第297話 勲章。



 ニール達は馬車に乗って、第一城壁を何のチェックもなしに抜けると、ミリア公国の公王が住んでいる城へ。


 城にたどり着くと、騎士達に囲まれて歩いていった。


 ニールの英雄譚は城内にも広まっているようで貴族、騎士、使用人、すれ違う者達が視線を向けられる。


 ニールは注目をあびるのには慣れず、渋い表情を浮かべる。


「こんなところでも、人に見られる」


 ニールの隣を歩いていた騎士……馬車でジャレントと名乗った屈強な肉体を有する男性が苦笑して。


「ニール様は人の視線が苦手ですかな?」


「そうだね。本当に……。気配が読め過ぎてさ。偵察とか監視とか? そういうのに気づくんだよね」


 ニールが囲んでいた騎士達の中で数名かに視線を向けた。言葉と視線だけで、ジャレントは察したのだろう謝罪を口にする。


「それは申し訳ありませんでした。こちらも情報が欲しかったのです」


「んーやるなら、もっと気配消しが上手くなってからにしてほしい。ちょろちょろされると気になって眠り難い。ジャレントさんだって、寝る時にハエが部屋の中に飛んでいると眠り難いでしょう?」


「それは……確かに精進させます。しかし、そのお歳で、偵察する者達を感知する気配読みが出来るとは思いませんでした」


「今後は配慮してくれ……。それで、今回の公王様との謁見ではどのようなことがあるのかな?」


「公王様は、今回の謁見で礼と褒美、勲章を贈りたいと」


「勲章?」


「国防の危機を払い除けたと言うことで、国防勲章というモノが」


「そういうのは、あまりいらないんだけど」


「受け取ってください。それから……貴族位もという話になっているのですが」


「絶対にいらないよ」


「そうですか?」


「永遠にこの国で留まる訳ではない」


「やはり、そうですか」


「やはりと言うことは、分かっているか?」


「私では分かりませんが、公王様は何か心当たりがあるのでは……謁見後に個人的に内密な話をしたいと言っていました」


「内密な話? どんな? ってさすがにわからないか」


「そうですね。聞いていませんっと……ここが謁見の間です」


 ニールは白く大きな扉にたどり着いた。騎士達が扉を開けて……。


 カンカンっと、甲高い銅鑼の音がなった。次いで男性達の声が響く。


「ニール・アロームス様の御成ぃー!」


 扉の先、正面には煌びやかな作りの玉座。その玉座に王冠を被り、赤いマントを着込んだ聡明そうな初老の男性が座っていた。


 初老の男性はミリア公国第十七代公王エイベネット・ファン・ミリアであった。


 玉座の間の両端には煌びやかな貴族服を着こんだ貴族、屈強な肉体に鎧を着こんだ騎士が並んでいていた。


 厳かな……心が引き締まるような雰囲気があった。


 ちょっと緊張するなぁと心の中で思っていると、赤い絨毯を歩きだす。


 ニールはジャレントの習った通りに玉座の前で跪く。シルビアは気配を消して斜め後ろで、ニールに合わせて跪いた。


 公王エイベネットは小さく頷き。


「うむ。頭を上げてくれ」


 ニールとシルビアは顔をあげる。


 公王エイベネットはニールの顔を見て、興味深げに。


「ほう。思ったよりも幼いな。白金の英雄殿」


「いや、その呼び名は勘弁してください。俺……いや、私には過大な名声です」


「そうか? 格好いい二つ名だと思うが」


「そうですかね。こう言ってはなんですが、偶然突っかかってきた奴らをブッ飛ばしていただけですので」


「ふふ。相手は運が悪かったか」


「そういう事ですね」


「ふむ、どちらにしても……私も手を焼いていたあの豚も生かしたまま捕らえて証言を取って、更に蔓延して国を滅ぼしかねない、幸福薬ハピネスとか言うふざけた名前の薬の農園を壊滅してくれた」


 公王エイベネットは一度言葉を切って、玉座から立ち上がった。


 ニールへと近づき、胸に手を当てて


「国防の危機を救ってもらえたのは変わりない。国民全員に代わって、礼を言う」


「……」


「立ってくれ」


 公王エイベネットにそう言われると、ニールとシルビアは立ち上がった。


 すると、公王エイベネットの背後に近付いてきた騎士が持っていた箱を開ける。


 箱の中には金色と白色の鉱石、宝石を使って作られたブローチが二つ入っていた。


「これは勲章だ」


 公王エイベネットはブローチを手に取るとニール、シルビアの胸に付けていった。


 ニールの肩をポンと軽く叩き、声を狭めて。


「報酬はあの豚から絞り取った金に加えて、金貨二千枚を用意させるから後で貰ってくれ」


 報酬の額に驚いたニールは目を見開いて、公王エイベネットを見る。すぐにかがんで声を狭めて。


「金貨二千枚ですか? ちょ……ちょっと多くないですか?」


「貰ってくれ。逆に少ないくらいだ。ありがとう」


 公王エイベネットとニールでそんなやり取りをした後、握手を交わして謁見自体はすぐに終わった。



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