散開
次の日、来夢が学校に着くと教室がいつもよりも騒がしかった。
教室中で男子たちがいくつかの塊を作ってガヤガヤと話している。
自分の席について「何かあったの?」と隣の女子に聞いたら「え、し、知らない。男子に聞いて」となんだか曖昧に返されてしまった。
仕方なく1番近くの男子たちに「どうしたの?」と聞きに行く。
「お、花澤!まだ聞いてねえの?」
「なになに」
「隣のクラスの前田、花びら7枚になったらしいぞ!」
「えっ」
それに続く言葉はしばらく出なかった。それほど驚きの感情が勝った。
「…それって」
「シたんだってさ、マジだぞさっき見せて貰った」
シた。
すなわちそれは男性と女性とがまぐわったことを意味している。
カプセルに入ったその花は女性と性行為をすると一枚花びらを散らすのだ。
それこそが榊原教授の発明だった。
元々それは榊原教授が自分の夫に不倫をされたことがきっかけで、こんな思いをする女性を1人でも救いたいという榊原氏の願いから作られたものだ。
日本一成長の早いと言われている植物に、赤ちゃんとお母さんとを繋ぐへその緒を流れる血に存在する幹細胞という特殊な細胞を埋め込むことで創造されたその発明品は、異常なほどの生命力を持っていて、一度その花を咲かせさえすれば一生、いやその人の生涯が終わろうとも花が枯れることはないのだった。
葉をちぎり取ったって、花びらをむしり取ったって、何度だろうが強靭に根を下ろし、凛としてその花びらを咲き誇らせる。
そんな花びらが散る時、それは女性とのまぐわいを持った時、ただその時だけだ。
人種差もなく、個体差もなく8枚の花びらを開かせるその植物は、女性と関係を持つ度にその美しい花びらを一枚づつ散らしていくのだ。
何でも男性器と女性器から分泌される成分同士がなんらかの化学反応を起こすことで花びらを散らしてしまうと授業で説明された。
ただし、一度関係を持った人は、細胞がそれを記憶し、認識するため、それ以後は同じ人と何度関係を持とうとも、花びらは減らないらしい。だが一度減った花びらは永遠にと戻ることはないということだ。
詳しい仕組みについて理解していたのは榊原教授ただ1人だったので、なぜそう言うことが起きるのかわかるものは、もはやこの世界の何処にもいない。
何にせよ交際開始後でも結婚後でも、新たにその花びらを散らすようなことがあればその男性の浮気、不倫が発覚してしまうということである。
世の妻帯者や彼女持ちの男性はこの花によって自動的に監視されるようになっているのだ。そういう意味では榊原教授の願いは達成されたと言えよう。
それ以外だって例えば、交際相手を選ぶときにも確認されたりするようだ。
今まで自分の前にどれほどの相手と交際してきたのかなど知りたい女性もいるのだろう。
特に結婚相談所などでは登録する時には絶対に書く必要があって、意外にもと言うべきか8枚や7枚残っている男性の方が人気らしい。女性が結婚相手には誠実さや真摯さを求めていると言うことだろうか。
何にせよ、カプセルに入ったその植物は人々の、特に男性の人生においてはとてつもなく大きな影響を及ぼしていた。
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