第63話 フェニックスの炎は毛根を焼き尽くします。再生しません

『転移組』の副リーダー、ルートの提案を聞き考え込む。


 目の前にいるのは『転移組』。

 この世界に閉じ込められた事を喜ぶ気狂い集団且つ、この世界からの解放活動を盾に金品を強奪しようとする犯罪集団である。

 しかし、犯罪集団だけあって、その情報収集力は侮れない。


 こいつ等が掴んだ新しい世界の情報は手が喉から出るほど欲しい情報だ。

 何せ、その為だけにリアルマネーと交換で『ムーブ・ユグドラシル(制限なし)』を手に入れたのだから……。


 正直、『ムーブ・ユグドラシル』を手に入れたものの、新しい世界が開放される様子が全くない事にほんの少しだけ憤りを感じていた。


 金返せ、と……。


 しかし、『転移組』の話を聞く限り、ちゃんとした手順を踏めば、新しい世界を開放する事ができるらしい。

 まあ、まだ『らしい』程度で確信を持っている訳じゃないけど……。


 毒を食らわば皿までという言葉もある。話くらい聞いてみるか……。

 いざとなったら、帝国兵をも退けたエレメンタルの強大な力で『転移組』を解体に追い込んでやればいいし。


 男に視線を向けると、俺はコクリと頷く。


「……いいだろう。『転移組』のアジトに連れて行って貰おうか」

「物分かりがいいね。それじゃあ、俺に着いてきてくれ」


『転移組』のメンバーが雷の精霊ヴォルトに電気を流され気絶した男を担ぎ、俺の背後に着く。


「…………」


 不快な視線を感じるな、ちょっと油断したら背後から刺されそうだ。


「……フェニックス。こいつ等が変な動きをしたら、容赦なく毛根を死滅させてやれ。場合によっては股間を炭化させることも許す」


 俺の言葉を聞き、色めき立つエレメンタル達。反面、『転移組』のメンバーは俺から距離を取った。


「おやおや……。穏やかじゃないね。俺達に君を害する気はないよ? なあ、お前達……」

「あ、ああっ……」

「そ、そんな事する訳ないじゃないか……」


「そうか? なら別にいいが……」


 とはいえ、これから向かうのは敵地。

『転移組』を名乗る犯罪者集団の本丸である。いくら警戒しても足りない位だ。

 こういう場合、牽制の意味を込めて言葉で直接警告しておくに限る。


 この場の空気は最悪になってしまったが後悔はしていない。

 だって、現状、敵みたいなもんだし……。


「そうさ、ほら、ここが俺達のアジトだ」

「えっ? ここが??」


『転移組』の副リーダー、ルートに連れてこられた場所。

 そこは冷蔵庫組の下位組織である『地上げ屋本舗』から土地ごと建物の権利をぶん取った『微睡の宿』の地下一階だった。


 まさか、俺の経営する宿に犯罪者が集団で巣食っていたとは、よもやよもやである。


「よし。とりあえず、出て行ってくれ」

「はっ? いや、一体何を言って……」

「いや、ここは俺が経営する宿だから出て行ってくれ。今なら返金にも応じよう」


 犯罪者集団を泊める部屋はない。

 さっさと荷物を纏め出て行って欲しい。


「へえ、君がこの宿のオーナーだったんですか。それは丁度良い」

「はっ?」


 何を言ってるんだこいつ?

 人の話聞いてた?? 頭大丈夫?

 何が丁度良いのか、まったく以ってよく分からないんですけど!?


「確か、カケルさんでしたよね? あなたも俺達『転移組』のスポンサーになりませんか?」

「はあっ? 何を言っているんだ?」


 何を言い出すかと思えばスポンサーになれだぁ?

 なる訳ねーだろっ!

 スポンサーメリットが無さ過ぎるわ!


 誰にでも一目で分かる様に嫌そうな表情を浮かべる。

 しかし、『転移組』の副リーダー、ルートは諦めない。


「もちろん、スポンサーになって頂ければ、セントラル王国や冒険者協会、冷蔵庫組のように、様々なスポンサーメリットを提供いたしましょう」

「スポンサーメリット?」


 っていうか、セントラル王国と冒険者協会、冷蔵庫組。こいつ等のスポンサーになってるの?

 見る目があまりに無さ過ぎる。

 それに冷蔵庫組って、暴力団的な組織じゃなかったっけ?

 そんな組織とつるんでるとかヤバくない?


「ええ、スポンサーメリットです。我々のスポンサーになって頂き、資金と活動拠点を頂けるのであれば、それに見合う情報をあなたにお渡しいたしましょう」

「情報? 例えば?」

「例えばそうですね。新しい世界の情報なんてどうでしょう? ここまでついて来て下さったのです。興味があるのではありませんか?」


 確かに興味はある。

 というより、興味津々だ。

 しかし、いの一番にその情報を知りたいという程ではない。

 こいつ等が新しい世界への行き方を確立させれば、冒険者協会経由でその情報が入って来る筈だ。


「興味はあるが、待っていれば解決しそうだからな。時を待つさ。俺はそれで充分だ」

「なるほど、中々、手強いですね……」

「まどろっこしいですよ。ルートさん! こんな奴、最初から力ずくで……って、ぎゃー!!?」


 そう言った瞬間、火の精霊フェニックスが俺を害そうとしたモブキャラの頭上に現れる。


 馬鹿め。暴力をチラつかせば何とかなると思ったら大間違いなんだよ。

 宣言通り、火の上級精霊フェニックスは俺を害そうとしたモブキャラの頭を焼き毛根を死滅させる。


「あ、熱いっ……! も、もう止め……」


 突然頭が燃え上がった事に驚き、叫び声を上げるモブキャラ。


「よし。もういいぞ。フェニックス」


 俺がそういうとフェニックスは元の赤い玉に戻っていく。


「……仲間の一人が大変失礼致しました」


 ルートはアイテムストレージから初級回復薬を取り出すと、モブキャラの頭に振りかけ傷を癒していく。

 しかし、初級回復薬程度の回復力程度では頭に負った致命的なダメージは治せない。


「か、髪がっ……。俺の髪がぁぁぁぁああっ!?」


 モブキャラは頭を触ると、目を白黒させ、絶叫を上げて気絶する。


 フェニックスによる毛根死滅攻撃。

 効果は抜群のようだ。


「重ね重ね申し訳ありません。信じて頂けないかも知れませんが、我々にあなたと争う気は……」

「……とはいってもね。そう思っていない奴もいるみたいだよ? 俺をスポンサーにするのは諦めた方がいいんじゃない?」


 俺に恨めしそうな視線を向ける『転移組』の連中の顔を見ながらそう言うと、ルートは苦い表情を浮かべる。


「そう……ですね。仕方がありません。あなた達、カケルさんにそんな顔を向けるのは止めなさい」

「し、しかし、コイツは……」

「建設的な話し合いをする為に、彼をここに呼んだのです。にも拘らず、暴力で物事を解決しようとは、恥を知りなさい」

「…………っ!」


 ルートは『転移組』の連中に凍てつくような眼光を向ける。

 すると『転移組』の連中は、借りてきた猫の様に大人しくなってしまった。


 首にかけているランク証を見るに、ルートの冒険者ランクは『A』。

 オーディンによるレベル初期化騒動から二週間ちょっと……。

 課金アイテムとエレメンタルのお蔭でレベリングした俺とは違い、レベルやランクをそこまで上げるのは大変だった筈だ。


 腐っても『転移組』の副リーダー。

 取り巻きが馬鹿なだけで、それなりの実力は持っているらしい。

 まあ、それを纏めきれていない時点で底が知れてるけどね。


「話はお終いかな。それじゃあ……」


 とっとと、出て行ってくれる?

 そう言おうとすると、ルートが話しを被せてきた。


「……セントラル王国の上級ダンジョン『デザートクレードル』、リージョン帝国の上級ダンジョン『ドラゴンクレイ』、ミズガルズ聖国の上級ダンジョン『アイスアビス』。この三つの上級ダンジョンを攻略すると現れる特別ダンジョン『ユミル』を攻略する事で、転移門『ユグドラシル』に新しい世界『スヴァルトアールヴヘイム』への道が開かれる……と言われております」

「……教えてくれるのはありがたいが、何が目的だ?」

「私の仲間が失礼な真似をしましたからね。そのお詫びです」


 いや、お前も冒険者協会で十分失礼な真似してたから……。エレメンタルを一体くれよと言った件、忘れてないからね?


「……それにこの情報は冒険者協会から発表される予定のもの……。カケルさん。あなたは北欧神話をご存知ですか?」


 うん?

 北欧神話??


「まあ、知ってるけど……」


 なぜならDWの世界は北欧神話における『九つの世界』が舞台となっている。

 その辺りの情報はウィキペディアで検索済だ。


「それなら、話が早い。我々はこの世界が北欧神話になぞられ作られたものだと仮定し情報収集に徹しました。その結果、この世界はオーディン達によって惨殺された原初の巨人ユミルの血肉により創造されたものである事が判明したのです」


 ふむ。なるほど、そこまで詳しく読み込んでいなかったからルートが何を言いたいのかがわからない。とりあえず、知った被っておこう。


「うん。それで?」


 俺は腕を組むと、全て理解しているといった表情を浮かべる。


「ユミルの肉は大地を作り、流れた血は海となりました。大きな骨は山となり、歯と顎と砕けた骨から大小の石を、髪の毛から木や草が作られ、頭蓋骨は天となり、脳味噌は雲に、まつ毛は人間の国ミズガルズを護る為の柵となったと言われています。ここまで言えば、何が言いたいのかわかりますね?」

「…………」


 ……いや、全然、分かりませんけれども?


『だからなに?』といった感じである。

 しかし、あえて口には出さない。


「なるほど、鍵はミズガルズにあるとそういう事か……」


 適当にそう言うと、ルートが静かに頷く。


「ええ、その通りです。入念な調査の結果、新しい世界を解放する為にはミズガルズを護る柵を壊す必要がある事がわかりました。それがある場所が特別ダンジョン『ユミル』なのです」


 うーん。わからん。

 人間の世界『ミズガルズ』は原初の巨人ユミルのまつ毛でできた柵に覆われている。

 外に出る為には一度、その柵を壊さなければならないとそういう事だろうか?

 それはそれで、柵を外した瞬間、何か問題が起きるような気がしないでもないけど……。


 とりあえず「……なるほど」とだけ言っておく。


「国や冒険者協会の協力があるとはいえ、上級ダンジョンを攻略するには、金や物資、人材が必要です。カケルさんもスポンサーの一人として協力して頂きたかったのですが仕方がありません。今日の所は諦めると致しましょう」

「ああ、ついでにここから出て行ってくれ」


 俺がそう言うとルートは苦笑いを浮かべた。

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