第63話 武器屋へ。

 七日後。


 本日はニールの休息日であった。


「フェンリーに会う約束しているが。また忘れるのもアレだし……まずはナイフを武器屋へ買いに行くかぁ」


 ニールは前の休息日と同じくクレッセンの街の通りを歩いていた。


「だいぶ人が減って……歩きやすくなったな」


 ニールの呟いた通り、クレッセンの街の通りを歩く人数は減り、アーレスパーティーによって浮足立った空気はなくなっていた。


「と、武器屋はこっちだ」


 シャロンが書いてくれた地図をもとにふらふらとクレッセンの街を歩いていると二十分ほどで武器屋へとたどりついた。


 その武器屋は周りと同じような建物であるものの古くさびれた雰囲気があった。


 ただ、外からでも店内に武器が大量に置かれていることが見て取れ……品数はいいようであった。


「へぇ、ここが武器屋か。予備や練習用を含めて最低で三本はナイフもしくはレイピアを買っておきたいな……いや、無理にここで買わずとも……品揃えや値段次第では王都で買うことを検討してもいいか」


 ニールは武器屋の扉を押して店内へと入っていった。


「おいおい、誰もいないんだけど」


 ニールの言葉通り店内はほかに客がおらず……さらに店の店主も見当たらず店がやっているのかわからない状態であった。


「大丈夫かよ。飾っている武器が盗み放題では……?」


 不安げな表情を浮かべたニールは……きょろきょろと店内を物色しながら、カウンターへと近づく。


「やっぱり居ないよなぁ。店員とか……店の奥に気配が……あの! 店の人はどなたか来てもらえませんか?」


 ニールはカウンターの奥にある部屋へと呼びかけた。しかし、返事はなかった。


「……おいおい大丈夫か? あの! どなたか!」


 再びニールが呼びかけるとカウンターの奥の部屋でドタッドタドタと何か音が聞こえてきた。


 そして五分ほどして、眠たげなようすの赤髪の女性が顔を出した。そして、ニールを見るや気だるそうに口を開く。


「んあ? なんだよ。ガキ」


「……いや、武器を買いに来たんだけど。ここ武器屋だよね?」


「そうだが。お前には早い。帰れ」


「確かに、そうなんだけど。仕事で使うから」


「仕事だぁ? バカ、お前みたいなガキが武器を持っても逆にあぶねーだけだ。その仕事やめとけ」


 まったく取り合ってくれない口の悪い女性の店員に対して、ニールは少しムッとした表情を浮かべ腕を組んだ。


 ……はぁ、面倒臭いな。


 いや、どこの武器屋でもこんな感じの対応なのだろうか? 


 まぁ、どう見ても俺は子供だからなぁ。


 確かに子供にナイフなど武器を売るのはどうかと思うかも知れない。


 しかし、どうしたもんか……。


 こんなことなら誰かと一緒に来てもらえばよかった。


 王都に帰った後で、時間に余裕のできたシャロンについてきてもらうか?


 一応、ここで交渉を続けてみようか。


「どうしたら、武器を売ってくれる?」


「いや、だからガキには売らねぇーって」


「んー」


「はぁーそもそも……お前みたいなガキができて、ナイフが必要な仕事ってどんなんだよ? 冒険者か? 悪いことは言わんお前にはまだ早い。五年後にまた来るんだな」


 女性の店員は相変わらず気だるそうであったものの、やれやれと言った感じで問いかけてきた。


 ……完全な子供扱い。


 まぁ、気持ちは分からないでもないが。


 ここでリリアお嬢様の護衛であることを話したところで。


 真実を話したところで信じられるか?


 俺って……どう見ても貴族令嬢の護衛には見えないもんなぁ。


 疑われて……詮索され……時間を無駄に消費するもの面倒だ。


 出直すか。


 一応、ナイフとレイピアの相場を聞いておくかな?


 売る気がないのなら、ぼったくりの価格を提示することはないだろう。


「……分かったよ。日を改める。ただナイフとレイピアの相場を教えて」


「んあ?」


「次に来た時にぼったくられるのは嫌だし」


「お前なぁ」


「いいから、教えてよ。暇でしょ?」


「あのなぁ」


「客がいないからって、店内に店員が居ないと商品盗まれるよ?」


「はぁーそうだな」


 女性の店員は大きくため息を吐く。


 そして、武器が仕舞われていた棚からナイフとレイピアが数本取り出してカウンターの上に置く。


「いくら?」


「こっちのナイフ……数打ちの相場は五千グルドから一万グルドってところだな。それでレイピアの数打ちは五千グルドから一万五千グルドだな」


「へぇナイフもレイピアも安い奴だと五千グルドで買うことができるのか……」


「買えるがあまり安物買いは勧められないがな」


「そうだけど。ナイフなんて使い捨てだよね?」


「まぁ……確かに」


「ん? このナイフ……」

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