第10話 課金アイテム(無料で)ゲットだぜ!

 マイルーム。

 それは転移門『ユグドラシル』から入る事のできるプレイヤー一人一人に割り当てられた部屋の事だ。


 マイルームに入る為には、利用期限付きの課金アイテム『マイルーム利用権』または、『ムーブ・ユグドラシル』が必要となる。


 マイルームには、普通に入る事ができた。

 カイルがマイルームに入れなかった理由。それはカイルの持つ課金アイテムの利用期限が切れていたか、または、『ムーブ・ユグドラシル』を持っていなかったかのどちらかだろう。


 マイルームに転移した俺は早速、マイルーム内に置かれた端末に触れ、『倉庫メニュー』内を確認していく。


「よし。取り敢えず、倉庫内のアイテムは無事のようだな……」


 しかし、楽観視できない。

 この世界が現実となった今、いつマイルームが使えなくなったとしてもおかしくない。


 今の内に、倉庫にあるアイテムを、アイテムストレージに移動させないと……。


 いままでは倉庫にアイテムを預ければ良かった為、アイテムストレージを最低限しか拡張してこなかった。


 しかし、これから先は話が別だ。

 マイルームが突然、使えなくなってしまう前に、至急、アイテムストレージを拡張する必要がある。


「うん? これは……」


 こんなアイテムあったか?

 それにこのアイテム量。異様に多いような気が……。

 まあいいか。

 折角、アイテムがあるんだ。

 使わなきゃ勿体ない。


 倉庫内から『アイテムストレージ拡張+50』を取り出すと早速、使用する事にした。

『アイテムストレージ拡張+50』は、アイテムストレージ内の容量を50拡張する課金アイテムだ。

 購入した覚えのない課金アイテムが、何故、この倉庫に格納されているかはわからないが、今は非常時。活用させて貰おう。


 倉庫内に格納されていた『アイテムストレージ拡張+50』は百個が百セットで一万個。


『アイテムストレージ拡張+50』は、リアルマネー換算で一個当たり五百円だから倉庫内に約五百万円相当の拡張アイテムが入っていた事になる。

 しかも、このアイテムストレージは、同一のアイテムであれば、一つの枠で99個まで入れる事ができる。


 早速、『アイテムストレージ拡張+50』をタップすると使用する数を選択し、『アイテムを使用する』をタップした。


 すると、淡い蒼色のエフェクトが発生する。


「これで上手くいったのかな?」


 アイテムストレージを確認すると、今、使用した課金アイテム分、ストレージ容量が増えていた。

 約五十万近くのストレージ容量増加に思わず感嘆の声をあげる。


「おお、流石は課金アイテム。凄いな……」


 アイテムストレージを拡張するだけの為に、リアルマネーで五百万円かける奴なんて、そうはいない。


「さて、他にもあるかな?」


 購入した覚えのない課金アイテムが他にないか確認すると、あるわあるわ、一般人では課金を躊躇うようなアイテムが色々でてきた。


 エレメンタル獲得チケット

 エレメンタル強化チケット

 レアドロップ倍率+500%(二十四時間)

 獲得経験値+500%(二十四時間)

 モンスターリスポーン(六十分)

 ブースターパック

 プレミアムパック

 スケープゴート


 どれも普通に購入しようと思えば、課金アイテム一つにつき千円はかかるものばかり、当然、購入した覚えはない。


「おっ、エレメンタル獲得チケットがあるじゃないか」


 エレメンタル獲得チケット、それは、プレイヤーをサポートしてくれるそれぞれの元素を司る精霊を獲得する為の課金アイテム。

 エレメンタルはモンスターからの攻撃を防いでくれたり、一緒になってモンスターを攻撃してくれる頼もしい存在。


 課金しないと手に入れる事ができなかったし、特に必要としていなかった為、今まで購入を控えていたが、折角、目の前にあるのだから使ってみるとしよう。


『エレメンタル獲得チケット』をタップすると使用する数を選択し、『アイテムを使用する』をタップした。


 すると、目の前に四体のエレメンタルが現れる。


 現れたエレメンタルは、地の精霊ノーム、水の精霊ウンディーネ、風の精霊シルフ、そして火の精霊サラマンダー。


 どの精霊も獲得したばかりなので、まだ小さく弱弱しい。

 淡い光の玉が四つふよふよと浮いているだけの状態だ。


「これが、エレメンタルか……よし。次に……」


『エレメンタル強化チケット』をタップすると使用する数を選択し、『アイテムを使用する』をタップした。


 すると、淡い光の玉がはっきりとした色を持つ。

 四つの光の玉が、俺の周りを一周すると肩の辺りで留まった。


 試しにマイルームの中を歩いてみると、エレメンタル達が一定の距離を保ちながらついてくる。


「よし。折角だし、レベル上げを兼ねてダンジョンに行ってみるかな。エレメンタルの力も見たいし……さて、倉庫にあるアイテムをすべてアイテムストレージに格納するか」


 倉庫内にあるアイテムをすべてアイテムストレージに移し替えた俺は、『ムーブ・ユグドラシル』の力を使い、マイルームから初級ダンジョン『スリーピングフォレスト』に転移した。


 転移してすぐ、俺は課金アイテム『レアドロップ倍率+500%』『獲得経験値+500%』『ブースターパック』を使用する。


『レアドロップ倍率+500%』はその名の通り、レアアイテムが出やすくなる課金アイテムだ。『獲得経験値+500%』もその名の通り、モンスターを倒した時の獲得経験値が五倍になる課金アイテム。そして『ブースターパック』は二十四時間ステータスが倍増する課金アイテムである。


 DWが現実になった以上、この世界での死はゲームの中のプレイヤーの死に留まらない。モンスターに倒されれば、その時点でジ・エンド。本当の意味で死んでしまう。


 俺は油断なく『モブ・フェンリルバズーカ』を構えると、マップを表示し、森林の中を進んでいく。

 森林の中を進んでいくと、マップに四体のフォレストウルフが表示される。


「フォレストウルフか……」


 フォレストウルフはアイテムをドロップしない狼をモチーフにしたモンスター。

 しかし、その反面。倒した時の経験値は良く。ピンチになると遠吠えを上げ、近くにいるモンスターを呼び寄せる習性を持つモンスターだ。


 レベルが初期化されてしまったいま、こいつの経験値はありがたい。


 フォレストウルフに見つかるようワザと茂みから姿を見せると、数秒して、フォレストウルフが俺の存在に気付く。

 普段であれば草陰にでも隠れてモブ・フェンリルバズーカの一撃で倒すモンスターではあるが、フォレストウルフの『遠吠え』はプレイヤーである俺の事を認識していないと、遠吠えしてくれない。


「よし! こっちに来い!」


 モブ・フェンリルバズーカでは、一撃でフォレストウルフのHPを消し飛ばしてしまう。ここは、エレメンタルの力を試す場面だ。


「よし、エレメンタル! 頼んだぞ!」


 フォレストウルフが俺に向けて走り出そうとしたその刹那、赤い光の玉から熱線が放たれ、フォレストウルフを一撃で焼き尽くした。


「……はっ?」


 あまりに強力なエレメンタルの攻撃に唖然とした表情を浮かべていると、他のエレメンタル達もフォレストウルフに向けて攻撃を始めた。


 突然、土の光の玉が輝いたかと思えば、フォレストウルフの足下で地割れが起こり、フォレストウルフを飲み込み消えてしまう。

 青い光の玉から、水流が逆巻いたかと思えば、それはまるでウォータージェットカッターのような切れ味でフォレストウルフを真っ二つにし、緑の光の玉から風が放たれたかと思えば、フォレストウルフをそのままズタズタに切り裂いた。

 フォレストウルフ達は悲鳴を上げる事なくそのまま黒い塵が溶けるように消えていった。


 あまりに強力なエレメンタルの力に、茫然と立ち尽くす。


「こ、こんなに強かったのか……」


 正直、エレメンタルがこんなに強い力を持っているとは知らなかった。

 メニューバーを開き、『エレメンタル情報』を確認すると、支援レベルがすべてMAXになっている。


 流石は課金アイテムの『エレメンタル強化チケット』。

 リアルマネー換算で数百万円分の課金アイテムをたった四体のエレメンタルに使っただけの事はある。


 まあ、俺、購入した覚えなんてないんだけどね!


 しかし、困った。これでは、効率的な経験値稼ぎができない。

 どうしたものかと悩んでいると、アイテムストレージに『モンスターリスポーン(六十分)』というアイテムを使用した半径五十メートル内に、六十分間、モンスターがリスポーンし続ける課金アイテムがある事を思い出した。


 この課金アイテム『モンスターリスポーン』は、レベリングをする為に使われたり、『レアドロップ倍率+500%』でレアアイテムを手に入れたい時に使われるものだ。


 レベルが初期化されているとはいえ、課金して手に入れた『モブ・フェンリルシリーズ』の装備があるし、支援レベルMAXのエレメンタルも四体ついている。


 まあ、大丈夫だろう。


 アイテムストレージから『モンスターリスポーン』を選択すると、俺は『使用する』をタップする。

 すると、俺を起点として地面が円形に赤く染まり、次々とモンスターが湧いてきた。


 オラウータンをモチーフとしたモンスター『モブ・ウータン』やその進化形の『ウータン』、DWのマスコット的存在『モブ・フェンリル』やハゲタカをモチーフにしたモンスター『ファングバルチャー』、フォレストウルフやアルマジロをモチーフにしたモンスター『アル・マジロー』と、このダンジョンに出てくるモンスターが次々と湧いては、エレメンタルに屠られていく。


 その度に俺の身体から緑色のエフェクトが立ち上がった。


 流石は課金アイテムで色々とブーストしているだけの事はある。


「さてと……俺に出番は、ないな」


 エレメンタルだけでなんとかなってしまいそうな勢いだ。

 エレメンタルにモンスターの迎撃を任せ、俺は地面に落ちているドロップアイテムの回収をする事にした。


 初級回復薬に中級回復薬、上級回復薬までっ!?


 流石は課金アイテム『レアドロップ倍率+500%』と『モンスターリスポーン』の合わせ技。普通の周回ではこうはいかない。


 モンスター達が絶叫を上げる中、安全にドロップアイテムを回収していく俺。

 一時間後、気付けば三十レベルまで到達していた。

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