ショートショート製作所
武田伸玄
壺を売る老人
時はいにしえの頃。
とある国のとある町に道端で壺を売る一人の老人がおったそうな。
人通りの多いストリートの端に薄汚い布を敷いてそこに壺を並べ、
道行く人に「壺はいりませんか」と声をかける。
しかし、老人の売る壺はあまりにみすぼらしく買い求める者は誰一人いない。
そんな折、老人の目の前を一人の大物が通りかかった。
老人は相手が誰であろうとお構いなしに声をかける。
「あのぅ、壺はいりませんか」
すると、目の前の大物は老人を見てから壺に目をやる。
その男はふん、と鼻で笑って見せた。
「こんな小さくてみすぼらしい壺を誰が買うか。
それより、この私を誰だと思っている?」
目の前の大柄な男が言う。
私はこの国で一二を争う豪商だと。
「そんなみすぼらしい壺に入れたらわしの宝物が台無しになるわ!」
そんな壺に入れるようなものはない、と老人の壺を散々にいう豪商だが
このころからすでに老人の罠にかかっていた。
「では試しにあなた様の金貨を1枚、私の壺に入れてみてください」
老人の言葉に豪商は(もし金貨を入れて何も起こらなかったら分かっているよな)
と思いつつも金貨を一枚取り出して老人の差し出す壺に入れてみる。
すると、老人は金貨の入った壺を自分の傍らに置き、こう言った。
「これでこの金貨は私のものですな」
「な、なぬ・・・!」
これに豪商は頭に血が上りかけたが、老人がすかさず一言。
「こういう旨味があるからこの仕事は飽きないのです」
老人が商いと飽きないをかけてみせると、それに気づいた豪商は
一転して笑い出す。
わっはっはっはっは!!
笑い出したらもう止まらない。
そう、豪商は笑いのツボに入ってしまったのである。
その後、豪商は金貨を2枚、老人に渡した。
豪商曰く、感激したからだという。
笑いで対価を得る、これもまた商いの一つなのかもしれない。
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