俺の恋愛は茶番選択肢で定められているらしい
華月紅奈
choice.1 そして一つの未来へと(1)
「──あなたのことがずっと好きです。付き合ってください」なんて甘酸っぱい言葉を正面から堂々と、しかも放課後に学校の屋上へと呼び出されて、さらに学校で一番の美少女だと名高いクラスメイトからぶつけられて、それでもなお平静を保てるのであれば、俺は彼女いない歴=年齢にはなっていない。
これはきっと夢だ夢に違いない。実際にはたぶん家の自分の部屋で寝てるんだろう。或いは授業中の教室か?
ともあれ、我ながら恥ずかしい夢だな。
俺が女子から告白される? しかもこんな美少女から?
はー、ナイナイ。
どんな奇跡が起こればそんなことが起こるんだよ。サイコロを百個同時に投げて、全部が「1」の目を示す確率の方がまだ高いだろ。
「ちょっと失礼」とだけ彼女に断ってから(まあ夢なら必要のない一言なのかもしれないが、最低限の礼儀ってやつだ)、俺は自分の頬をつねってみる。
痛かった。
だが止めずに、今度はより強くつねってみる。
痛さが倍増した。
馬鹿なのか俺は。見ろ、正面の彼女が普通に心配そうな視線を向けてきている。
いやあ、これが夢で良かったな。現実なら耐えられんぞ、こんな状況。
……夢、なのか? これ?
状況的には夢だとしか思えない。何度でも言うが、俺がこんな美少女から告白されるなんて、現実じゃありえないからだ。
だけど、(彼女から向けられる視線を無視して)どんなに強く頬をつねってみたところで、目は覚めそうにない。
──彼女は
さっきも言ったように、学校一の美少女と名高い、美少女の中の美少女。その称号は決して尾鰭の付いた噂などではないのだと、彼女の風貌を一目見てしまえば誰でも納得できてしまうほどだ。
高校一年生にしては華奢で小柄で、穢れを知らなそうなあどけなさがある。それはさながら、世界中の「可愛らしさ・可憐さ」を集めて具現化したかのような立ち姿。
なんというか……「つい守ってあげたくなる感じ」という表現が、一番的を射ていると思う。
ひょっとして……ひょっとしてだよ?
思い違いだったらかなり恥ずかしいが……これって、もしかして現実だったりするのか?
マジにリアルな感じで、俺はこの子から告られてるのか?
……そう、なのかもしれない(ゴクリ)。
「あ、あの……それで、どうでしょう? 私と、付き合ってくださいますか……?」
この状況が夢なのか現実なのかという二択問題に一応の決着が着いた(?)ところで、御帳さんがおずおずと尋ねてきた。
紅く染まった頬と不安に揺れる瞳の途方も無い可憐さに、俺はまたもや「あ、やっぱコレ夢だわ」と思ってみたり。
だって、こんなに可愛いんだぜ?
確定、というか決定。ここは俺の夢の世界です。誰に何と言われようと、こんなもん夢に決まってる。
……俺の夢だっていうなら、何しても良いんじゃない?
だったら、この告白へ返すべき答えは決まってる!
「──ごめんなさい。俺は、君とは付き合えません」
──「は?」って思った? 「自分の夢の中で美少女から告られて断るとか、馬鹿じゃねえの?」って思った?
確かに、その意見には一理ある──だが、俺はここで敢えてこう言いたい。高らかに叫んでみたい。
(──ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ!)
学校一の美少女と付き合う?
そんなもん、周りの男どもからどんなバッシングを受けるかわかんねえだろうが! 自慢じゃねえが、胃痛とストレスで死ぬ自信があるわ! 偏差値と顔面偏差値が揃ってトップレベルの奴とかならともかく、俺みたいな平均男子が釣り合うような相手じゃねえんだよ!
……夢なら大丈夫だろって?
はっ。あんまり俺の小心っぷりを舐めるんじゃねえぞ。
これが万が一、億が一の確率で現実だったらどうだ!
「いや、お前さっき確実に夢だって言ってたじゃん」って思うかもだけど、でも確率はゼロに限りなく近いだけで、一応ゼロではないんだよ(希望が少し混入しております)。
「宝クジが当たる確率は隕石が墜ちてくる確率より低い」みたいな風説があるけど、宝クジは誰かには当たるし、隕石だってどこかには墜ちるんだ。
だから断った。俺があらゆる意味で臆病だった結果。
勇気を振り絞って告白に踏み切ったのであれば、彼女には悪いと思うけれど……こればっかりは仕方のないことなのだ。
彼女は泣くだろうか。それとも怒るだろうか。平気な振りを装って笑うかもしれないし、何も言わないかもしれない。
──だが、実際はどの予想も外れていた。
「──ごめんなさい、風が強くてよく聞こえませんでした。
「あ、あの……それで、どうでしょう? 私と、付き合ってくださいますか……?」
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