第8話 『決着』
理事長室の中を見渡した。
奥の机の向こうに、白髪の優しそうなおじいさんが座っている。
「ふむ……。君たちはいったい誰だね?」
何事もなかったかのようにおじいさんは話しかけてきた。
このおじいさんが理事長……?
まさか、僕の勘違いだったのか?
こんな優しそうなおじいさんが魔物のボスだなんて……。
「騙されないぞ!? 正体を現せ! 化け物め!」
「そうだ! そうだ! レイ! もっと言ってやれ!」
「な……、何言ってるの? 本当……、この人……、意味がわかんないわ!」
希依ちゃんも理事長のその姿に違和感を感じているようだ。
「き……、君らは一体、何を言ってるんだぁい!? 子供がこんなところに来ちゃ……、イケないだろう?」
なんと、そう言ったおじいさんの口から牙がちらつき、顔がだんだん悪魔の顔に変わっていく……!
やはり……!
魔物のボスが化けていたんだ!
"
「抵抗は無駄だぞぉ……? すぐにここに貴様らを捕まえに大勢が駆けつけてくるぞ? 逃げ場はない……。おとなしくするんだ……。」
理事長の悪魔がいやらしい声で、僕に話しかけてくる。
「だれが……! おまえなんかの言うことを……。」
「そうだ! レイ! やってやれ! みんなの平和を守るんだ!」
フーリンも応援してくれている。
希依ちゃんも怯えた眼でこちらを見ている。
不安がらせちゃいけないな。
男を見せろ!
「うぅわあああーーーーっ! 死ねぇえーーーっ! この悪魔め!」
僕は拳銃を出し、悪魔に照準を合わせると、思い切って撃った。
ガァアアアーーーーァ……ン……
その撃った直後の反動で、僕は後ろにのけぞった。
「そ……、そん……な……?」
その撃った弾は見事に、理事長の悪魔の胸を貫き、悪魔が血を吐きながら、前のめりに倒れ込んだ。
「やった……! 倒したぞ?」
「よくやったぞ! レイ!」
「な……、なんてこと……?」
フーリンは喜んでいるが、希依ちゃんはまだ信じられない……といった表情をしている。
「大丈夫だよ。希依ちゃん……。もう安心して。すべて済んだんだ……。」
まだ震えている希依ちゃんを連れて、僕は部屋の外に出た。
なぜか病院内は静寂に包まれていたが、僕らは構わず、外を目指す。
だが、病院の玄関に来たところで、魔物たちがこの病院を取り囲んでいることに気がついた。
「おまえたちは、包囲されているぞ? おとなしく出て来るんだ! もう逃げられないぞ?」
見ると、モノクロの魔獣をたくさん引き連れた悪魔の軍団が包囲している。
「マジか……!? どうしよう……?」
「レイ……。俺たちはもう何があってもいい。この子は巻き添えにはできないだろう?」
「ああ。そうだな。さすがはフーリン。おまえは本当にカッコいいよ。」
「ふん……。俺はおまえに影響されたんだよ!」
「ふっふっふ……。」
「はっはっは!」
希依ちゃんが不安げに僕を見た。
「大丈夫さ。言っただろ? 君は僕が守るって……。」
「そんな……! もう抵抗は無駄よ?」
「ふふふ……。最後くらいは男にカッコつけさせてよ。」
僕はそう言って、拳銃を取り出し構える。
拳銃の弾丸は残り数発しかない。
玄関のバリケードを越えて、僕は外の様子を伺えるところまで出た。
まるで魔物たちの軍隊だな。
空は暗く、世界が魔界に飲み込まれたんだなぁと改めて思い知らされる。
しかも、ものすごい数の武装した魔物たちが軍隊のように取り囲んでいる。
そして、その周りをさらなる魔物たちが大勢でこちらを見ているのだった。
もうこの世界に安全な場所なんてないのだろう……。
たとえ、一瞬、この場で僕が抵抗したとて、希依ちゃんもその後、助かる道はないのかもしれない。
だけど、だからといって、僕がこの場からたったちょっとの時間を稼いで、少しでも彼女を守りたい……って思う気持ちは無駄とは思いたくない。
そう……。
最後まで、僕は人間らしく生きていたいんだ。
こんな終末世界の世の中でも……ね。
なにか、いろいろなことを思い出す。
父さん、母さん……。
彼らにはお返しができただろうか……?
親友の明児……。
彼は変わってしまったが、僕は彼があんなふうに変わってしまったなら、僕の手でトドメがさせたのはある意味、後悔はない……。
学校のみんな……。
明児らと一緒で仲間だった御手や傘下、剴屋たちも学校での惨劇に巻き込まれた。
一瞬で死んでしまったなら、苦痛を感じることもなかっただろう。
まだそれが救いであったと信じたい……。
「もういいか……? レイ?」
「ああ……。フーリン。」
思えば、このフーリンが一番付き合いが長い。
ものごころついた時からの友達。
ずっと一緒に行動を共にしてきた本当に一心同体だったようだ……。
今もなお、最後のときも一緒に行ってくれるというのだ。
「さあ! 最後くらい、あの魔物どもを一匹でも多く、道連れにしてやろうぜ!!」
「ああ!」
僕はそう言うと、バリケードから外に出て、魔物の軍隊に向けて、銃を撃ちながら突進したのだった。
「うわぁああああーーーーーーっ!! 死ねぇーーーーっ!!」
バン……!
バンッ!
バンバンッ……!
「きっひひ……! こいつめ! 抵抗するか? 撃て撃て撃ちまくれぇえええーーーっ!」
武装した魔物どもも反撃してきた。
「撃て!」
「撃てぇ!」
パパパパパパパパー……ン……
い……、痛い……。
どうやら、全身を魔物の攻撃で撃たれたようだ……。
目の前が赤く……。
赤く……。
染まっていく……。
「おい! レイ! しっかりしろ! 死ぬんじゃあない!」
「フ……、フーリン……。ぼ、僕はもうだめなようだ……。」
「ちくしょぉ! おまえがいなくなったら、俺はもう生きていけない……。」
「フーリン……。こんな僕に最後まで付き合ってくれて……、あり……がと……。」
「くぅ……! もう喋んじゃねえ! 俺もおまえに付き合ってやる!」
「ふふ……。やっぱり、僕……らは、いつも一緒だな……?」
「ああ! そうさ! 死ぬときも一緒だ!」
「うおおおおーーーーっ! おまえら! よくも! レイを!!」
僕は薄れゆく意識の中で、フーリンが最後の雄叫びをあげるのを聞きながら……。
この世の中が平和な世の中になることを……。
祈るしかなかったんだ……。
「助けてぇええええーーーーっ!!」
最後に僕の耳に聞こえたのは、希依ちゃんの絶叫とも思える切ない叫び声だった……。
~ エピローグへ続く ~
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