第171話 モルガン。
扉が再び開いて、ミロットとミロットにメイド服の襟を掴まれたニールがマーシャル達の居る部屋へと乗り込んでくる。
「お館様! 助けに参りました」
「ミロットさん、襟から手を離してください」
ニールの姿を目にし、外から声が聞こえたところで、マーシャルとルドルフは部屋の端に移動していた。
ミロットを目にしたマーシャルが頭を抱える。
「ミロット……お前がここに現れたということは、集めた者達をすべて制圧されたのか」
「っ」
部屋の真ん中でニールとミロットと相対していたモルガンが覚悟を決めたような表情を浮かべて、小瓶を取り出した。
小瓶の蓋をキュポっと音をたてて、開けると……口を付けて、小瓶の中に入っていた液体を一気に飲み干していく。
「何を飲んだ」
眉間に皺を寄せたミロットがモルガンへと問いかけた。
ただ、ミロットの問いにモルガンが答えることはなく……。苦し気な表情を浮かべて、喉を掻きむしりながら倒れた。
「うぐっ……体が体があがががががががががっががが」
モルガンは奇声と共に涙やヨダレをまき散らし、のたうち始める。
すぐに肉体に異変が始まった目玉は大きくし赤く染め、モコモコっと体が膨れ上がって着ていた黒い服をはじけ飛ばしていく……。
モルガンの変異を見ていたニールは何が起こっているか分からいものの、無意識にブルリと体を振るわせた。
ミロットは険しい表情で……マーシャルを睨みつけると声を上げた。
「マーシャル!! 貴様、部下に何を飲ました!!」
「な……え……も、モルガン……どうしたんだ」
ミロットに恐怖しながらも、モルガンの変異を目にしていたマーシャルは戸惑いの表情を浮かべていた。
マーシャルの様子を目にしたミロットはムッと顰める。
「どういうことだ……これは」
「ミロットさん、なんかヤバいですよ」
ニールが一歩下がって、ミロットに声を掛けた。ミロットは小さく頷き答える。
「あぁ、分かっているよ」
「ど、どうしますか? 俺としては一刻も早くリリアお嬢様を見つけ出して……この場から逃げ出したい」
「まずはお館様だろう」
「正直、どうでもいいのですが……リリアお嬢様さえ」
「おい」
「そもそも……どうするんですか? 気配が膨張していくのを感じる。俺、強化薬を持っていないのですが……っ!」
ミロットの会話の途中で何か感じ取ったのかニールが顔を強張らせた。そして、焦ったように手を振り上げて、大きく声を上げる。
「ヤバい! この部屋から今すぐに逃げっ!」
ニールの警告虚しく、モルガンが大きく膨れ上がった右腕を振り上げて、床を殴った。
ズドンッと重い音と共に床を殴った衝撃は二階にあった部屋の床を……いや、建物全体を大きく揺るがし壊した。
ニールは一階にまで叩き落されるものの、何とか生き残る。
「いたっ! リリアお嬢様は大丈夫だろうか?」
瓦礫の山となった建物跡では、ニールが木の破片が突き刺さっていた足を引きずっていた。
顔を顰めて、木の破片を引き抜き、少なくない血が流れでてくる。
「うぐっ! やっぱりリリアお嬢様を優先すべきだった」
ニールは瓦礫の山となった建物辺りを見回す。
「がぁああああああああああ」
瓦礫の山の真ん中あたりではモルガン……モルガンであった巨人化し続けている化け物が頭を抱えて苦し気な声を上げていた。
「なんだよ。あの化け物……」
「お館様、大丈夫ですかっ」
ニールから少し離れたところで、ミロットがルドルフへと声を掛けていた。
「あぁ、ミロット……助かったよ」
ミロットはニールの警告を耳にした瞬間に飛び出してルドルフを庇い、助けていたのだ。
「しかし、申し訳ありません。マーシャル様までは……」
ミロットの言葉の通り、マーシャルは瓦礫の山の中から顔を出していなかった。
ルドルフは悲し気な表情を浮かべながらも、首を横に振る。
「っ! ミロットが謝ることではない」
ルドルフとミロットのことを気に留める様子もなく、ニールは血が流れる足に痛みを感じながら立ち上がる。
「くっお嬢様は……どこに」
ニールはきょろきょろと辺りを見回して、リリアを探していた。
少して、建物の前の通路に投げ出される形で倒れていたリリアを見つける。
「リリアお嬢様っ!」
足の痛みを忘れてニールはリリアに駆け寄ると、リリアの体を抱きかかえた。
「うっん」
「よかった……本当によかった」
リリアの反応は薄かったが、反応があったことにニールは胸を撫で下した。
「ここは危ない。離れましょう。よよっと」
すぐにモルガンであった巨人化し続けている化け物へと鋭い視線を向けた後、リリアの体を何とか背負って移動を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます