第147話 残念。
ここはトンリア村。
ウィンズ子爵領へと向かって走っていたニール達を乗せた馬車の一団が休憩地としていた村であった。
乗っていた馬車の扉から顔を出したニールはトンリア村を見ながら呟く。
「へぇーここがトンリア村ですか」
「ふふ、前に立ち寄った時は体調悪くて寝ていたからね。ニール」
先に馬車から降りていたリリアがニールに近寄ってきた。
「あぁ、あの時はご迷惑を……ん?」
「どうかしたの?」
「いえ……気のせいですかね?」
「ニール、立ち止まるな。私が馬車から出られないだろう」
後ろに居たシャロンがニールの背中をポンと叩いた。
「あぁ、ごめんなさい」
ニールとシャロンは馬車から降りると、リリアの前に集まる。ニールはきょろきょろと視線を巡らせる。
「……」
「何か気になることがあった?」
リリアが小首を傾げて、ニールに問いかけた。
「いや、たぶん気のせいでしょう。それより休憩の間はどのように過ごしますか?」
「そうね。少し散歩しましょうか。ずっと座りっぱなしで動かさないと辛いわ」
「そうですね」
リリアを先頭にニールとシャロンの三人はトンリア村へと入って行った。
「トンリア村って普通の村って感じですね」
ニールは村の中を歩きながら、ポツリと呟いた。
ニールの呟きを耳にしたリリアが苦笑しながら答える。
「それは、普通の村だもの」
「まぁ、そうですね」
「けどね。この村のすぐ近くにオレンジ畑が見えるでしょ? そのオレンジを使った料理を出す店があるのよ、散歩した後に寄りましょうね」
「へぇーオレンジを使った料理ですか。それは楽しみですね」
「まぁ、オレンジ使った料理は変わっていて美味しいが。やはりオレンジを漬け込んで作った果実酒だろう。美味いんだ」
シャロンが思い出すように視線を上げた。
対して、ニールは苦笑する。
「前、仕事終わりにチビチビ飲んでいたヤツですか?」
「あぁ、ここによる度に持ち帰りの果実酒を買っているんだ。私は」
「シャロンさんはお酒を控えた方がいいですね。飲むなら、絡み酒とお酒を飲むと人にキスをするのを直した方がいいと思います」
「な、な、私はそんなこと……してない」
シャロンが動揺し……顔を引きつらせた。
ニールは首を傾げる。
「アレ? 覚えていないんですか?」
「……嘘だ」
「俺が、嘘ついても仕方ないでしょうに。他の人にも聞いたらいいでしょう? いや、他の人も覚えてないとかあるのですかね? シャロンさんの飲み仲間、全員飲み癖は面倒なんで……もう思い出したくもないですが、ベレッタさんの快気祝いの飲み会で何度抱き付かれて、何度キスを迫られたか……そして帰りは服に吐かれて」
ニールが、げんなりとした表情を浮かべながら、ブツブツと飲み会での文句を述べていた。
ニールの様子から、真実であることを察したのだろう、顔を青くして黙った。
「……」
「ちょっと待って? その話聞いてないんだけど。ニール、本当なの?」
リリアがムッとした表情を浮かべて、振り返った。リリアはニールに問いかけたが、シャロンが縋りつくようにリリアの肩に触れる。
「リリア様……ま、待ってください」
「シャロン? 何か、申し開きはあるのかしら?」
「えっと……禁酒だけは……禁酒だけは……何とぞ。何とぞ」
「はぁーシャロンはお酒が絡むと本当に残念。とりあえず、未成年のニールを飲みの席に引っ張っていくのは禁止とします」
「は、はい。分かりました。それは絶対に」
「シャロン、いくらお酒が好きだからって、周りの人に迷惑をかけちゃ駄目よ?」
「はい……」
シャロンがガクンと肩を落としていた。しばらく、シャロンの元気がなかった。
「ここの店よ。『日長亭』」
宛もなくトンリア村の中を散歩した後で、リリアが一軒の店の前で立ち止まった。
店に近付くや、ニールは鼻をスンスンと動かす。
「微かにオレンジの匂いがしますね」
「そうなの。入ろっか」
リリア達は日長亭の中に入っていく。ちなみにシャロンもついて来ているが、元気がなく黙っていた。
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