私の青春。 ースターチス

2020年3月、たった一つのウイルスによって世界は一変した。

こんなフレーズを最近よく聞く。

でも私の世界は大して変わらなかった。大学の授業がオンラインになった。地元に帰れなくなった。時短営業によってバイトのシフトが少なくなり給料が減った。その程度。

もともと読書が趣味で休みの日も家の中で過ごすことが多かった私にはそんなに苦ではなかった。地元に帰れないのは寂しいし、給料が減ったのはちょっと、いやだいぶ痛いけれど。

どちらにせよ世界が一変するほど困ったことではなかった。

そんなふうにのんびりと自宅で半分ニートのような生活を送って約1年。外に出るときはマスクをつけるのが当たり前になった、まだ寒いころ。

私の世界は一変した。

バイトに行く途中、ふと開いたスマホに1通のメール。

それは大好きなアーティストからの解散報告の動画だった。

頭が真っ白になって、私の世界から音が消えた。

スマホの中では大好きな人たちが話しているはずなのに何も聞こえない。

回らない頭を必死に回転させて、私は友人に電話を掛けた。大好きな人たちがつないでくれた親友に。

親友もまた動画を見たところだった。

私はその日、初めてバイトに遅刻した。

30分遅れで出勤した私は、グラス2つとお皿1枚を割り、怒られるどころか心配されて、早退させられた。

解散までに残された期間は7か月半。

とりあえず翌日、最後のライブにデビュー月の誕生石であるブルートパーズついたピアスをつけていくためにピアスを開けた。その足でバイトもやめた。

7か月半、大好きな人たちにだけ捧げるために。


と、ここまでが春の兆しが見えてきたころのお話。


そして私は今、ラストの日まで残り5日、この話を紡いでいる。

これは小説ではない。私の記録だ。

あれからラストシングルを買って、ロケ地巡りをして、鑑賞会をして、最初で最後のライブに行って、ただひたすら大好きな人たちを追いかけ続けた。

大好きな人の誕生日に友人とケーキを食べたこと、ロケ地で同じ構図で写真を撮ったこと、ラジオを聴いて号泣したこと、いつも通りのくだらないやり取りで笑わせてもらったこと、ライブのために徹夜して団扇を作ったこと、語りだしたらきりがない。もちろんライブにはブルートパーズのピアスをつけていった。

あの春、私はラストの日にどんなことを思うのだろうと考えていた。正直実感はまだない。最後の音楽番組も、最後のテレビ出演も終わった今でさえも。

私はあの日と同じようにラストの日にどんなことを思うのだろうと考えている。

ただ、今、確かに言えることがある。


私はいい人たちを好きになった。

これからも残してもらったものを心に。

中学生から大学生まで、私の青春。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る