第25話 やられたらやり返す! 倍返しだ!②

「あ、あなたっ、それを寄越しなさ……。う、うぐっ……」


 くくくっ……。

 リフリ・ジレイター。お前は本当に欲しがりさんだな……。

 俺が取り出したオマルに熱い視線を向けて……。そんなにオマルが欲しいのかい?


 これ見よがしにオマルをチラつかせていると、リフリ・ジレイターは怒りと苦悶の表情を浮かべた。

 器用な表情の浮かべ方だ。

 しかし、もう。話す余裕もないらしい。

 プルプル震えながら悶絶している。

 いいザマである。


「さて、これで俺の気持ち。わかってくれたかな?」


 スタンガンで顔をウリウリすると、リフリ・ジレイターが歯を食い縛る。

 顔が真っ赤だ。

 ヤバいな。もうそろそろ肛門括約筋が決壊しそうだ。


 流石はモンスター用の下剤だ。効きが早い。

 馬車の振動と下剤の相乗効果で、リフリ・ジレイターの腹にダイレクトアタックを与え続けているのだろう。


 それはさながら永続トラップ『馬車の振動』。

 腹痛に苦しむ者に振動を与え続ける地獄の様な永続トラップだ。

 高橋翔はリフリ・ジレイターの肛門括約筋にダイレクトアタック!

 そんな気分である。


 俺は箱檻の鍵を開けると、リフリ・ジレイターに顔を向ける。


「じゃあな、リフリ・ジレイター。市中引き回しの刑頑張ってくれよ。アディオス!」

「ま、待ちなさ……。ふぐうううううっ!!?」


 親指を立てて、箱罠から飛び降りると同時に、リフリ・ジレイターから腹の内容物がぶち撒けられる。そんな音がした。


「汚ねえ花火だぜ」


 勿論、言ってみたかっただけだ。実際に汚いし……。

 リフリ・ジレイターの奴。折角、オマルを用意してやったと言うのに使わなかったらしい。

 まあ、縛られた状態で使う事ができたら、それはそれで凄い事だ。


 まあオマルを使えても、お前の汚ねえケツを拭く紙はないけどね。


 まああれだけ恥をかかせてやれば、もう二度と絡んでこないだろう。

 もし、また絡んでくる様なら、もうワンテイク行くまでだ。

 俺に絡みたくなくなるまで、何テイクでも付き合ってやる。

 その度に汚い花火を打ち続ける事になるが、それでも構わないというのであれば何度でも絡んでくるがいい。


 野太い声を上げるリフリ・ジレイターを乗せた馬車を後目に、俺は宿に向かった。


 ◇◆◇


『ぐ、ぐう、うおぉぉぉぉ! ビーツにクレソンは何をやっているのですかああああ!』


 馬車の荷台に設置された箱罠で叫び声を上げるリフリ・ジレイター。

 御者台に乗り、馬車の運転をしているビーツは怪訝な表情を浮かべた。


「うん……。おかしいな?」


 馬車の荷台からリフリ・ジレイター様の声が聞こえた様な気がする。


 いや、気のせいか……。


 リフリ・ジレイター様の乗る馬車は前を走っている。箱罠にはクレソンが乗っているし、大方、あのモブフェン野郎が叫び声を上げているのだろう。


 それにしても品のない叫び声だ。

 冷凍庫組に喧嘩を売るからそうなる。

 全く馬鹿な男だ。


 背後から聞こえてくる叫び声に耳を傾ける事なく馬車を走らせる。

 すると、暫くして冷蔵庫組本部が見えてきた。

 馬車を停めると御者台から降りて荷台に視線を向ける。


「クレソン。本部に着いたぞ。そこまでにしてお……けえ?」


 するとそこには、とても形容する事のできない姿となったリフリ・ジレイター様がいた。

 慌てて近寄ろうとするも、悪臭が立ち込めており近寄る事ができない。


「うっ……。くさっ!?」


 思わず、声に出してそう言うと、思いきりリフリ・ジレイター様に睨み付けられてしまう。


「ビーツさん? あなた、今、私に向かって何と言ったのですか?」


 拙い。私の余計な一言に。

 リフリ・ジレイター様がお怒りだ。

 な、何とか諫めなければ……。


「い、いえ、違うのです!? く、草木を腐らせた腐葉土の様に熟成された香しい匂いがしたなと……」

「そんな恥ずかしい弁解はいらないのよ!! さっさと私を解放しなさい! シャワーと服の準備もよ! ううっ……。恥ずかしくて、もう歩けないわ! 美容整形の予約も入れておいて!」

「い、いえ、ですが……」

「私は早くしてと言っているのよ!」

「は、はい! 承知しました!」


 い、一体何が……。何が起こっているんだ……。あのモブフェン野郎はどこに?

 何故、リフリ・ジレイター様があの様な姿に……。

 それでは、前を走っていた馬車には誰が乗っているんだ?


 リフリ・ジレイター様を縛っていた縄を解き、馬車に視線を向けると、そこには股間を抑え悶絶するクレソンの姿があった。


 ク、クレソォォォォン!?

 お、お前、何やってんの!?

 っていうか、いつの間に前の馬車に??

 どういう事っ!?


「ビ、ビーツ……。あのモブフェン野郎は危険だ……。リフリ・ジレイター様はどちらに……」


 股間を抑えながら地面に這いつくばり悶絶するクレソン。

 心なしか、クレソンの目に恐怖が入り混じっている気がする。

 手になにかを持っているようだが、あれは……。


「……私はここですよ。クレソンさん。その手に持っている物は一体何です?」


 リフリ・ジレイター様が歩く度に、悪臭を放ちながら汚物が地面にポタポタと垂れる。

 思わず、私は渋面を浮かべた。

 しかし、渋面を浮かべた瞬間、リフリ・ジレイター様に睨み付けられてしまう。

 すぐさま、にこやかな笑みを浮かべると、リフリ・ジレイター様はクレソンが手に持っていた物を拾い上げる。


「こ、これは……。なるほど、そういう事でしたか……。クレソンさん。あなた、これを握り潰しながら私の名前を言いましたね?」

「え、ええっ、その通りです……」


 すると、リフリ・ジレイター様が鬼の様な形相を浮かべる。


「ふふふっ……。まさか、クレソンさんと私の位置を入れ替える為だけに、こんな高額なアイテムを使うとはね。初めてですよ……。こんな高額なアイテムを嫌がらせする為だけに使うお馬鹿さんは……」

「そ、それはどういう……。うっ!?」


 リフリ・ジレイター様の臭気に鼻が曲がりそうだ。


「あなたもしつこいですね……。そんなに私の事を怒らせたいのですか? まあいいでしょう。クレソンさんが使用したアイテムは、『スワップ・プレイス』と呼ばれる位置を入れ替えるだけの大変高価なアイテム……。いえ、消耗品です。恐らく、あの男はクレソンさんにこの『スワップ・プレイス』を渡し、私の名前を無理矢理言わせたのでしょう……。ふふふっ、この私に攻撃し、あまつさえ内容物塗れにするなんて、こんな屈辱初めてですよ。あの……クソ野郎ぉぉぉぉ! 絶対許さないからなぁぁぁぁ! この私を怒らせて平穏な暮らしが送れると思うんじゃねぇぞ! 絶対にぶち殺してくれる!」

「ぎゃんっ!?」


 リフリ・ジレイター様が叫び声を上げながらクレソンの股間を蹴り上げると、クレソンは泡を噴いて崩れ落ちる。


 お、恐ろしい……。

 股間に重傷を負っているクレソンを蹴り上げるなんて……。

 既に男としての人生を失ったも同然なのに平然と追い打ちをかける事ができるとは、流石はリフリ・ジレイター様だ。


「さあ、そんなゴミは置いておいて行きますよ。臭いが酷くて堪りません!」

「は、はい! すぐに準備致します!」


 私は泡を噴いて倒れているクレソンを放置すると、これ以上、リフリ・ジレイター様の機嫌を損ねないようシャワーと服の準備をし、その後、美容整形の予約を入れる。


「ビーツさん! この服は処分しておいて! あと、私が歩いた場所の清掃よ! 私がシャワーから上がる前にやっておいてよね!」

「は、はい! 今すぐに!」


 冷蔵庫組の本部に着いてやった事。

 それは内容物塗れとなった組の掃除だった。


 くそっ!

 何で冷蔵庫組のエリートである私がこんな事を……。

 これも全て、リフリ・ジレイター様を内容物塗れにしたモブフェン野郎のせいだ!

 絶対に許さない。


 私は怒りの炎を目に宿すと、リフリ・ジレイター様の内容物に塗れた廊下の拭き掃除を始めた。


 ◇◆◇


「……そうか。それは良かった」


 宿に戻った俺は、従業員達に聞き取り調査を行い、リフリ・ジレイター達に何かされていないか話を聞いていく。

 話を聞いた限り、リフリ・ジレイター達はこの宿に悪さをする事はなかったようだ。

『地上げ屋本舗』の様に、宿に火をつけるようであれば、俺自ら冷蔵庫組を潰しに行かなければならない所だった。

 完全に潰す事はできないかも知れないが、嫌がらせだけはしてやろうと思っている。


 まあ、あいつ等は俺の事を探していたみたいだし、元々、この宿を取り戻そうとしていたから手荒い事をすることはなかったのだろう。


 まあ、あれだけ酷い目に遭わせてやったのだから、もう絡んでくる事はないと思いたい。

 とりあえず、何かしら対策を打たないといけない。

 いっその事、冒険者協会に宿の警備でも頼もうかな?


 その方が良さそうだ。

 金で解決できることは金で解決するべきだ。

 この宿に過度な利益は求めていない。

 潰れない程度に経営してくれれば十分だ。

 よし。決めた!

 冒険者に宿の警備を頼もう!


 そう考えた俺は、早速、冒険者協会へと向かった。


「さてと……」


 冒険者協会に辿り着いた俺は、早速、宿の警備を依頼する事にした。

 冷蔵庫組の奴等を追い払うには、最低でも、Cランクの力が必要だろう。

 勿論、実際にやり合ってみて感じた俺の所感である。

 しかし、Cランクが宿の警備依頼を受けてくれるだろうか?


 一抹の不安を覚えながら受付で依頼をかけると、受付嬢が首を振る。


「申し訳ございません。現在、ご紹介する事のできる冒険者はおりません」

「ええっ! なんでですか!?」


 冒険者協会併設の酒場に冒険者達が大勢いますけど!?


 すると、受付嬢は申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「じ、実は今、ランクに合わないレベルの方が続出しておりまして……。現在、冒険者協会ではランク制度の運用見直しを含め、協議中なのです。その為、暫くの間、冒険者協会から冒険者の斡旋及び派遣は控えさせて頂いております」

「な、なん、だと……」


 レベル一のSランク冒険者急増の余波がこんな所に……。


 いや、言われてみれば当たり前か。

 冒険者協会としても、実力の伴わない冒険者を斡旋したり派遣する事はできない。

 実力の伴わない冒険者を派遣した結果、依頼を失敗しましたでは冒険者協会の名誉が毀損してしまう。


 しかし、困ったな……。

 完全に想定外だ。


「おや? お前、カケルじゃないか?」

「うん?」


 背後から声をかけられ顔を向けると、そこには筋骨隆々の逞しい体躯に、日焼けサロンで焼いたかのような鮮やかな黒い肌が特徴的な魔法使い、カイルが佇んでいた。

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