外伝 魔界にて side魔王
私は魔王。この魔界を治める者として君臨している。
治めているといっても、魔界の連中は好き勝手に生きている奴が多いから、実際に支配下に置いているのは5割程度なのだが。
うむ、まぁそれでも魔王であることに変わりはない。
さて、そんな魔王である私に最近妙な報告が届くようになった。
なんでも、現界にある王国の結界が破れたという報告だ。
あの結界は昔勇者がつくったもので相当な強度と拒絶力があったから、王国には迂闊に近づけなかった。たしか、王国内に必ず一人は存在する聖女が維持管理していたはず。
「聖女はどうした?」
「なんでも、王国では聖女の力を信じていないようで、追い出したそうです」
馬鹿だ。王国はそこまで馬鹿になってしまったのか……いや、人間の寿命を考えれば仕方の無いことなのか?
魔界のものは寿命が長いが、人間はたかだか200年ほどの間でも、何度も代替わりを行う。
知識や伝統が姿を変えてしまうのも、仕方がないことなのかもしれない。
「聖女は?」
「トアル湖という場所に村を作っています。いい村でしたよ。とんでもない戦力でしたが」
「え? ラム、お前行ってきたのか?」
聞いてないぞ。そんな話。
「行ってきましたよ。私は情報担当の四天王ですから」
「それで、戦力とは? 聖女は王国に復讐でもする気か?」
「恨む気持はあるでしょうが、聖女側から攻撃などはしないでしょうね」
じゃあ戦力とはどういうことだ? 村だろ? なんで戦力がある?
「上級、超級合わせて200近い悪魔がいます。しかもその統率者として超級のひとつ上である王級悪魔もいました」
王級悪魔って、悪魔公ってよばれる位のヤツらだよな?
「あと、魔槍姫がいました」
魔槍姫。魔界の実力者だな。
「そして、魔槍姫は軍事教育に天性の才能を持っていたようで、村人のほぼ全員が中級悪魔と戦って勝つでしょう」
化け物みたいな村だな。それだけの戦力があれば王国は簡単に滅ぼせるだろう。いや、勇者がいればいい勝負になるか……?
「聖女は一体どうやってその村を作ったのだ? 悪魔達に気に入られたのか?」
聖女がリーダーとなって村を作ったとは思えん。
「あぁ、その村で一番強いの、聖女です」
……え?
「どういうことだ?」
「聖女、マーガレットという名前なのですが、彼女は結界の力を吸収したみたいで、とんでもない魔力でした。魔力だけ見れば四天王合わせても勝てないと思います」
化け物だ。四天王合わせてって私と同じか、それ以上の可能性もある。
私はこれでも歴代最強と呼ばれる魔王なのだが。
「……ここに攻めてくる危険性は?」
「まずありません。平和に暮らしたいようですし、聖女は平和の体現みたいな生活をしてました」
なるほど。攻めてくる危険がないのならば、友好策を取るか放置だな。
ちなみに、ラムよ。お前が手に持っているのは?
「ビービートルの蜜を使ったお菓子です。絶品ですよ」
「ビービートル?! 村にいるのか?」
「はい。いましたよ。交易に関しては前向きでした」
もう交易の話を……だが、ビービートルの蜜は超高級品。私もなかなか食べられない。
「……交易はコンに任せた方がいいのではないか?」
コンは経済担当の四天王。
「コンの性格上、あの村とは合わないでしょう。合わないどころか死にかねません、コンが」
コンは金の亡者であり、魔界の生まれとしてプライドを持っている。現界との交易だと強気に出るのは間違いない。そうなれば……うむ、ラムに任せよう。
「任せた。ラム」
「はい、任されました。とってもいい村だったので、また行くのが楽しみです」
「……お前、まさか移住するとか言わないよな?」
魔界は荒々しいものが多いから、あまり料理や生活の文化が発達していない。
貴族や一部の者は食に興味を持つものが多いが、魔王城ではあまりそういうのを気にしていない。まさか……。
「いやいや、言いませんよ。多分」
「多分?! いや移住されては困るぞ?! おいラム! 無視するな! ラーム!」
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