ひと粒だけ食べることを許される日。
ももいくれあ
第1話
ワタシはよく発熱する子どもだった。
風邪はほとんど一年中ひいていた。くらいだ。
長ズボンで学校に行く事を許してしてもらうために連絡帳にそのお願い事を書いて、それを見た先生がハンコを押した。
風邪の時の飲み薬は、ほんとに小さい時はとってもとっても甘いピンクのモノ。それはとても小さなプラスチック容器にほんの数ミリ、少しずつ飲んでいった。
幼稚園に行く頃にはオレンジ色のモノ。少し大きなプラスチックボトルに入った飲み薬に変わっていた。飲む量も自ずと増えた。ただ、甘さはやっぱり甘くて、でもちょっとだけほろ苦くなっていた気がした。
小学校に入る頃には顆粒や、錠剤、カプセルなどなど、飲む量や種類もかなり豊富になっていた。顆粒にはオブラートを使った。それは不思議な薄い包みモノだった。一切の苦さを封じ込めてくれた。錠剤は飲める時期と飲めなくなる時期があった。なので飲めなくなった時期にはバナナの中にこっそりそれを忍ばせて、ムリヤリバナナ丸ごと飲み込んでいた。最難関はやっぱりカプセル。大人の飲みモノだった。それは大きくてとても飲めなかった。
ある時、そうだ。カプセルを割って粉にすれば飲めるかもと思い、カプセルを必死で割って飲んでみた。うえっ。と吐き出した。オブラートにも包まずに大人ぶったその行為はあまりにも愚かだった。そのあまりの苦さに、その味に、なぜカプセルになっているのか。これはそのままでは飲めないからだ。と子どもながらに思ったが、今でもそう確信していた。
そんなワタシのお薬との付き合いは、飲み薬だけではない。
ラジオ体操に行っては、ブヨや得体の知れない生き物に噛まれ、赤紫色に腫れ上がった太もも。刺された部分は固く黄色い液のようなモノが出ていて、とにかく痛くて、熱かった。ほんとうに痛い。さらに、もれなく蜂にも刺された。そんなわけで、ありとあらゆる湿布や塗り薬や、炎症剤などを処方されたのだった。
そんな薬は嫌いで、でも薬に好かれていたワタシにも、唯一の楽しみがあった。
それが、小学校で年に一度配られる魔法のゼリー。栄養化がスバラシク高く甘くて美味しい魅惑のゼリーだった。
一年生の時初めて出会ったその魔法のゼリーのトリコになった。
二年生で、1日に決められた容量を守れるかどうか。必死の思いで注意書きに書かれているその適用量を守ることと真剣に戦い。
三年目のその日、とうとうワタシは悪魔の囁きに心かたむけてしまった。
ランドセルをカタカタさせ、缶に入ったその魅惑のゼリーを学校から持ち帰ったワタシは、ふたを開けると、一気に口一杯にほおばった。いったいどれだけの時間が経ち、どれだけ食べたのかも分からなかった。寝てしまったのか、気絶したのか、ワタシの記憶はゴッソリ抜け落ちていた。
あとできくと、1ヶ月分のその一缶を一気に食べてしまったらしい。1日に一粒だけだと書かれていたその適用量。病院に運ばれたのか、具合が悪くなったのか、記憶はおぼろげだが、気分が悪かった。というところまでは覚えていた。ワタシは制御がきかなかった。ダメだと言われても、好奇心でなんでも試してみた。大人になったワタシはそれがますます酷くなっていた。特に食べてはいけないモノに関してはと特別だった。あれだけ焼き菓子やパンに使われがちなトランス脂肪酸を拒むくせに、通常、人が口に入れるモノではい。と思われるモノを口にしてしまうのだった。食べモノと食べ物でないモノ。いったいそれは、誰がきめるもだろうか。土地や人が変われば、文化が異なれば、食べられるモノ、食べないモノ、いろいろ決まりもあったりするわけだ。だからワタシは気づかなかっただろうのか。子どもながらの好奇心とも違う誘惑。それは、やっぱりワタシを苦しめた。人知れず口に入れては、なぜまた食べてしまうのか。
好奇心と不安の狭間で揺れ動く気持ち。まただ。今度は何を食べてしまうのか。
ワタシはふっとネコのようにキズ口を舐めては
治りかけたキズごとごっそりとそれを飲み込んだ。
ひと粒だけ食べることを許される日。 ももいくれあ @Kureamomoi
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