第110話 カルディアの剣。
「ん……」
ニールはゆっくりと目を開けた。
目の前にはただ白い空間が広がっていた。
「あー夢か?」
ニールにこれと言って動揺はなかった。ニールにとってはたまに見る夢であった。
「夢で意識があるって、なんか変な感じなんだけど……」
特にやることのないニールは白い空間を漂いながら、斜め上をボーっと見上げていた。
「ふーう。特に何もなく終わるんだよな」
『それはそうだろう。お前は呪いによって俺と会える状態になかった。今回は……お前が大きく成長したことで、一時的に呪いが弱まったんだろうな』
髪も肌も白い男性がニールの目の前に立っていた。
男性は二十代中盤で長身……スッと伸びた高い鼻、強い意志を秘めたような金色の瞳に長く上を向いたまつ毛……。
着こんでいた白い生地に金の刺繍が施されている服から鍛え抜かれている体躯が覗く。
まさに、神話の絵に登場するようなイケメン。正直、生まれ変わるのならこんなのがいい。
唐突に表れたイケメンにニールは拳を構えて戦闘態勢を取る。
「だ、誰だ」
『誰だとは何だな。一度覚醒した時に会っているというのに忘れておるのか? まぁ、無理もないか』
「一度会っている?」
『あぁ、そうだ。俺は……お前達、人間が呼ぶところの神や天使、真理と言われる存在に作られたビアンカの聖具の一つ『カルディアの剣』だ』
「神に作られたカルディアの剣? 分からない単語ばかり……」
『……今の俺はお前であり、お前は俺であり、俺はお前の力……天命(オラクル)である』
「オラクル……?」
言葉の中に聞き覚えのあった単語に、目を見開いた。
『なんだ覚えていたか?』
「いや、オラクルという言葉は聞き覚えがあった」
『そうか。いろいろ話したいこともあったが、時間が切れそうだ』
男性の体が足元から金色の光の粒子に代わっていき、消え始めていた。
「ちょっと待って。アンタは」
『足早くなるが……俺のことはカルディアと呼ぶがいい。今のお前は呪いによって虚弱体質となり、体内に保有している大量のマナとの路を遮断されている』
「カルディア……。呪い……呪術というヤツか?」
『時間がない。今は俺の話を聞け。マナが使えないから神の真似事……お前達の言葉で言うなら魔法も使えなく。オラクルも使えない状態だ。お前が力を欲するのであれば、呪いを解くんだな。と言っても、そんな簡単な呪いではないから、難しいやも知れんが。……では、時間だな……次にまた会える機会を楽しみにしている。ニール・アロームス……いや、大空悠李と呼んだ方がいいかな?』
カルディアがブワッと全身を金色の粒子と変わって完全に消えてしまった。
ニールは消えていく金色の粒子へと手を伸ばす。手に取った金色の粒子も儚く消えてしまう。
なんだったんだよ。
やっぱり俺の背中に書かれているのは呪い……呪術というやつだったんだな。
カトレアに掛けられている呪術とはやはり別物で、俺の呪術は虚弱体質を引き起こすものだったのか?
つまり、俺は呪術を解くまで、幾ら鍛えたところで変わらないという事か?
アレ? でも、最初の方で俺は大きく成長したようなことを言ってなかったか? あの蟻を倒したからか?
別に、すごく強くなりたいわけでもないんだが、戦い始めてすぐに気を失うのはどうにかしたいんだが……。
それにしてもカルディアは昔あったことがあると言っていた。
どこでだろう?
あんな超イケメンと出会っていたら、そうは忘れないと思うのだが。
いや、心当たりはあるか……俺の記憶が抜け落ちている時だろう。
ニールの両親が死んだ後の記憶……。
あの日、あの時に何があったんだろう?
カルディアは何か知っているようであったが。
んー……思い出せん。
ニールはしばらく夢の中……白い空間を漂っていると、意識が飛び現実世界で目を覚ますのであった。
場面が変わって……ここはどこか、窓はカーテンが締め切られて、小さく揺れる蝋燭の火が灯りとなっているだけで、ほろ暗い部屋の中。
「反応があった。おほ、すごい力を秘めている。聞いていた通り」
部屋の中では黒いローブを纏った女性が一人、水晶に手をかざしながら、水晶の中を覗き込んでいた。
「これこそ、私が探していた……私の最愛の男と偉大な父の命を奪った最後の勇者だわ」
黒いローブを纏った女性は眉間の皺を深くして怒りを露わにする。
「必ず……必ず見つけ出して……殺してやる」
首を横に振って座っていた椅子から立ち上がった。水晶に手を乗せて……不敵な笑みを浮かべる。
「いや、相手は父を殺した勇者だ。確実に殺すには……いろいろ準備しておいた方がいいかしら。ひひひ」
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