第67話 拝啓クソ兄貴様 働きやがれ、いやマジで②
『ああ、ちょっと金にルーズだけどそこがまた可愛いんだわ。それにさ、お金を援助して上げると『陽一さんといると落ち着く』とか『陽一さんは頑張ってて偉いよ!』とか言ってくれて、甲斐甲斐しく尽くしてくれるし、もう言う事なしよ』
い、一体なにを言っているんだ、このクズは……。
お金を援助?
借金こさえて返済すらできず実家に強制送還された無職が?
「へ、へえ、そうなの……。っていうか、お前、無職だったよね? お前のどこにお金を援助して上げる余裕なんてあるの?」
そう問いかけると、クソ兄貴はさも当然の様に笑う。
『うん? そんな事決まってるじゃん。借りたんだよ。消費者金融から借ーりーたーの。いや〜結婚するのにもお金が必要じゃん? 援助して上げる傍らで、今、彼女名義で共同口座作ったんだ〜。俺、結構しっかりしてるでしょ?』
「し、消費者金融から借りたぁ!?」
借金して彼女名義の共同口座に金ぶち込んだの!?
なに考えてんだこの馬鹿はっ!?
節操のなさになんだか頭がふらついてきた……。
『いや~、彼女が言う訳よ。結婚資金を貯めるため、共同口座を作りましょうって! ほら、俺って金にルーズじゃん? だから、彼女と一緒に作った彼女名義の共同口座にとりあえず二百万円ぶち込んだんだ~」
二百万円っ!?
ふざけんじゃ……。いや、そもそも、それって、騙されてるんじゃ……。
結婚詐欺……。いや、それとも今はやりの頂き女子か?
クズ・オブ・クズのクソ兄貴を引き取ってくれる天使どころか、とんでもない悪魔に魅入られてるじゃねーか!
彼女名義だよね、それっ!
共同口座に金を入れた以上、もう二度と戻ってこないよ。それっ!?
元々、クズで馬鹿な兄貴だったけと、これは酷い。あまりに酷すぎる。
クズで馬鹿な兄貴がただの大馬鹿野郎に超進化したのを目の当たりにした俺は、そっとスマホから耳を離し、宙を仰いだ。
宙を仰いでいる最中もずっと彼女とののろけ話がスマホから聞こえてくる。
『いや~、婚活パーティーで彼女から声をかけてきてくれてさぁ~。本当に可愛いのなんの! でも、家賃が払えなくて困ってたり、お金がなくてクレジットカードの引き落としができなくて困っているみたいなんだよね。俺も金が無くて困った事があるから他人事に聞こえなくてつい支援しちゃった。まあ、もう少ししたら結婚するし別にいいよね。って、あれ? 聞いてる?? おーい。どうした。俺の話聞こえてる?』
――よく聞こえているよ。
「……おい。クソ野郎。お前、マジでふざけんなよ? 誰が馬鹿みたいに築き上げたお前の借金完済してやったと思ってるんだ? 俺達だろうがよ! なのに性懲りも無く借金しやがって! つーか、お前のカード使えないよう切り刻んだよな? なんで借金できるんだよ! お前、とっくにブラックリスト乗ってるだろーがっ!」
一番の不思議はそこだ。
借金踏み倒しまくって利息すら払えなかった奴がなんで借金できるんだ?
ありえねーだろっ!
『えっ? 親父の名義で作ったからだけど?』
――ぶち殺すぞ?
何、勝手に父さん名義のカードローン申し込みしていやがるんだコイツ……。
「おい、手前……。その事を父さんは知っているんだろうな?」
言葉に殺意を込めてそう言うと、クソ兄貴は楽しそうに笑いながら弁明する。
『あはははっ! 面白い事を言うなっ! そんな事、言える訳ないじゃん。そんな事がバレたら俺、この家を追い出されちゃうよ~』
――いや、いますぐ追い出されろ!
一遍、金を稼ぐ事の大切さを覚えた方がいい。
つーか、働けぇぇぇぇ!
「お前、それ本気で言ってるの……? 例えば、お前が知らない内に、お前名義で勝手に借金作らされて、お前が支払う事になったらどう思うよ?」
『はっ? それって犯罪じゃん。なんで俺が勝手に作られた借金を払う必要があるんだ?』
――いや、手前がそれと同じ事をやってるからだよっ!
とりあえず、これは父さんに伝えておく必要があるな……。
その際、こんな馬鹿もう切り捨てろと言っておこう。扶養義務なんて知った事か!
「……おい、クズ。今、お前、どこにいる?」
このタイミングで電話してきたんだ。
どうせ実家にいないだろ。
『クズだなんて酷いなぁ。俺は今、池袋にいるよ。クズ友の工藤君に会いに来たんだけど知らない? お前に会いたいっていうから居場所教えてあげたんだけど、数日前から連絡がつかないんだよねー?』
――クズ友の工藤君っ!?
って事はお前かぁぁぁぁ!
俺が新橋にいる事を伝えたのはっ!
何勝手に俺の居場所をクズに教えていやがるんだっ!
その行動力をどうにかして仕事に結びつけろや馬鹿野郎っ!
しかし、そんな俺の思いも大馬鹿野郎に超進化したクズ兄貴には通じない。
『工藤の奴、まさか俺の事を差し置いて正社員にでもなったのかなぁ? でも流石にそれはないか。だってあいつ馬鹿だし……』
――いや、お前よりマシだよっ!
すまない工藤。俺、お前の事をクズ呼ばわりしていたけど、上には上がいたわ。
っていうか頂上だわ。頂上に君臨する大馬鹿野郎がスマホ越しに馬鹿ズラ下げてここにいたわ!
「……いまから会わないか? 俺、今、新橋にいるんだ」
『へえ、そっか。そう言えば、お前、新橋に住んでるんだっけ! 親父から聞いたわっ! お前も大変だな。なんでもブラック企業に勤めているんだろ?』
――ブラックな奴に寄生されるよりマシだよっ!
何回、心の中でツッコミを入れたのかわからないよっ!
もういい加減にしてっ!
「まあ、今は離職中だけどな……」
『はあ? お前、無職なの? おいおい、どうするんだよ。俺、来月結婚するんだよ? 結婚式にも金はかかるんだ。お前等のご祝儀宛にしてるんだからちゃんと働けよ』
――いや、お前にだけは言われたくねーよ!
つーか、なんで俺の周りにはこんな奴ばかりしかいないんだ。
まともな奴、プリーズ!
『あ~萎えたわ。金がない奴に会っても仕方ないし、どうしようかなぁ~。折角、金借りようと思ってたのに』
へえ、金が欲しいの……。
なら貸してやるよ。工藤より厳しい条件でなぁ……。
「……いいぜ、貸してやるよ。いくら貸して欲しいんだ?」
『おっ、マジでか! それじゃあ、とりあえず十万貸してくれよ! 振込先は……』
「振り込みなら貸さねーぞ。お前に一体いくら貸したと思ってるんだ。金を貸して欲しいなら直接だ……」
契約書に直接記入してもらわなきゃお前を地獄に叩き込めないだろうがよ。
「ええっ……。でもなぁ……」
こいつ……。
まあいい。それなら、俺に会いたくなるような条件を提示してやるまでだ。
「俺はお前の結婚祝いとして百万円用意するつもりだ」
『ひ、百万円……』
ああ、手切れ金としてな……。
電話口でクソ兄貴が震えてる。
俺も、お前と縁を切りたくて切りたくて震えてた。
どうせならその縁、お前を真っ当な方向に導いた上で切ってやるよ!
「……それと結婚式前にお前の結婚相手がどんな人なのか会ってみたいなぁ。会わせてくれるなら今日、その場で祝儀を渡すけど、どうする?」
クソ兄貴に寄生する寄生虫め……。
手を出す(寄生する)相手を間違えたな!
詐欺師が……。女だからといって手加減してもらえると思うなよ?
お前もクソ兄貴同様酷い目に遭ってもらうぜ。この豚野郎!
契約書に見えないくらい小さい文字で禁止項目書き込んでやるよ!
俺がそう言うとクソ兄貴は……。
「あ、ああっ! もちろん紹介しようと思っていたんだよ。なんと言っても、俺、自慢の弟だからね! それじゃあ、彼女に連絡とるから一時間後、池袋駅の東口集合でいいかな?」
「ああ、もちろん。それじゃあ、祝儀の用意してから向かうな」
そう言うと、クソ兄貴は狂喜乱舞する。
『おいおいおい! 本当か。マジで祝儀くれんの!?』
「ああ、当たり前だろ」
ただし、課金アイテム『契約書』という名の受領書にはサインしてもらうがな……。
これまで、お前が借金して、俺達を困らせた分についてはちゃんと返してもらうぜ! 利子付きでなぁ……。もちろん、工藤と違って、借金を返済した後もちゃんと真人間として働いて貰う。
工藤はどうでもいいが、お前の場合、借金を返済した途端、クズに逆戻りされても困るからな。
お前達には少なくとも俺が死ぬまで真人間でいて貰う。
真っ当に稼いで、真っ当な生活を送る。
クソ兄貴に寄生した女悪魔にも丁度いい罰だ。
俺の気持ちを一瞬どん底に陥れた悪魔め、クソ兄貴と強制的に結婚するという地獄をその身に味わうがいい!
幸いな事に、課金アイテム『契約書』ならそれができる。
百万円を餌にお前等の事を釣り上げてやる。一本釣りだ。
そして味わいな。誰を標的にした為、こんな目に遭っているのかを……。
お前の人生をすべてベットしてな……。
そう俺はほくそ笑む。
「……それじゃあ、一時間後、池袋駅の東口だな。宝くじ売場の前でいいか?」
『ああ、もちろん! 彼女と共にそこで待っているよ』
「わかった。それじゃあな!」
通話を切ると俺は笑みを浮かべる。
ふふふっ……。
最近、金の減り方がもの凄く速い気がしないでもないけど、たった百万円でクズ二匹を更生できるなら安いものだ。上手くいけば今後、クソ兄貴の扶養義務とか考えなくて済むし、両親の老後も安泰。
ギリギリ生活できる程度に飼い殺してやるよ。
こっちは数度、お前の借金を返済する為に大金を溝に捨てているんだ。
俺達が味わった苦しみの一部を人生をかけて味わうがいい。
良かったね。父さん、母さん。
クソ兄貴の代わりに立て替えた返ってくる当てのないお金が利子付きで戻ってくるよ!
ついでにクソ兄貴とその嫁のお蔭で、退職後の年金生活も安泰だよ!
クソ兄貴とその嫁が結婚する事で、ハイブリッドな子供ができるかもしれないけど、反面教師って言葉があるからね。以外とクソ兄貴の子供はまともになるかも。
安心して!
もしクソ兄貴みたいな子供になったら、俺がちゃんと契約書で縛って真人間になる手助けをしてあげるから!
そう決意した俺は、もう一度、図書館に入館し、課金アイテム『契約書』に罰則条項を一文字二ミリ位の大きさで書き込んでいく。
気付いている人がいるかもしれないけど、この課金アイテム『契約書』で大切な事は、本人が直筆で契約書にサインする事。
その為、偽名でサインされたとしてもまったく問題なく効果を発揮する。
そりゃあそうだよね。プレイヤー名と実名って違うし、それに課金アイテム『契約書』は、法的拘束力を持つものではない。
サインした者に定めた条項を強制執行する為の物だから……。
条項を書き終えた俺は、ニヤリと笑うとアイテムストレージにそれを納め、お金を引き下ろす為、みずほ銀行へと向かった。
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