第169話 裏話。
少し時間を遡る。
ここはクレッセンの街の廃墟が建ち並ぶエリアにある二階建ての建物の一室。
魔導具のランプによって灯りが照らされ……部屋の中にはマーシャルとマーシャル背後に護衛の男性……モルガンと白髪の老人と老人の背後に護衛の女性が居る。
マーシャルと白髪の老人がソファに腰かけて向き合うようにしてしゃべっていた。
「それでレイバン子爵殿には礼を言っておいてくれ。この恩は必ず」
「ほほ、マーシャルのお坊ちゃんも大きくなられましたなぁ」
「ふっ、もう三十だからな」
「そうですか。私も歳をとりましたなっと……今日のところは休ませてもらいますかな?」
「あぁ、体をいたわってやってくれ」
「では失礼しますよ」
白髪の老人が部屋から出て行こうとした。
ただ途中で何かを思い出したように立ち止まる。
「あ……そうだ。ランディックが居るので大丈夫かと思いますが……念のためにこちらを渡しておこうかな?」
白髪の老人は懐から小瓶を取り出した。小瓶を護衛の女性に手渡して、護衛の女性がマーシャルへと手渡す。
マーシャルは怪訝な表情を浮かべで小瓶を手にした。
「これは?」
「それは人間を極限にまで強化してくれる魔法薬ですよ」
「ほう……しかし、大丈夫なのであろうな?」
「ほほほ、もちろん多少の副作用はあります。使わないことに越した事はないですが、本当に困った時には使ってください」
「分かった」
「では、失礼しますよ」
白髪の老人が杖をつきながら、背後に居た護衛の女性と共に部屋から出て行った。
白髪の老人を見送ったマーシャルはソファに体を預けて……大きく息を吐く。
「ふう」
「お疲れ様です」
マーシャルの背後に控えていたモルガンが一歩前に出て声を掛けた。
「あぁ。今は、それよりも……お父様の馬車の方はどうなっている」
「もうじきかと」
「上手くいくか……落ち着かないな」
「あの睡眠薬は素晴らしい。無味無臭で……更に気を失うほどに強力な効果。アレはいくらミロットと言えど、どうにもならないかと」
「そうか。だと良いんだが」
「その後のことですが……やはりお館様の乗った馬車に火を付けて谷に落とすのがいいかと」
「あぁ……そうなるだろうな。屋敷の監視を抜かるなよ」
「部下に監視に当たらせています……っ!」
微かに物音がしてモルガンの視線が出入り口へと向けられた。
少しの間の後、出入り口の扉がノックされ……マーシャルの許可を得るとルドルフとリリアの二人を抱えた短髪の男性が入ってくる。
抱えたルドルフとリリアの姿を目にしたマーシャルは不敵な笑みを浮かべる。
「作戦はうまく行ったんだな。いや、よくやった」
「ありがとうございます。とりあえず、言われていた二人を連れてきましたが……ソファに座らせればよいですか?」
「あぁ、リリアは別室に縄で拘束しておけ。まずはお父様と話す」
「畏まりました」
短髪の男性はルドルフをソファに降ろし、リリアを抱えて部屋を後にしようとした。そこでマーシャルが短髪の男性を呼び止めるように問いかける。
「ところで外が騒がしいようだが……何かあったのか?」
「いえ、睡眠薬の効果が薄く早々に目を覚ました者が居まして……その者の抵抗を抑えるために人を出しました」
「!? 大丈夫なのか? まさか、ミロットか?」
「いえ、メイドが一人です」
「……そうか。それなら大丈夫だな。さっさと片付けろよ」
「はい。失礼しました」
短髪の男性が一度頭を下げると、リリアを抱えて部屋から出て行った。短髪の男性を見送ったマーシャルはソファで眠るルドルフへと視線を向ける。
「さて、話がある。モルガン……お父様を起こせ」
「はい」
マーシャルがモルガンへとルドルフを起こすように命令した。
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