第302話 話を戻して。
話を戻して。
ミリア公国を出て四日後。
ニールは魔導船ヴェローゼ号の船首に立っていた。
強く流れる風を感じるように手を大きく広げて。
「うはー絶景。絶景」
ニールの目の前に広がるのはオレンジ色の瓦の建物群、どこまでも青い水面が太陽の光がキラキラと輝く海、透き通りどこまでも続くと錯覚しそうな空。
ニールの言葉通り、誰もが息を飲む絶景であった。
「ここが港街ダルマークか」
ここでカルディアの声がニールの頭に聞こえてくる。
『おー綺麗だ。お、あそこ船がいっぱいだぞ』
「本当だ」
『あ。次に主導権貰った時、船釣りをやってみたいんだよな』
「船釣りかー良いね。近海のヌシを釣って、食べさせてくれよ」
『いいな。ヌシか……昔そういう漫画を読んでいたからちょっと燃える』
「そっか。俺も釣りは……」
ここで脳裏にはメイド服で出場したワカサギ釣り大会が浮かんで……。
ニールは渋い表情を浮かべた。
『ふっお前、釣神様って称号を持っていたな』
「アレは俺じゃない……アレは俺じゃない」
『そうか? そういえば、女装とかしないんだな?』
「好き好んで、女装とかしない」
『女装は言い過ぎたかも知れん。ただ最近お前の英雄譚が出回り過ぎていて……気軽にフラフラし辛いんだが?』
「おいおい。言ったな? 『白金の英雄』とか言う大層な英雄譚の発端はお前だろう? 俺はお前の後始末以外何もしてないだが?」
『いや、その後始末がやり過ぎなんだろう。そうそう、この前聞いた最新版(?)だと恋愛路線に迷い込んでいたぞ?』
「恋愛路線? なんだそれ? 俺の知らない間に誰か女の子を口説いたのか?」
『いや。どう考えても俺じゃない。公国の姫を口説き落としたとか? 姫の為に盗賊団を一つ潰したとか? 歌になっていた』
「あぁーそれは噂に凄い尾ひれがついているな。俺が姫様とどうかなるなんて、恐れ多いわ」
『けど、あの女を外に連れ出していただろう?』
「ん? アレは姫様が城からあまり外に出られないと話していたから、少し連れ出して屋台で買い食いしたり、遊んだだけ」
『……』
「ん? どうした? 急に黙って?」
『いや。うん。なんでもない』
「そうか? 絶景も堪能したし……そろそろ、下船かな? 一旦部屋に戻るかな」
ニールが踵を返すと、離れたところで待機していたシルビアのところへと歩きだした。
港街ダルマーク。
温暖な気候で。
海が近く、潮の香りが緩やかな風に乗ってくる。
街には様々の国の船が停泊して。
船から卸された多種にわたる商品、食べ物が屋台にて売り出され、商業地区は活気にあふれていた。
魔導船ヴェローゼ号を下船したニールとシルビアは二人して港を通り過ぎて商業地区をブラブラと歩いている。
ニールは港近くにあった屋台で買った串に魚の切り身が刺さった魚串にかぶり付く。
「あむ。なんて魚か忘れたが、塩加減が絶妙で美味いな」
シルビアは大きく膨れた……屋台の食べ物が詰められた袋を抱えて。
「赤魚と言っていたかと」
「へぇー。美味い。今度また買おう。いや、カルディアに釣ってもらうか」
「カルディアさんは釣りをご所望なんですか」
「船釣りだって」
「船が気に入ったんですかね?」
「そうじゃない? 今回はさすがに新たな英雄譚を生むようなことはなさそうだ」
「ご主人様、それはフラグというヤツではありませんか?」
「……今のなし。今のなしだ。取り消し。しかし、船釣りするだけで……英雄譚残せるようなことを起こしたらびっくりだけどな」
ニールとシルビアは二人談笑しながら、宿屋が並ぶ地区へと入っていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます