突いてくる。仕方がない……。


「まあ、確かにちょっと呪われていますが、安心して下さい。呪われているといっても他の呪いの装備に比べると効果はマイルドですし、ちょっと痛みに強くて楽してお金を稼ぎたい人にはピッタリの装備である事には変わりありません」


 そう。確かに呪われているがちょっとだけだ。装備したら外せないなんてのは呪いの内に入らない。

 何故なら、それが呪いの装備のデフォルトだからだ。その点、この装備はダンジョン内で『狂戦士化』する以外、呪いらしい呪いが設定されていない。

 カイルの持つ『ブラックシリーズ』装備の様に、ヤンデレ少女メリーさんがことある事に腹をぶっ刺してきたり、暴れ回った挙句、教会を破壊する呪いなんてかけられていないし、『ああああ』の様に、恥ずかしい名前から変えられず、もし万が一、名前を変えたらステータスが初期化する様な呪いが設定されている訳ではない。


 つまり、これは呪いの装備ではない。

 呪いの装備っぽい何かだ。

 それなら初対面の司祭様に提供しても問題ない筈!


「し、しかし……」

「司祭様が心配する気持ちもわかります。しかし、大丈夫です。安心して下さい。司祭様のレベルであれば、まず初級ダンジョンから攻略を進めて頂き、ある程度レベルを上げていけば、その内簡単に冒険者として稼げるようになりますよ」


 詐欺紛いの口調で自信満々にそう言うも、俄かに信じられないという表情を浮かべる司祭様。

 ならば示そう。金が稼げる根拠というものを……。


「まあ、そう言っても信じられないですよね? ならば、見せましょう。呪いの装備の真骨頂を……呪いの装備を与えたカイルがいかにいい暮らしをしているかを……」


 カイルの胸元に光るSランク冒険者の証。

 それを見て、俺はふと思う。


 大丈夫だよね?

 仮にとはいえメリーさんとの間を、取り持ってやったのは俺だものね?

 あいつ、それなりに強いんだよね??


 Sランク冒険者もピンキリだ。

 正直不安は拭えない。


「手っ取り早く。呪いの装備の有用性を証明しましょう。ちょっと、着いて来て頂けますか?」


 すると、司祭様はこう言った。


「いえ、今はそんな場合ではありません。これほどの大騒ぎになってしまったのです。誰かが責任を取らなくてはなりません……」

「はっ?」


 そう言うと、司祭様は立ち上がりこう言う。


「……それにその物言い。私を嵌めて何をする気だったのです? 呪いの装備を付けた者が教会に来れば、当然、教会関係者としては呪いを解く為に尽力するに決まっているではありませんか! それを……あまつさえ聖職者である私に呪いの装備を着けさせようとは言語道断! 恥を知りなさい!」


 え、ええええっ!?

 し、司祭様っ!?


 確かに呪いの装備をカイルの奴に装備させたのは俺だけど、教会からの祝福を受ける為、メリーさんと共に教会に赴いたのはカイルなんですけどっ!?


 なんか悪い事した俺っ!?

 つーか、どうするの? 廃墟となった教会!?

 何見当違いな事言ってキレてるの!?

 混乱してるの??

 た、確かに俺は司祭様を利用しようとしてるけど、元を辿れば全部、司祭様の力不足によるものじゃん!

 むしろ、俺はよくやった方だと思うよ!?

 自己弁護になるけど、上級回復薬で司祭様を癒し、ヤンデレ少女メリーさんの暴走を止め、教会再建設の費用も最終的には肩代わりするんだよ?

 まあ、代金の取り立てはキッチリ行うけど、それも当たり前の事で、司祭様の尻拭いしてなんでそんな事を言われなきゃならないんだ。おかしいだろうがよ!?


 言っとくけど、俺がお前に見出した点は、ミズガルズ聖国の司祭であるという点以外何もないからっ!?

 本当に、それ以外何もないから!

 なんなら、ミズガルズ聖国の司祭じゃなきゃ、今回の件も全力で知らん振りしていたからね!?

 そっちがその気なら、こっちにもやりようってもんがあるからっ!


「なるほど、なるほど……。つまり司祭様は俺の敵に回ると、そういう事でいいんですね?」


 自分の責任を棚に上げてよく言ったものだ。

 そもそも、こんな事になったのもすべて、お前がメリーさんの解呪に失敗したからだろうがよっ!

 何度だって言ってやる。メリーさんも、解呪なんて馬鹿な真似を試みなけりゃカイルに憑き纏うだけの善良な呪いのままでいてくれたわっ!


 しかし、司祭様の意思は固い様だ。


「当然です。正義はいつもこちら側にあるのですから」

「それは、それは……」


 自分の仕出かした事を棚に上げてよく言ってくれる。


「わかりました。それでは、カイル君。こちらに……ああ、司祭様。こっち側にきたくなったら、いつでもこの銃剣を手に取って下さいね?」


 そう言うと、カイルは『えっ? 俺っ!?』見たいな顔をしてメリーさんと共に歩み寄ってくる。

 そして、カイルの肩を軽く叩くと、俺はいつでも逃げる事ができるよう準備をし、呪いの装備『神罰の代行者』を地面に突き刺してから、カイルの隣にいるメリーさんに謝罪した。


「申し訳ございませんでした!」


 突然の謝罪に目を白黒させるカイルとメリーさん。

 これには司祭様も驚いている。


「なっ!? き、君は何をしようとして……」

「いえいえ、正義がそちら側にあるのであれば、悪は潔くあるべきだと、そう思い直しまして……」


 メリーさんの暴走を止める為とはいえ、嘘の祝福をして誤魔化すのは、カイル君とメリーさんに対して失礼だと思い直しただけだ。

 決して振出しに戻してやろうとか、そんな事は思っていない。

 だから、俺は誠心誠意全力で謝罪する事にした。


「メリーさん。実は俺、この教会の司祭ではありません。祝福する力もありません。先ほどの祝福も偽物です。神聖なる大樹ユグドラシルはあなた方の結婚を祝福しておりません。申し訳ございませんでしたぁ!」


 すると、ヤンデレ少女メリーさんが絶叫を上げた。


『★★くぁwせ◆◆drftgyふじこlp■■!!』


 周囲を見渡すと、床、壁、天井の至る所からナイフが生え、重苦しい空気が辺り一帯を支配していく。


「カケル君ーっ!? 何してくれてるの、お前ぇぇぇぇ!」

「何って、決まっているだろ。謝罪だよ。謝罪。綺麗な直立姿勢で謝罪しているだろうが、お前の目には一体、何が見えているんだ?」


 ふてぶてしくそう言ってやると、カイルがキレた。


「いや、謝罪は普通、最敬礼して行うものだからっ! 直立姿勢って、それ謝罪じゃないだろっ!」

「ああ、そういえばそうか。まあいいや。火の精霊サラマンダーは、外の人に迷惑がかからないよう教会の外側の守護を、それ以外のエレメンタルは全力で俺とカイルを護れ!」


 すると、唖然とした表情を浮かべた司祭様が呟くように言う。


「えっ? ちょっと待って、私は?」

「あれ? もしかして、司祭様。敵であるこの俺に護って欲しいんですか?」


 というより、図々しいとは思わないのだろうか?

 正義はどこへ行った。教会の正義とやらは。


「あ、いや……ですが……」

「カケルッ! 来るぞっ!!」

「ああ、エレメンタルッ!」


 そう叫ぶと、周囲に浮かぶナイフが俺達に向かって殺到する。


 ――ズガガガガガッ! ズガガガガガガガッ! 


 そう音を立てて床に突き刺さる数多のナイフ。


 なんて激しい攻撃なんだ……。

 流石は、ヤンデレ少女メリーさん。盛大に病んでいる。

 しかし、エレメンタルには、通じない。


 ナイフの嵐の中、安心して横を見る。

 するとそこには、銃剣を手にし、メリーさんの猛攻に身構える司祭様の姿が目に映った。

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