第331話 格好良くない。



 二十分ほど戦闘が続いたところで、ニールは鈍を素早く振るい、銀の鎧の後方に姿を表した。銀の鎧の胸当てに二十センチほどの傷が入る。


「固い。固いんだって……」


 渋い表情を浮かべて、溢した。


 銀の鎧が振り返って、拳を振るおうとしたのでニールは距離を取るべく離れて行く。


 今の練習中ではあるけど、俺の必殺技が小さな傷一つとは……。


 やはり【救いの手】を発動状態じゃないとこんなもんか。


 待てよ。マナの消費は大きくなるが【救いの手】と【地走り】を同時発動出来たら切り裂けるか?


 それはいつか試してみるとして……銀の鎧の攻撃は大体わかってきた。


 近くにいる相手に対して、相手の動きを見て攻撃するのではなく。


 殴りかかるパターンが五種類ほど。


 そのパターンはおそらくランダムで繰り出される。


 五種類の内、三種類は顎が上がる、右肩が上がるなどの攻撃兆候を見つけたので回避がしやすい。もう少し攻撃兆候を見極めることができたら【地走り】なしでも行けそうなんだが。


 そして、ロケットパンチは腕を回さないと撃てないようだ。


 回転数によって威力が変わる。


 回している途中に攻撃して……それを止めると撃てない。


 ニールが考え事をしつつも、右肩が上がる銀の鎧の攻撃兆候を見つけて……右腕の振り下ろしを躱していた。


『お前の観察眼はたいしたものだな』


 カルディアの声がニールの頭の中に響いた。


 ニールは首を傾ける。


「そうかな? これくらい見ていたら分かるでしょう」


『いや。普通じゃないと思うぞ。まぁいいとして、これからどうするんだ?』


「これから? とりあえず、対【リドール】用に考えていた技を試してみるかな? それで駄目なら全力撤退だな」


『なんだ。まだ考えがあったのか?』


「そら。結構前から【リドール】との戦闘の可能性があると分かっていたからな……いくつか」


【地走り】発動中のニールが地面を蹴って走りだした。空いていた手を鞄に入れると、拳ほどの大きさの巾着袋を取り出す。


 銀の鎧の前にまで来たところで、巾着袋を軽く投げて鈍で叩き切った。


 切られた巾着袋からは大量の植物の種が辺り……銀の鎧とニールへと飛び散る。


「オラクル解除【緑龍解放】」


 ニールの足の龍化が解かれて、【緑龍解放】の言葉とほぼ同時に、全身が若干薄く輝きだした。


 足元から草花が次々と生えていく。


 銀の鎧はニールの様子を窺うと言うことなく、右拳を振り上げる。


「ウオオオォ」


 ニールは見逃さなかった。


 銀の鎧の顎が微かに上がったことを。


「そのパターンは知っている。【銀流し】」


 斜め上から振り下ろされた右拳に対して鈍を当てて、軌道を逸らして躱した。


 地面に手をついて。


「【樹生領域(じゅせいりょういき)】命令【縛】」


 触れていた地面を中心に、辺りに光が一気に広がった。


 次の瞬間、周囲に散らばっていた種が発芽してツルが、葉が不規則にウネウネと動きだす。


 銀の鎧は視界を塞がれるほどの植物のツルに対して、拳を振るう。


 しかし、その植物のツルは引きちぎっても引きちぎっても、新たに生えて銀の鎧に絡みつく。ツルは銀の鎧の関節部分にも入り込んで、動きが鈍くなって……絡みとらていった。


 ニールは青い炎で、植物のツルを燃やしつつ、銀の鎧の様子を窺っている。


「疲れた……もう大丈夫かな?」


『前と違うな』


 様子を見ていたのだろカルディアが声を掛けた。


「種が違うからな。これはニカの木の種……強い生命力と強靭な繊維を持っている。攻撃手段に炎がない相手にはかなり有効攻撃だろうな」


 ニールがその場から歩きだした。鈍を鞘に仕舞う。


『この人形、このままか?』


「あぁ。一日もすれば燃料切れになるだろう?」


『人形のマナ量からして……そうだな』


「じゃあ、このままってことで……今日は疲れたから休もうかな。んー」


 ニールは気だるそうにしながらもグルノー砦へと戻って行くのだった。


 翌日は薬の副作用で倒れていたため、翌々日になってニールが銀の鎧に巻き付いていたニカの木を焼き払う。


 ニールとカルディアの予想通り、マナ……燃料が無くなって銀の鎧は完全に停止していた。


 カルディアは『しかし、この勝ち方……燃料切れ待ちとはなんだか格好良くないな』などと溢していたが、ニールは無視。


 ちなみに、この戦いでニールに誤算があるとすればロケットパンチと……自身の能力で生やしたニカの木の生命力を甘くみたことだろう。


 ニールと銀の鎧が戦ったグルノー砦の南外周住居地区では多くのニカの木が生えてきてしまい……戦闘で壊れた家屋の復興の妨げとなっていた。よって、その日は青い炎でニカの木の伐採することになったと言う。



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